神様といえば
トムが顔を押さえた隙にヴィオラはトムの下から抜け出した。
「そういえば、レノックス帝国って、美形が少ないの?」
「いや、少ないとは思わないが」
「失礼かもしれないけど、トムには負けるけど、ハーモニー学園のクラスメイトって、みんな美形と思わない?」
ジョセフィンが王道美少女だし、ヴィオラも自分のことを客観的に見ると可愛いと思っている。イアンは顔が整っているし、クラスメイトではないが、ライルは男らしいし、ジョージはキラキラしている。
「思うよ」
「でも、迫られて困っているって話は聞かないから」
「……この白い目のせいだと言われている。魔性の目だと」
ヴィオラはトムの目を見た。白い目はトム以外に見たことがない。
「別に見ても、魅了されるってことはないけど。あ、よく見ると、白というよりパールだね」
トムの目は真珠のように柔らかく輝いている。
「ありがとう。しかし、ヴィオラに魔性が効かなくて、こんなに残念なことはないよ。ヴィオラは治癒能力があるから、魅了を治せるのかな」
「そうだったら、他の人に対して、魅了をかけないようにもできるんじゃない。ミューラー先生に協力してもらったら? 喜んで研究しそう」
「そうだな。呪いだとか、魔性だとか言われて、一生、背負っていくものだと思っていたが、治るかもしれないな」
トムが笑う。
「うわっ。トムに迫る人の気持ちわかるかも。うん、私が会ったことがある人の中で一番きれい」
ヴィオラの言葉にトムは赤くなった。
「まったく。参るなあ」
「ねえねえ、それより、このあたりの本は読んだ? カリーナ神以外の神様が出てくる本はなかった?」
「きちんと読んだ本はない。パラパラ見ただけだ。ただ、どれも戦記か国の創世記だな。もちろん、王が信仰していた神の名とかは出てくるが」
「詳しい話は出てこないのね」
トムはうなずいた。
「なぜ、神様のことが知りたいんだ? 知りたいなら、図書館で調べるより、神官に聞けばいいだろう」
「知りたいのはカリーナ神じゃないし」
「異教徒を改宗させるために神官たちは他の神についても、詳しいぞ」
「そうなんだ。他の神のことを知りたいって言ったら、異教徒だと決めつけられて弾劾されたりしない?」
「グラント領の神殿ってどうなってるんだ。そんなにひどい考えの神官がいるのか」
ヴィオラは首を振った。
「実は神殿がなくて」
「え?」
「辺鄙で危険だったせいか」
「結婚や葬儀はどうするんだ」
「結婚とかのお祝い事は一番近い神殿から神官を派遣してもらうのが多いかな。葬儀は騎士団の団長とかが行って。魔獣との戦いで亡くなった人は早く火葬にして、浄化しないといけないから。あ、部隊長以上は神殿で葬儀のやり方を学ぶことになっているから、いいかげんなことをしているわけじゃないんだけど」
「なるほど、それで、神様といえば、神殿という普通の発想がなかったのか」
「ありがとう。トムに聞かなければ、気づかなかったわ。神殿に行って、聞いてみる」
ヴィオラは立ち上がった。
「おい、もう行くのか?」
トムは慌てて立ち上がった。
「あ、図書館にはまだいるよ。ミヤやブランの調査がどうなっているか、確認しなきゃ」
「わかった」
ヴィオラが下の階に降りると、なぜか、トムもついてきた。顔はふだんの平凡な顔と黒い目に戻している。
「簡単に変えられるんだね」
ヴィオラはふと思った。前世の顔になったら、みんなはどう思うんだろう。平凡どころか、この美男美女が多い世界では不細工で目立つかもしれない。
試してみたいが、前世の記憶が薄くなっていることに気づいた。
元の顔ってどんな顔だったんだろう。黒髪、黒い目は確かだけれど。
「ヴィオラ、何でそいつと一緒なんだ?」
ブランが飛んできた。
「お嬢様、ブランと私が見つけた本は貸し出し手続きを済ませておきました」
ミヤが駆け寄ってきた。
「お嬢様の本は?」
「いいのがなかったから、神殿に行ってみようと思うの」
「今からですか?」
「行けるの?」
「お任せください」
また、ミヤが駆け出していく。
「ミヤ、図書館では走ったら、ダメよ」
ヴィオラは思わず、注意した。
「大丈夫です。これは早歩きです」
ミヤは振り向きもしない。
よく見ると、ミヤは速いがクネクネと歩いている。前世の競歩のようだ。
「さすが、ヴィオラのメイドだな」
トムが大笑いしたので、ヴィオラは納得できなかった。




