謁見
「と、父様、大丈夫ですからね。そんなに緊張しないでください」
ヴィオラは声をかけた。
さっきから、ハイラムの右手右足、左手左足は同時に出ている。
「今日の姿、素敵ですよ。内緒ですけど、母様がますます好きになっちゃうって言ってました」
「そ、そうか」
ハイラムの顔が一瞬、デレッと崩れ、それから、きりりと引き締まった。
歩き方が正しくなると、今日の姿は確かにいい。毛皮のついた小さなマントやグラント領ではまず、身につけない大仰な宝石が意外と似合っている。
「ヴィオラもおしゃれすればよかったのに」
「デビュタントもまだですし、学生が私の本分ですから」
ヴィオラはハーモニー学園の制服だ。制服が正装になるっていうのが、前世と共通している。
目立ちたくないと思って、制服を選んだが、髪はミヤがリボンと一緒に編み込んで可愛くしてくれた。
「父様は王家の方と何度も会ったことがあるんでしょう。それなのに、すごく緊張しているのはなぜですか」
「今まで会ったのは全て貴族の一員としてあっただけだ。爵位順に並んで順番に挨拶するようなものばかり。特別に謁見したことはないんだ。しかも」
ハイラムは言葉を切って、城内を見回した。
「通常の謁見を行う広間は通り過ぎてしまった。ここはもっと奥だ」
ハイラムの声に緊張が残っている。
前を歩いていた案内人が振り返った。
「こちらでございます」
扉の両側に騎士が立っている。
ヴィオラはその強さをひしひしと感じた。
「ハイラム・グラント伯、ヴィオラ・グラント嬢をお連れしました」
案内人が扉を開け、ハイラムと共にヴィオラは中に足を踏み入れた。
予想外に小さな部屋に煌びやかな男女がいた。宝飾類が少ない装いに関わらず、目を奪われる。
ヴィオラはジョセフィンにマナーを叩き込まれてよかったと思いながら、カーテシーをした。ハイラムとヴィオラは頭を下げて、言葉を待った。
「まあまあ、堅苦しくしないで顔を上げてちょうだい」
「不敬は問わぬ。学友の両親だと思って、接するがよい」
「そうそう、実際にヴィオラさんはジョージのお友達なんでしょう」
「は、はい」
顔を上げると、国王と王妃以外に侍女や護衛が控えているのが目に入った。
侍女に勧められるまま、テーブルの席についたが、国王と王妃との距離が近すぎる。
「ハイラム、よく来てくれた。今までは社交の時期もグラント領から出なかったようだが、やはり、娘の様子が気になったか」
「は、はい。それもありますが、ジョセフィン様のおかげでカレイドルまで短い時間で来れるようになりましたので」
「うむ、ジョセフィンには感謝しかない」
そうでしょ、そうでしょとヴィオラはうなずいた。
「ジョセフィンの力を引き出したのはそなたの娘だそうな」
「はい」
ハイラムの目がキラキラと輝いた。
娘自慢を始めるのではないかとヴィオラはハラハラする。
「ジョージもずいぶん、強くなったようだ。それに騎士団長の腕を治してくれたこと、感謝する」
「いえ、すべて、ジョセフィン様、ジョージ様、アン様、ケイト様のお力です」
ヴィオラはもう一度、頭を下げた。
「すべて、ヴィオラ殿が元のように思うのだが」
「いえ、そんな」
「もうっ、あなた。不敬は問わぬと言いながら、そんな堅苦しい言い方ばかりして。ヴィオラちゃんが固くなってるじゃない」
王妃がにっこりと笑いかけた。
薔薇のようとはこういう美女のことを言うんだなとヴィオラは感嘆した。
「ああ、すまん、すまん。つい癖で」
急に国王がくだけた口調になった。
「まずはお茶にしましょう。グラント領のパンを使ったサンドイッチもあるから」
侍女がサンドイッチやケーキを並べ、お茶を注いでくれる。
紅茶の香りが高い。王宮だから最上級なんだろう。
サンドイッチは小ぶりで手を汚さなくても済むように銀のピックが刺さっている。
「どうぞ」
王妃がお茶を飲み、国王がサンドイッチをつまんでみせる。
ここまでされたら、遠慮する方が失礼になる。ハイラムとヴィオラもお茶に手を伸ばした。
「美味しいっ」
転生してから、初めてのダージリンに思わず、言ってしまった。
「よかった。サンドイッチやお菓子もどうぞ」
サンドイッチはフルーツサンドだった。王宮のシェフが工夫したのか、それとも、アリアナの店が工夫したのか。上品で美味しい。
「やっぱり、女の子はいいわ。ねえ、今度、一緒にドレスを選ばない?」
ヴィオラは思わず、ぶんぶんと首を振ってしまった。
「褒美をとらせるって、この人が言うから、ヴィオラちゃんの分は私からにしたいの」
「い、いえ」
どうやったら、うまく断ることができるんだろう。父様に助けを求めようとしても、父様は父様で国王からの陞爵する話を断っている最中だ。
「何か貰ってくれないかなあ」
美女の流し目は強烈だ。
「そうすると、次のお願いがしやすくなるのに」
「あの、私ができることでしたら、褒美などなくても、喜んでさせていただきます」
「本当? 嬉しいっ」
王妃の喜びように少し不安になる。
「じゃあ、ジョージと結婚して」
ヴィオラは固まってしまった。
そこへ。
「母上、冗談はやめて下さい」
ジョージ王太子が慌てた様子で入ってきた。




