新年
「姉様! 新年おめでとうございます」
「おめでとう。もう、何なの、レイフ。女性の部屋にノックも無しに入るなんて」
レイフはベッドから出てこようとしないヴィオラの布団を引っ張った。
「こら、何するの。今日は私は朝寝坊するの!」
新年くらい、修行はパスと思って、ライルたちにも休みだと言ってある。
「ねえ、起きて。一大事なんだから」
ヴィオラは慌てて起き上がりかけたが、動きを止めた。
「一大事って何が?」
「雪、雪が降ってる」
「珍しくないでしょ」
グラント領は雪が多い。新年の頃は足が埋まるぐらい雪が積もっている。
「カレイドルの雪はおしゃれなんだ。ふわふわですぐ消える。すごいから姉様も見て」
「はい、はい」
久しぶりにレイフの子どもっぽい姿を見て、ヴィオラは嬉しくなった。
レイフを部屋から追い出すと、急いで暖かい格好に着替える。
「新年おめでとう」「おめでとう」
両親やミヤだけじゃなく、出会う人みんなに挨拶しながら、外へ出た。
屋根や道のはずれが薄っすら白くなっている。人や馬が通る道の真ん中は溶けているが、石畳なので歩きやすい。
「グラント領だと、雪が溶けたらドロドロだもんね」
長靴がいらないなんて、さすが都会だとヴィオラは感心した。
「姉様、ほら」
宙を舞っている雪はふわふわの大粒だ。
命に関わるようなグラント領の雪と違って、優しい姿だ。レイフが手のひらで受け止めると、すうっと溶けていった。
「本当」
この冬、初めて見る雪だ。
子どもたちが雪を丸めているが、少ない雪をかき集めているので、真っ白じゃなくなっている。
「グラント領だと大きいのを作れるのになあ」
「姉様、グラント領だとすぐに雪が嫌になりますよ」
そうかもしれない。
グゥー。お腹の音がした。
「お腹空きました」
レイフが赤くなった。
みんなより早く寝たから、お腹が空くのが早いのかもしれない。
「朝ご飯も王宮料理らしいから、戻ろうか」
宿の中に入ろうとした時、わあっという歓声が聞こえた。
声の方を見ると、煌びやかな馬車が走っていた。
馬車の中から何か小さな物が撒かれているから、みんな必死で拾っている。
「姉様、飴撒きだ」
喜びを分かち合うということで、祝い事にはよく飴が撒かれる。
ただ、馬車の向かっている先はどう見てもマズルカ旅館だ。
「誰かわからないけど、私に会いに来たんだと思う」
ヒロインになったんだから、仕方ないんだろうとヴィオラは普通でいることを諦めている。
慌てて玄関まで戻ると、予想通り、馬車はマズルカ旅館の前で止まった。
最初に二人若い神官が降りてきた。
それから、次に煌びやかな衣装の神官が降りてきた。
「ヴィオラ様、新年おめでとうございます」
ベネディクトだった。ヴィオラの前に膝をつこうとするから、慌てて止めた。
「おめでとう。ベネディクト、お願いだから、普通に接して」
手を取って引っ張り上げると、今度はヴィオラの手を拝む。
「孤児院への施し、ありがとうございました」
貰い物を回しただけと思っているので、感謝されるとヴィオラは困ってしまう。
さっきまで飴を拾っていた人たちがみんな見ている。
「あ、あの、とりあえず、中へ」
中に入ってもらうと王宮からもらったお菓子を出す。
若い神官たちが嬉しそうに手を伸ばした。
「今日はどのようなご用件でしょうか」
「聖女の教育係になりましたので、ご挨拶に参りました」
「あの、まだ、お聞きではないのでしょうか? 私は神殿ではなく、ハーモニー学園に通い続けるのですが」
「いえ、聞いております」
ベネディクトが笑顔になった。
「休み明けから、ハーモニー学園の講師として、私が教育させていただきます」
何だか、今年もイベント山盛りになりそうだなとヴィオラは思った。




