土産
「さあ、今日は私がカレイドルを案内するね」
ヴィオラは張り切っていた。一応、みんなお忍び用の格好になってもらった。
コンセプトは田舎から来た金持ちの商人だ。
ヴィオラならともかく、マドラは品が良すぎて、普通の平民にはなれない。
「これじゃ、悪徳商人っぽくないか」
ハイラムが鏡に映った自分を見て、眉を下げた。
毛皮のマントはグラント領で身につけているものだが、金のじゃらじゃらとした鎖で止めただけで勇敢な領主ではなく、成り上がりの商人に見える。
中のシャツがシルクサテンのようにツヤツヤした生地だからかもしれない。
「すみません、設定と体格に合う古着がこれしかなかったんです」
服を調達したミヤが頭を下げるが、わざと面白がってそうしたのではないかとヴィオラは疑っている。
というのは、マドラの服装は上品で少し古めかしい。まるで、没落貴族が借金のかたに娘を成金に嫁に出したような雰囲気だ。
そして、ヴィオラはピンクの髪を隠すため、毛糸の帽子をかぶったら、年齢より小さい子どもの姿になってしまった。レイフもいつもより子どもっぽい姿で、いつもの姿なのはミヤだけだ。
「確かに貴族には見えないけど、もっと、イメージをよくしてくれてもいいのに」
ヴィオラは口を尖らせた。
「カツラが苦しいとおっしゃるから」
ベネディクトがピンクの髪の聖女が現れたという噂が広がっていると言っていたため、髪を隠そうと最初はカツラをかぶってみた。
それが髪が多いせいか、どうも重苦しくてヴィオラは耐えられなかった。帽子は少し伸縮性があるから、平気なのかもしれない。
「仕方ない。じゃあ、出発!」
ついて行くのを断られ、不満そうなブランを残し、出発だ。
昨日、降っていた雪は溶けた後、ぬかるみにもならず、乾いている。
「まずは学校の裏山へ」
ヴィオラの言葉にミヤは何か言いたそうだったが、黙っていた。
「ここがライル君やブランと訓練していたところなんだね」
「なかなかいいじゃない」
ミヤを含め、全員、身体強化を身につけているので、簡単に山を登ってしまう。
「こっちから、街を見下ろせるの。おすすめ」
ヴィオラはおすすめの大木に案内する。ミヤ以外はスルスルと木に登った。
「本当。きれいね」
「すっごい広い。お城も神殿も大きいね」
「うむ。こうやってみると、防御に適した形のに城門や砦を配置してあるな」
「おもしろいでしょ。上から見て、行きたいところある?」
「今回、王都に来るため、文官たちの仕事が年末年始なのに増えてしまった。だから、彼らには特別な土産を買いたいのだが」
「それなら、いいところを知っています」
ヴィオラたちはまた、スルスルと木を降りた。
街中に戻って、ヴィオラが案内したのはイアンに教えてもらった水晶玉の買える店だった。
「いらっしゃいませ。あら、ヴィオラ様ですね」
店長のキーラはすぐに気づいた。
「はい、今日は両親と弟も一緒です」
「初めまして。店長のキーラです。お望みがありましたら、気軽におっしゃってください」
ヴィオラがここでは隠す必要はないかと帽子を脱ぐと、キーラは目を見張った。
「なるほど。イアン様がお連れになった時点で只者ではないと思っていましたが」
人には聞こえないような小声で呟くと、キーラは笑顔で対応する。
「お好きに見て回っても構いませんし、気になる物がありましたら、おっしゃってください。店頭に出していない物もございますので」
「父様、文官の方たちへはガラスペンはどうですか?」
「ガラスペンか。書き味のいいものを十本ほど見せてもらえるかな」
「はい、お待ちください」
ハイラムは書き味が気に入ったのか、自分の分や予備も含めて二十本のガラスペンを買った。
マドラにはまた、王妃様から呼ばれても大丈夫なように新しいアクセサリーを。ヴィオラにはレターセット。ミヤに頼らず、手紙を書けということらしい。そのミヤは何でも買ってもらえるというと、アイロンの魔道具を買ってもらっていた。温度が自動調整らしい。
「で、本当にそれを買うの?」
マドラは呆れたようにレイフに言った。
「いや、私も初めてカレイドルに来た時は買ったものだ。みんなそうなんだよ」
ハイラムが擁護すると、レイフは喜んで、大事に抱いていた木剣を突き上げた。
前世で修学旅行のお土産に木刀を買う男子がいたようにこの世界でも定番らしい。
「それにしても、本物の剣を持っているのに、なぜ、木剣が欲しいの?」
ヴィオラにはわからない気持ちだった。




