候補者たち
「あなたたち、大丈夫?」
ジョセフィンがアンとケイトに尋ねた。聖女、勇者の候補者として紹介された後、控室に案内された。
アンとケイトはソファーにぐったりと座っている。
「治癒魔法をかけますよ」
ヴィオラが言うと、アンとケイトは手を横に振った。
「大丈夫。魔力の使い過ぎとか、疲労とかじゃないから。緊張で気疲れしただけ」
「王族の使用するバルコニーで挨拶なんて、普通、ないから」
「イアンやライルは平気なんだな」
ジョージが尋ねる。
「は、騎士として、身分の高い方の護衛につくことは普通だと思っていましたので」
ライルがかしこまる。
「緊張していますし、気疲れしています。ただ、表には出さないようにしているだけです」
イアンの片眼鏡が光ったような気がした。
「やっぱり、緊張するよね」
ヴィオラが同意すると、みんなが笑い出した。
「ちょっ、なんで笑うの?」
「緊張という言葉が一番似合わないからよ」
ジョセフィンが言い切る。
「ねえ、私たちだけの時は敬語をやめない? 学園にいる時と同じように身分を問わないということで。マナーもちょっと、さぼりましょうよ」
ジョセフィンが提案すると、アンとケイトは顔を見合わせた。
「いいんでしょうか?」
「かまわぬ。許す」
ジョージ王太子が言うと、アンとケイトがソファーにだらりと伸びた。
「聖女はヴィオラ、勇者はジョージということで、候補者はそれをカモフラージュするためのものですよね?」
イアンが確認する。
「母の思惑はそうだ」
ジョージはそう言って、ヴィオラを見た。どうやら、ヴィオラの思惑を話せと言っているようだった。
「あの、カリーナ神は誰が聖女だとか、勇者だとか言ってないので。それに友達と共に進みますって言ったら、それでかまわぬとおっしゃってました。だから、みんなと一緒に魔王の復活と戦いたいんです」
ヴィオラは正直な気持ちを言った。
「わかったわ」
ジョセフィンがうなずいた。
「一緒に戦うのに賛成よ。ちょっと、友達という言葉にがっかりした方もいるかもしれないけど、一緒に戦うのに問題はないでしょ」
ジョセフィンはなぜか、男子の方を向いて言った。
「「「もちろん」」」
男子が声をそろえた。
「私が戦えるかしら」
ケイトが少し不安そうに言った。
「歌で治癒魔法以外も広められないか、確かめてみましょ」
アンが言った。
「身体強化魔法を広められたら、いいかもしれない」
イアンが考え込んだ。
「ミューラー先生を講師にお願いすればいいかもしれない」
「わかった。父に進言しておく。他にも魔王を復活させないため、復活しても勝つために必要だと思われることは何でも言ってくれ」
ジョージが言い切った時。
ガチャ。
急にドアが開き、アンとケイトは慌ててきちんと座り直した。
「兄上! 今日は候補者の方に泊まっていってもらうようにって、母上が」
飛び込んできたのはクリスだった。
「泊まる?」
「うん。予想以上に騒ぎになってしまったらしい。候補者とお近づきになりたい貴族たちが待ち伏せしているって。だから、学園が始まって寮に戻るまでは、ここにいたほうがいいって。ジョセフィン様は身分が高いから大丈夫だけど、ライルさんとかは狙われるよ。娘の婿にって」
「そんな。せっかく、休みを家族と過ごせると思ったのに」
ヴィオラにクリスがトコトコと近づいた。
「おねえさま、ご家族をここに呼べばいいんですよ」
「お、おねえさま?」
クリスの言葉にライルが驚く。
「みんなをからかって楽しんでるだけだから、気にしないでくれ。大体、知らせにくるのがお前というのがおかしいだろう」
ジョージが頭を抑えた。
相変わらず、クリスに振り回されているようだった。
「執事に代わってもらったんだ。あ、どなたもご家族と会いたい方は呼んでもらって大丈夫ですよ。それから、手紙を渡すこともできますので」
それから、すぐに本物の執事がやってきた。
「クリス様、勝手な行動はおやめください」
軽く注意してから、きれいな礼をした。
「これから、皆様のお部屋を案内させてもらいます。それから、陛下が食事を一緒にとりたいとおっしゃっていますので、ご準備をお願いします」
気疲れのある食事が待っているということでアンとケイトの顔が暗くなる。
「大丈夫よ」
ジョセフィンが二人を励ました。
案内された部屋にはメイドたちが待っていた。
「ヴィオラ様、まずはお風呂をどうぞ」
ヴィオラは知っている。メイドがこう言う時は素直に従うのが一番いいことを。
そして、さすが、王宮のメイドたちの腕はすごかった。恥ずかしいと思う暇もなく、裸にされ、お風呂で肌を磨かれた。マッサージはミヤの腕を遥かに上回り、最高に気持ちよかった。
そして、可愛らしいフリフリの淡いピンクのドレスが用意されていた。きっと、王妃様が選んだドレスだろう。
着替えたヴィオラは前世のフランス人形のようだった。




