年越し
「それでは乾杯!」
ハイラムがグラスを高くあげた。
「乾杯!」
家族揃っての年越しパーティ。
ヴィオラは慎重に飲み物の匂いを嗅いでから口をつけた。
もう、二日酔いはごめんだ。前世と違って、お酒にあまりにも弱い。大人になったら変わるだろうか。
「それにしても、年末、こんなに忙しくなるとは思わなかったわ」
マドラもワインを飲んでいる。
「まあ、ヴィオラお嬢様のすることですから」
しらっとミヤが言う。
「今日は仕事をしなくてもいい上、パーティにも混ぜていただき、ありがとうございます」
「ミヤは大事なグラント家の一員ですもの」
元々、グラント領で年越しパーティする時も雇い人は全員参加だ。
「ねえ、姉様、もうお休みの間、ゆっくりできる?」
レイフはヴィオラに尋ねた。
「た、たぶん」
あれから、ベネディクトから連絡は来ていないので、ホッとしている。
家族だけで過ごせるとは思っていなかったので、ヴィオラは嬉しくて仕方なかった。
「たぶん? 僕が来たのに姉様、ずっと出歩いてるんだもん。新年ぐらいは一緒にいてよ」
「わかった。わかった。それより、ほら、魚料理を食べなさい。グラント領では食べられない海のお魚よ」
ヴィオラはテーブルを指差した。
テーブルの上の料理は飾り付けも華やかで彩りもいい。素材も料理人も超一級。
「うん、本当に美味しい」
前世で味わったのと同じような新鮮な魚を国一番のシェフが料理をしたのだから、美味しい以外の言葉は出てこない。
「確かに美味しい。姉様のおかげだね」
レイフは素直に喜んでくれてよかったなと思う。
王宮から料理を贈る話が来た時は驚いた。しかも、それがジョージからでも王妃様からでもなく、料理長のたっての希望と聞いて、もっと驚いた。
クリスがジョージにゲンコツを落とされた時、つい治癒魔法を使ってしまった。その範囲が広かったせいで、お茶菓子の仕上げをしに来ていた料理長までかかったらしい。
「おかげさまで腰痛が治りました。ぜひ、年越しのパーティーの料理は私に作らせてください」
いきなり、マズルカ旅館にやってきて、そんなことを言ってきた。
「いえ、あの意図してやったことではないので、気にしないでください」
自分の魔法のコントロールが悪いだけなのだ。それでお礼をもらうというのは厚かましい気がする。
「どうしてもお礼がしたいんです。百人分ぐらいでいかがでしょうか? 前菜からデザートまですべてご用意します」
「百人分? ここには五人しかいないんですよ」
断りきれず、百人分には困ったのだが、マドラの提案で家族の分以外は孤児院に送ってもらうことにした。
最初はカレイドルで暮らしているグラント領出身者の会に提供しようかと思ったらしい。ところが、年越しの料理は王都の料理ではなく、グラント領の料理で楽しみたいと断られたらしい。
「それにしても、忙しい一年だったな」
ヴィオラはしみじみと言った。
ハーモニー学園に入りたくないと騒ぎ、イアンと決闘したり、ライルを弟子に取ったり。
ポチがブランになったり、
ジョージに誘われ、生徒会に入って、アネモネ様と出会い、ジョセフィン、アン、ケイトと友達もできた。トムとピーターとも仲良くなれた。
そして、何と言っても、悪役令嬢からヒロインへの転身。ピンクの髪は慣れないけど、アリアナが幸せに暮らしていてよかった。
そして、乙女ゲーム強制力の元凶、運命の女神の登場。
王様との謁見に王妃様とのお茶会。
おまけに、最後にカリーナ神の登場。
思い返すと。
「色々、ありすぎ」
「事件も姉様のことが好きなんです」
「レイフ、そんなこと言われても嬉しくないから」
ハイラムとマドラが声を上げて笑った。
外から鐘の音が聞こえる。
百八つは鳴らないが、もうすぐ、年が変わる合図だ。
カーン、カーンと間を置いて鳴らされる。その音が止まった。
みんな慌てて、立ち上がった。
沈黙の中、もう一度、鐘の音が大きく響いた。
「新年、おめでとう」
「カリーナ神に感謝を」
「おめでとうございます」
「今年もよろしく」
宿の中からも外からも歓声が聞こえる。
ヴィオラたちはお互いにハイタッチした。小さい頃にヴィオラが広めたグラント領の風習だ。
「今年がいい年になりますように」
マドラの言葉にヴィオラはおおきくうなずいた。




