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【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい  作者: 椰子ふみの
ヒロイン編

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ベネディクト

「カレイドル神殿の神殿長を努めておりますベネディクトと申します」


 帰る話になって、ホッとしていたら、グラント伯に挨拶したいとベネディクトがマズルカ旅館までついてきた。


「わざわざ、このようなところに」

「よ、ようこそ、いらっしゃいませ」


 旅館の人たちは神殿長の顔を知っていたから、大騒ぎだ。

 トムもついてこようとしていたが、断ってよかったとヴィオラはつくづく思った。

 旅館の人に呼び出されたハイラムがマドラと一緒に挨拶に出てきた。


「グラント伯ハイラムと妻のマドラです」


 と、挨拶するやいなや、神殿長が跪いた。


「おお。カリーナ様の祝福を」


 戸惑うハイラムに対し、マドラはヴィオラを見つめた。『何をやったの!?』と圧が強い。


「ベネディクト様、とりあえず、中に入りましょう」


 旅館の前だから、通りすがりの人が不思議そうに眺めている。

 ヴィオラが声をかけると、ベネディクトはすっと、立ち上がった。


「ヴィオラ様、私のことは呼び捨ててください」


 信仰心からか、ラブポイントが関係しているのか、ベネディクトがまた、跪きそうだ。


「わかりました。だから、早く」


 催促するヴィオラに旅館の主人がささやいた。


「特別室にご案内します」

「あ、ありがとうございます」


 確かにこのキラキラしたベネディクトを自分たちの部屋に連れて行くのは違う気がする。


 特別室は高級な応接室という感じで、年代物の家具が備え付けられている。

 頼みもしないのに素早く、お茶とお菓子のセットも出てきた。


「どうぞ、ごゆっくり」


 田舎者と思われていたグラント一家の株もすごく上がったようだ。


「突然、お伺いして申し訳ありません。しかし、お喜びください。さきほど、カリーナ神がヴィオラ様を聖女とお認めになりました」


 ベネディクトの言葉にヴィオラは必死で首を振る。


「ベネディクト様、事実だけをお話願えますでしょうか?」


 ミヤが失礼にも言葉を遮った。


「神様は魔王や聖女の話のあとにヴィオラ様にお声がけされたのは確かです。ただ、ヴィオラ様が聖女とは言っておりません。もしかすると、聖女を探すとか、育てるとか、そのような役割を期待されているのかも知れません」

「なるほど。その方が納得できる。ヴィオラは人に教えるのが上手だから」


 ミヤの言葉にハイラムは納得し、ヴィオラはホッとする。


「そうですね。確かに。神様からの言葉にこのベネディクト、冷静さを失っていました。ただ、どちらにせよ、ヴィオラ様にはできるだけ早く神殿に移っていただきたいと思います」

「え?」

「神様と言葉を交わした貴重なお方。神殿で保護することが習わしとなっております」

「あの、私は学園に通っている身ですし、これでも強いので、保護なんてしていただかなくても」

「学園は退学手続きを進めておきましょう」


 見た目は包容力のある大人の男性って感じなのに、ベネディクトはヴィオラの話を聞かずにぐいぐい進めようとしている。今までの攻略対象者の中で一番ポンコツなような気がする。神様に声をかけられたのはベネディクトも同じなのに自分のことはあまりかんがえていないようだ。冷静さは戻っていないらしい。

 それにしても、のどかな年末年始を過ごす計画が台無しだ。

 それに今ではハーモニー学園の生活は大切だから退学なんて、する気はない。


「『友達と共に進みます』と言ったら、『それでかまわぬ』と神様はおっしゃいました」


 その点だけは感謝だ。


「これはハーモニー学園での生活を続けなさいとおっしゃっているのだと思います」

「……確かに」


 ベネディクトの勢いが少し落ちたところで、ハイラムとマドラが色々言い聞かせると、やっと帰っていった。


「やっと、神殿長抜きで話せる」


 特別室から自分たちの部屋に戻った。


「それで、ミヤ。本当のところを説明してちょうだい」


 マドラはヴィオラを信用していないので、こういう時の報告はミヤの役目だ。

 手際よくミヤが起きた事件を説明すると、ハイラムは力なく笑った。


「恐ろしいことにヴィオラが聖女だというと、納得しかないんだよな」

「でも、あなたが今まで通りの生活をしたいなら、私たちが守ってあげるから」

「父様、母様……」


 ヴィオラが感動していると、マドラが立ち上がった。


「手紙を書かなきゃ。王妃様に」


 急にそんなことを言い出すから、ヴィオラには理解できない。


「母様?」

「お茶会に参加するのを嫌がっていたけど、こうなったら、ちょうどよかったわ。年末か年始と言われていたんだけど、年末、できるだけ早くしてもらって、聖女扱いされないようにお願いするのよ」


 ヴィオラはうなずくしかなかった。


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