仲のいい?兄弟
「ごめんなさい。許してください」
クリスが目をうるうるさせると、自分がいじめているような気持ちになって、ヴィオラはため息をついた。
「許します。というか、気にしていませんから」
つい、そっけない言い方になってしまった。
クリスがパッと笑顔になる。
「ありがとうございます。……あの、おねえさまって呼んでいいですか?」
はにかみながら尋ねられると、ラブポイントが0でも、自分を慕ってくれているではとヴィオラは勘違いしそうになる。
「その呼び方はちょっと」
「だって、兄上と結婚したら、僕のおねえさまになるんでしょ。今からでも」
コツン。
目をキラキラさせて言うクリスがいきなり頭を抱えた。
「痛っ」
いつのまにか、ジョージが来て、ゲンコツをクリスの頭に落としていた。
「兄上! ひどい」
「余計なことを言うんじゃない」
「だって、兄上はヴィオラさんが好きなんでしょ」
赤くなったジョージがもう一度、ゲンコツを落とした。
ゴツン。さっきより重い音。
「たんこぶになっちゃうよ」
思わず、ヴィオラは手を伸ばした。
「痛いの痛いの飛んでけ」
あ、やってしまったと思った時にはヴィオラからさーっと光の輪が広がり、消えていった。
「ヴィオラちゃん、今の……」
王妃がおずおずと言い出したところにクリスがピョンピョン跳ねた。
「すごい。もう、痛くない」
「相変わらず、反射的に治癒魔法を使うんだな」
ジョージが呆れたように言った。
「コントロールが上手くならなくて」
ヴィオラは言い訳した。
「ありがとう。肌荒れが治ったみたい」
王妃様が自分の頬をすりすりと触っている。
「これは内緒にしておかないと、女性たちがヴィオラちゃんの元に殺到するわ」
「まさか」
「美に執着する女性って怖いわよ」
美女だから、きっと嫉妬されたりして苦労したんだろうなとヴィオラは思った。
「すごい、治癒魔法が得意なんだね」
クリスが褒めてくれるが、素直に喜んでもいいのか、ラブポイントが0なのを知っているヴィオラは迷った。
ラブポイントが恋愛感情のみなら、好感度は別かもしれない。それならいいんだけど。
「でも、それより、ジョージさんの方がすごいですよ。さっき、魔法で音を遮断していたんですか? 気配もなく近づいてくるなんて。私にもやり方教えてください」
「ああ、もちろん」
「歩き方も違いましたよね」
「あ、ああ」
ヴィオラの熱量にジョージ王太子は押され気味だ。
「兄上の好みは変わってるんだね」
皮肉っぽく笑うクリスの言葉にヴィオラはくすくす笑った。
「もう。お兄ちゃんのことは取ったりしないから、大丈夫だよ」
「な、何を」
「弟って、可愛いですよね。かまってあげないと、すぐに拗ねたりして」
「拗ねてなんかない」
クリスが真っ赤になって抗議した。
「うちの弟もいつもそうなんです」
「いや、レイフ君は姉に対する気持ちが行き過ぎているような……」
ジョージは言葉を濁した。
ヴィオラは首を振った。
「ジョージさんは気づいてなかったんですか。クリスさんはジョージさんのことが好きすぎて私のことを試そうとしたんでしょ」
そうだ。愛するお兄ちゃんに変な女が近づいてきたんだから、意地悪したくなる。だから、ラブポイントも0なんだ。
ヴィオラは勝手に納得していた。
「そうじゃないんだが。いや、まあ、いいか」
ジョージは何か納得した様子でクリスに向かい合った。
「クリス。知らなかった。お前が私のことをそんなに慕ってくれていたなんて。うれしいよ」
そう言うジョージは笑いを噛み殺している。
「兄上、悪ノリしないでください。僕の本心なんてわかっているでしょう」
「ああ、今、わかった。照れなくていいよ」
クリスが反論しようとしても、照れ隠しだとジョージは決めつける。
「本当に仲がいいんですね」
ヴィオラの言葉に王妃は笑いをおさめ、真剣な声になった。
「仲がいい。あなたたち、それで、いいんじゃない? それが本当で」
ジョージとクリスの動きが止まった。
何か自分の知らない事情があるらしいということにヴィオラはやっと気づいた。
「頭にゲンコツを落とすのって、仲が良くないとできないですもんね」
ヴィオラの言葉にジョージとクリスが声を揃えた。
「違う」
その声の揃い方にやっぱり、仲がいいとヴィオラは思った。




