王妃のお茶会
「あの、聖女や勇者の候補というのに皆様のお子様方は納得されているんですか?」
ヴィオラは尋ねた。自分の友だちのことをお子様方というのは変な感じがするが、正しい言い方はわからない。
「うちの子はヴィオラさんの騎士だから、ヴィオラさんが聖女になるなら、勇者になってみせるって言ってるわ」
ライルの母のベリンダが言った。
「戦略を立てる者が必要だって、うちの息子は言っています。ヴィオラさんの方が賢くても、力押しばかりでは勝てないだろうって」
イアンの母のプレステル夫人が可笑しそうに言った。
「アンは聖女には興味がないし、なれるとも思っていないけど。ちょっと、ここだけの話ね」
アンの母のシェリーが声をひそめると、テーブルを囲んだ全員が頭を寄せた。
「ヴィオラさんは常識がわかっていないから、私が面倒を見ないといけないの」
シェリーがしたアンのモノマネはそっくりで、ヴィオラは吹き出しそうになった。
「うちの娘はヴィオラさんとくっついていれば、音楽の道がどんどん開けると思っているみたい」
ケイトの母のマイヤが言う。
「大丈夫? うちのジョセフィンについていないとご主人が不満に思わない?」
ジョセフィンの母、ユリアーナが尋ねた。
シェリーとマイヤは顔を見合わせた。
「主人は女はできるだけ上位の貴族に嫁ぐか、上位の貴族の夫人の派閥に入るか、それしか頭にないのよね」
「でも、ヴィオラさんのおかげでケイトは音楽や治癒魔法を通して、人脈を広げ始めているのにそれを止める必要はないわ」
「夫だけを頼りにしていたら、愛人でも作られた時に弱い立場になりますしね」
「そうそう。それなのにジョセフィンの価値を王族に嫁げるかどうかだけで判断しようとする主人には嫌気がさしてますの」
あー。ジョセフィンの父と母は政略結婚で仲がよくないって言ってたっけ。
それにしても、みんな、ぶっちゃけ過ぎているような気がする。
「ジョセフィンは……」
ヴィオラが口を挟もうとすると、ユリアーナは微笑んだ。
「あの子は私たち夫婦の手を離れる決心をしたようなので、大丈夫」
王妃がパンパンと手を打った
「さ、これからは普通のお茶会にしましょう」
侍女たちが現れると、お茶を入れ直した。お菓子も焼き菓子ではないクリームを使ったケーキが追加で並べられた。
「さ、どうぞ」
「ありがとうございます」
深々とマドラが頭を下げた。
これはお茶のお礼ではなく、聖女と勇者候補という形を作ってくれた王妃への感謝だ。
ヴィオラも一緒に頭を下げる。
おかげでハーモニー学園の卒業までみんなと一緒に過ごすことができる。
「そんなに頭を下げなくていいから。それより、面白い話はないかしら。ヴィオラちゃんって、小さい頃からすごい子どもだったのかしら」
王妃様の問いにマドラは口を開いた。
「ヴィオラの武勇伝は色々ありすぎて難しいのですが、やはり、食べ物の話にしましょうか」
ヴィオラが止めようと母に目配せするが、マドラはヴィオラの武勇伝を話す気まんまんだ。
口が乾いたような気がして、ヴィオラはお茶を一口飲んだ。何だか変な味だ。もう一口飲んでみる。
「あの、みなさん、このお茶、変です。飲まないでください」
ヴィオラはそう言いながら、もう一口飲んだ。
「何?」
「変なら飲んじゃ駄目でしょう」
「誰か、医師を呼んで!」
ヴィオラはもう一口飲む。思わず、口角が上がった。
「これ、お酒入ってます」
ヴィオラはそう言うと、ポットを掴んで自分のカップにさらにお茶を注ぎ、また、ぐいっと飲んだ。
「やめなさい」
我に返ったマドラが止めるが、ヴィオラはお酒の入ったお茶を飲むのをやめない。
「お酒が好きなのね」
王妃は呆れたようだった。
「弱いのにもう」
マドラが赤くなった。
「せっかくだから、教えてちょうだい。ねえ、ヴィオラさん、今、好きな人っている?」
ユリアーナの質問に緊張が走った。
「パパ、ママ、レイフ」
「ご家族以外で」
「うふふ。アネモネ様」
ポカンとした夫人たちにプレステル夫人が説明する。
「ハーモニー学園の先輩になります。優秀な女性で」
「それからねえ、ジョセフィン。美人で何でもできて」
ヴィオラはご機嫌だ。
「アンにケイトに」
「みなさん、おわかりでしょう。この子はまだ、子ども過ぎて、恋愛がわかっていないんです」
マドラの言葉にみんな納得するしかなかった。




