発表
毎年、新年の祝福の日には王宮で王族の挨拶が行われる。この日だけは平民も王宮の外苑に入ることを許されるため、王都では毎年の恒例行事として人気が高い。
だが、今年は例年とは空気が違っていた。王から重大な発表があるということで、いつにも増して、大勢の人が詰めかけていた。
噂ではいよいよ王太子の婚約者が発表されるのではないかということで、街は朝から浮き立っていた。
バルコニーに王族が並び、一人一人挨拶を終えると、民衆へ向かって手を振る。
ジョージはクリスと一緒に並んで手を振っている。
それにしても、キラキラした兄弟だなとヴィオラはバルコニーの奥から眺めていた。今日のヴィオラは学園の制服に白いケープをまとっている。
「重大発表が魔王復活の兆しだって知ったら、みんな、がっかりするわね」
王太子の婚約者と目されているジョセフィンがつぶやいた。ジョセフィンもヴィオラと同じ装いだ。ヴィオラより背が高いせいか、ケープをまとっていても、すらりとして見える。
やがて、王が一歩前へ進み出た。
「我が民よ」
深く、よく通る声だった。
ただ大きいだけではない。王として国を背負ってきた者だけが持つ重みが、その一言に宿っていた。
「新しき年の始まりに、皆がこの王宮へ集い、我らと共に祝福を分かち合ってくれたこと、心より嬉しく思う」
民衆の間に、安堵と期待の入り混じった空気が広がる。
王はゆっくりと外苑を見渡した。
「本来であれば、今日は喜びのみを語るべき日であろう。だが、王として、私は民に真実を告げねばならぬ」
その言葉に、ざわりと人々が揺れた。
王の後ろに控えていたベネディクトが、静かに歩み出る。
白い神官服が陽光を受け、淡く輝いて見えた。
「この者は、ベネディクト神官。カリーナ神より、直接神託を賜った者である」
一瞬の静寂の後、外苑に大きな歓声が湧き上がった。
神託を受けた神官――その言葉は、人々に畏敬と興奮をもたらすに十分だった。
だが、ベネディクトが片手を上げると、歓声は不思議なほどすぐに静まった。
「カリーナ神の御言葉を、ここにお伝えいたします」
ベネディクトの声は穏やかだった。
しかし、その静けさの奥には、聞く者の背筋を正させるような厳かさがあった。
「闇は、再び地の底より目覚めようとしております」
誰かが息を呑んだ。
「魔王復活の兆しがあると神がお告げになりました」
悲鳴が上がった。
歓喜に満ちていた広場は、たちまち恐怖と混乱に包まれる。
だが、ベネディクトは声を乱さなかった。
「恐れてはなりません」
その一言が、不思議と人々の心を押しとどめた。
「カリーナ神は、我らを見捨ててはおられません。聖女を育て、各地に生じる穢れを祓うことで、魔王の完全なる復活は阻まれる、とお告げです」
人々のざわめきが少しずつ収まっていく。
ベネディクトは片手を胸に当て、空を仰いだ。
「神はおっしゃいました。たとえ、魔王が復活しようとも、聖女と、聖女が選びし勇者が在る限り、恐るるに当たらずと」
王が再び前へ出た。
「今、我が国は大いなる試練の前に立っている」
王の声が、再び外苑に響き渡る。
「だが、我らは膝を折らぬ。恐怖に背を向けることもせぬ。神の御言葉に従い、聖女と勇者を育て、この国を、そしてこの大地に生きるすべての民を守り抜く」
民衆は静まり返っていた。
誰もが王の言葉を聞き逃すまいとしている。
「そのために、すでに候補者を選んでいる。今日、皆に紹介しよう」
王は、力強く名を呼んだ。
「アン、ケイト」
アンとケイトがバルコニーに進み出た。優雅にカーテシーをすると、歌を歌い始める。歌に乗って治癒魔法が広がり、民衆に降り注いでいく。それは聖女の力を示すためだった。
「ジョセフィン、ヴィオラ」
ジョセフィンとヴィオラもバルコニーに出て、カーテシーを行った。
歓声が上がったのはジョセフィンが誰であるか、知っている民衆が多かったからだろう。
「イアン、ライル」
二人がバルコニーに出て、挨拶をする。男子はケープではなく、もう少し丈の長いマントを羽織っている。
「ジョージ」
ジョージ王太子が参加すると、さらに歓声が大きくなった。
王が左手をジョージの肩に乗せた。
「彼らはまだ若い。だが、神の導きのもと、この国の未来を担う者たちである」
王は右手を掲げた。
「彼らに祝福を。彼らの歩む道に光を。そして、我らの明日が、魔に奪われぬことを」
王の言葉にベネディクトが声を重ねる。
「カリーナ神よ。祝福を」
「「「祝福を」」」
その間もずっと、アンとケイトは治癒魔法を歌に乗せていた。今日、閲覧に来た人はみんな健康になって帰ることだろう。
王の威厳やベネディクトの真摯な態度にヴィオラは気圧されていた。
「これがカリスマか。リーダーシップがある人ってすごい。憧れるな」
ヒロインとして頑張ってきたつもりでも、リーダーシップは不足していたかも知れない。
「ヴィオラには充分リーダーシップがあるよ」
ジョージに頭をポンポンされて、ヴィオラは固まった。




