神殿
前面に巨大な白い柱が立ち並んでいる。神殿の荘厳な姿にヴィオラは目を見張った。
「すみませんが、神殿内には人以外は入れないことになっております」
ブランを抱いていたヴィオラは白く長い衣装の神官に呼び止められた。
「あの、私の召喚獣なのですが、こうやって抱いていても駄目ですか?」
ヴィオラに神官は首を振った。
「例外はございません」
「ごめん、ブラン。外で待っていてくれる? あ、宿に戻っててもいいし」
「ここで待ってる」
そう言いながらブランはヴィオラの手から抜け出した。不満そうなブランにトムが話しかける。
「大丈夫。ヴィオラは俺が守るから」
「お前なんか、信用できるか」
なぜか、ピーターを図書館に置き去りにして、トムがついてきている。
「私がいますから、大丈夫です」
ミヤが言うと、ブランは納得したようだった。
「古い神々のことを知りたいということでしたね。こちらへどうぞ」
ミヤはすばやく寄付を積んで、詳しい話ができる神官をお願いしたらしい。
奥に入っていくにつれ、お香のような匂いが強くなる。
そういえば、ヒロインって、ここで結婚式を挙げたのでは? そんなスチールを見た気がする。選んだ相手は誰かわからないようになっていた。
ちょっと、舞台となった礼拝堂も見たい。
「あの、まずはお祈りをしたいのですが」
ヴィオラが言うと、神官の目が輝いた。
「こちらです」
急に神官の足取りが軽くなって、礼拝堂に案内された。古い神々のことを知りたいという人間がカリーナ神の信仰を持っていないわけではないとわかって、ホッとしたのだろう。
「きれい」
高い天井。ステンドグラスから色とりどりの光が入ってくる。
そして、祭壇の後ろにカリーナ神の石像。カリーナ神は自分の姿を自由に変化させることができるということで神殿によって外見が違う。この神殿のカリーナ神は若い男性というか、中性的な感じだ。
ここでヒロインのアリアナが攻略対象者の誰かと結婚するはずだった。
トムとヴィオラは並んで、ミヤは一歩後ろに下がって祈りを捧げた。
ヴィオラの祈りは悪役令嬢でなくなり、家族が無事なことに対する感謝だ。
そして。
『神様、魔王を復活させないように私は頑張りますので、どうかお力添えください』
ヴィオラは目をつぶり、心の中で祈った。
神様に甘えずに自分で何とかするつもりだけど、運命の女神はすぐに恋愛要素を入れようとするから、カリーナ神にお願いしたい。
「わかった」
若々しい男性の声に目を開けると、石像が光に包まれている。
「後ろへ」
トムがヴィオラをかばうように前に出た。ミヤも隠し武器を取り出してはいないが、油断なく構えている。
「き、奇跡だ」
さっき案内してくれた神官が入り口付近で崩れ落ち、平伏した。その後から入ってきた神官が古い神々に詳しい神官だろうか。イケオジで服には金の刺繍が施された飾り帯を結んでいる。
「静かに」
神官は石像の足元に膝をつくと、名乗った。
「この神殿を預かっておりますベネディクトと申します」
渋い、いい声だ。
「ベネディクト」
石像がしゃべった。
「は」
「魔王の復活の兆しあり。聖女を育て、各地の穢れを祓い、復活を阻止せよ。聖女の選んだ勇者とその剣があれば、たとえ、魔王が復活しようとも、恐るるに当たらず」
「かしこまりました」
神様とベネディクトの会話の間、ヴィオラには運命の女神の笑い声が聞こえたような気がした。まさか、運命の女神がカリーナ神のふりをしている?
「ヴィオラ」
「は、はい」
ヴィオラは平伏した。
正直言うと、もう、神様には関わりたくない。神殿に来たのは失敗だった。
「そなたの祈りは聞きとげた。古き神は気にせず、進め」
「かしこまりました」
直接、話すとわかる。運命の女神の気ままな感じがない。自分より上位の力をひしひしと
感じる。
「友達と共に進みます」
ヴィオラは念押しのように言った。恋愛は抜きだ。
「それでかまわぬ」
石像の光がおさまっていく。消えるとふっと空気が軽くなった。
ミヤがぼそりと言った。
「さすが、お嬢様」
「な、何が」
「名乗らないのに神様はお嬢様の名前を知っていました」
「あー、神様だから、何でも知っているんですよ。ミヤの名前もトムの名前もきっと知っていたはず」
ベネディクトが今度はヴィオラの前に跪いた。
「ヴィオラ様、神様が直接、お話になったことには意味がございます。きっと、聖女とはヴィオラ様のことに違いありません」
「いえいえ。そんなわけありません。神様がベネディクト様にお声掛けされる時にたまたま、そこにいただけの者でございます」
「いえ、私の前ではなく、神様はヴィオラ様の前に顕現したのです」
運命の神様よりは信頼できそうと思ったのに、カリーナ神様、何だか話がややこしくなりそうなんですが。
「あの、すみませんが、お嬢様もショックを受けているようですので、また、お話は改めてということにさせていただけないでしょうか?」
ミヤが間に入ってくれたので、とりあえず、帰る話になった。ホッとしていると。
ピロロン。
ゲーム音がする。嫌な予感がする。ヴィオラは小声でつぶやいた。
「ステータスオープン」
開いたウインドウにはベネディクトの名前が追加されていて、100というラブポイントが表示されていた。




