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【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい  作者: 椰子ふみの
ヒロイン編

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グルメ

「お祭りの日みたいだね」


 そう言うレイフは木剣を手に歩いている。店員が配達しようかと言ったのを断って、手放そうとしない。物騒な姿だが、子どもなこともあり、まわりの目は温かい。


「屋台はいつでも出ているの。新年だからじゃないのよ。さすが、王都でしょ」


 ヴィオラは胸を張る。ほとんど、学園の中で過ごしているので、街のことに詳しいわけでもないくせに。


「昔、一緒に行った店はまだあるかな」

「行ってみましょうか」


 ハイラムとマドラはデート気分だ。


「別行動にします?」


 ヴィオラが尋ねると、二人は首を振った。


「何、言ってるの。今日は家族みんな一緒っていうのを楽しみにしてたんだから」

「次のおすすめはどこかな?」


 ハイラムから尋ねられ、次のおすすめを考えていなかったヴィオラは焦った。


「私のおすすめでもよろしいでしょうか?」


 ミヤがずいと前に出た。


「食べ放題のお店ですが」

「食べ放題?」

「もちろん、時間制限はあります」

「面白そう」

「行ってみよう」


 まだ、時間が早いせいか、店は空いていた。


「店長!」


 ミヤの顔を見たとたん、店員が奥へ走った。すぐに店長が現れ、ミヤに頭を下げる。


「すまない。お願いだ。今日は帰ってくれ。新年に売り切れで店を閉じたくないんだ」


「ミヤ、あなた、一体、何をしたの」


 マドラが尋ねる。


「好きなだけ食べただけです」

「それが普通の量じゃないんだよ。うちの店はつぶれちまう。おまけに」


 店長はハイラム、マドラ、ヴィオラ、レイフをじっくりと見た。


「さらに四人増えるなんて。なあ、あんたたちも同じくらい食べるんだろう」

「いや、俺はもうちょっと、食べるかな」


 ハイラムが頭をかく。

 店長が絶望の顔になった。


「あの、食べ放題じゃなく、一人三皿までなら構いませんか?」


 レイフが口を挟んだ。


「せっかく、カレイドルに来たので、美味しいものが食べたいんです」


 都会の美味しいものに憧れる田舎の子どものような感じを出しているが、年末年始、ずっと、王宮料理を食べて来ているのだから、すごい演技力だ。


「三皿? 四皿じゃ駄目かな?」


 ハイラムがレイフに尋ねる。


「そ、そのくらいなら、大丈夫です。男性は四皿、女性は三皿で……」


 と、言いかけた店長が女性陣の視線の圧力に口を閉ざした。


「すみません、全員、四皿までなら」


 それで納得して、一行は席についた。


「ちょっと、残念。どこまで食べられるか試したかったな」


 ヴィオラが言うと、マドラが諭した。


「お店に迷惑をかけてはいけません。食事に困っているわけでもないのですから。ここだけじゃなく、全員、どの店でも食べ放題は禁止です」


 身体強化すると、カロリーを消費するのか、お腹が空いてしょうがない。


「魔力を補うのに食事以外のものがあればいいのに。魔道具に魔石を使えるみたいに」

「姉様、それ、面白いですね」


 レイフが目を輝かせた。


「魔石は道具にしか使えないと思っていたのですが、人に使えるとなったら、可能性が広がります。ただ、どう、人体に吸収させればいいのか」


 夢中になって、考え始めた。


「レイフ、こんなところで研究を始めないでね」


 マドラが注意するうちに料理が運ばれてきた。


「気を使っていただいたようですね。少し大盛りになっているようです」


 ミヤが報告した。


「それじゃあ、料理代金も少し色をつけなきゃな」


 ハイラムがモリモリ食べながら言った。


「食べ放題のつもりだったので、足りない気がします」


 あっという間に食べ終わって、店を出ると、レイフが不満そうに言った。


「まあ、屋台の食べ歩きでもいいじゃない」


 と、それから、目についた料理はすべて食べていく感じになる。

 その途中でピンク色の屋根の店が目についた。


「お、フラン堂だ。支店、もう出したんだ」


 レイフがパッと店に近づく。

 店の前には大きく湯気が立っていて、ジムが接客している。


「これ、何ですか?」

「マ、マドラ様」


 ジムは飛び上がった。


「あー、お忍びということで普通に接してもらえないかな」


 ハイラムの言葉にジムはこくこく頷いた。


「グラント領では普通に接してくれたのに」

「いや、カレイドルは王都でプライドの高い貴族が多いから、接客に気をつけるようにって、マナー講師までつけてもらったので。……ちょっと、緊張するようになってしまいました」


 そう言いながら、ジムは一つの袋に一つずつ、白い柔らかそうなパンを入れる。


「これ、カレイドル支店限定の蒸しパンです。よかったら試食してください」


 すごい。ジムは企業努力をかかさないようだ。


「何、これ、美味しい!」


 ヴィオラは驚いた。前世のチーズ蒸しケーキに似ている。それがホカホカと暖かく、口に入れると、溶けてなくなっていく。

 ふと、店の奥をのぞくと、アリアナの姿が見えた。お腹が大きくなっている。

 もう、ヒロインは自分なんだから、大丈夫だと思っても、ジムやアリアナの無事を確認できて、ヴィオラはホッとした。


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