お迎え
「本気の母様、きれい……」
ヴィオラは思わず、声に出して感嘆した。
マドラはグラント領から出ない上、グラント領自体が社交的ではないので、着飾るということがなかった。
もちろん、盛装した姿は見たことがあったが、王宮でのお茶会向けの姿は違っていた。
「女性だけのお茶会の方がおしゃれに気を使わなくては駄目なのよ」
フフフと笑うマドラにヴィオラはなぜか寒気を感じた。
「ヴィオラも可愛いわ」
マドラは目を細めた。
マドラとヴィオラのドレスは華やかなチェリーピンク。どちらもプリンセスラインでお揃いコーデになっている。
「お迎えがいらっしゃいました」
ミヤの言葉に宿を出ると、そこにはきらびやかな馬車ときらびやかな王太子が待っている。
「ジョ、ジョージ。どうしたの」
「ヴィオラが緊張しないようにと母に頼まれてね」
手を差し伸べるジョージの笑顔がまぶしい。
エスコートされて馬車に乗り込むと、マドラの横にミヤ、向かいにヴィオラ、その横にジョージが座る形になった。
広い馬車でも隣だと距離が近い。
「ドレス、すごく似合っているよ」
「ありがとうございます」
髪がピンクになってから作ったドレスだ。ほとんどのところは制服で行くことができるから、慌てて作るのはもったいないと思っていた。特にこのドレスなど髪色が元に戻ったら似合わない色だと思っていたけど、作っていてよかった。
「神殿の件、聞きました」
ジョージが真剣な顔になる。
「マドラ様のご依頼通り、母が動いています」
「ありがとうございます」
マドラが依頼したのはヴィオラを聖女扱いしないことだ。
「それにしても、君の行くところでは必ず、何か起きるんだね」
「私のせいじゃないです」
あの運命の女神のせいだ! と訴えたい。
「トムも一緒だったそうだね。休みの日に会っていたの?」
ジョージの目が鋭い。
これ、もしかして、レノックス帝国とつながっているとかを疑われている? スパイなんかじゃないです。まさか、その線から悪役令嬢のポジションに逆戻りってないよね?
「たまたま、図書館で会っただけです。神殿には勝手についてきたんです。たぶん、暇だったからだと思います」
「ふうん。本当に?」
ジョージはヴィオラを探るように見る。
なぜか、ミヤはにやにやしている。マドラは表情を扇で隠している。
あれ、これ、私を疑っているんじゃなくて、嫉妬している?
ヴィオラは急に顔が熱くなるような気がした。
「本当です。たまたま、出会っただけです」
「ヴィオラ。ベネディクト神官長は?」
「カリーナ神に夢中の変な人です」
そう、ベネディクト神官長が出世欲でも強くて、自分だけが神の声を聞いたと言ってくれたら、よかったのに。聖女なんて、言い出すから、ややこしくなってしまった。
「いや、今は君に夢中らしいよ。まったく、ベネディクト神官長まで虜にするなんて。困った人だ」
そう言って、ジョージはヴィオラの髪を一房すくうと、口づけた。
「ちょ、ちょっと」
ヴィオラが焦っていると、マドラが咳払いをした。
「すみません」
ジョージはあっさりと謝ると、ヴィオラの髪を離した。
「ちょうど、着きました」
ヴィオラがいっぱいいっぱいになっている間に馬車は王宮に乗り入れていた。
今度はヴィオラはジョージの手を取らずに慌てて馬車から降りた。
「すみません、マナーのなっていない娘で」
ジョージの手を取って、マドラが馬車を降りる。
「いえ、やっと、意識してくれたということでしょう」
笑顔のジョージに案内されたのは美しい庭の中心にあるガゼボだった。
白いテーブルにはすでに美しい女性たちが席についていた。
王妃様以外はわからない。と思ったら、イアンの母のプレステル夫人がいた。
「遅くなり、申し訳ありません」
マドラが挨拶する。ヴィオラも慎重に挨拶した。
「いえ、皆様にお願いがあって、先に来ていただいたの」
王妃にうながされ、マドラとヴィオラも席についた。
「ジョージ、ありがとう。もういいわよ」
「はい、はい。男は邪魔ということですね」
王妃の言葉に軽く答えてから、ジョージはヴィオラの耳元でささやいた。
「何か変なことを言われたら、私に言ってね」
「は、はい」
ジョージが去っていくと、王妃が自己紹介を促した。
「今日は家名抜きでいきましょう。ヴィオラちゃんが緊張しないように」
「初めまして。ライルの母のベリンダです」
「いつも、娘から話を聞いています。アンの母のシェリーです」
学園の友達の名前が次々と出てくる。
ライル、アン、ケイト、ジョセフィン、イアン。
それなら、みんなも呼んでくれたらいいのに、私だけなんて。と、ヴィオラは不満に思った。
「ベネディクト神官長が舞い上がってしまってね、もう、聖女の話は神官や貴族の間で広まっているの。年末に神殿を訪問する貴族は多いから」
王妃はふっと息を吐いて、続けた。
「だから、聖女をなかったことにするのは難しいの。でも、私もヴィオラちゃんに学園で青春してもらいたいと思っているから」
ヴィオラは王妃の顔をうかがった。もしかして、この方は運命の女神と同じ恋愛話が好きなタイプだろうか。
「それで、聖女と勇者の候補を増やすことにしたの。そして、学園内で聖女と勇者の候補を教育していく。このお茶会に集まったのはお子様が候補になることに賛同してくださった方よ」
何だか、思わぬ方向に話が進んできた。




