頭痛
頭が痛い。
ヴィオラはベッドで頭を抱えていた。
「二日酔いですよ。さ、これを飲んでください」
ミヤが苔のような色の液体を渡してくる。
「沼の水?」
「二日酔いの薬です」
ヴィオラは鼻を近づけて匂いを嗅いだ。
うん、沼ではない。
魔物の内蔵のような生臭い匂いと何だか目に染みるような刺激臭が混じっている。
「飲まないと駄目?」
「飲まずにいつものように動けるのなら、かまいません」
ヴィオラは立ち上がろうとして、また、ガンガンする頭を抱える。
「一杯、飲んだだけなのに」
「まだ、飲むようなお年ではありませんから」
ヴィオラは深呼吸した。
今日はグラント領に出発するんだから、じっとしているわけにはいかない。
鼻をつまみ、一気に喉に流し込んだ。ありえない味だ。前世で罰ゲームでセンブリ茶は飲んだことがあるが、この薬は生臭く苦く、とってつけたように甘い。
「み、水をちょうだい」
助けを求めると、そこはさすがにミヤがすばやく水を渡してくれた。
「はー、すごかった」
水を飲み干して、気づいた。もう、頭が少し軽いような気がする。
「あれ、こんなにすぐに効くの?」
「すごいでしょう。グラント薬師学校の最近できた試作品です」
「試作品……。商品じゃなく」
「こんな味で売れるわけないじゃないですか」
「それはそうだけど。それを私に飲ませる?」
「創立者として、確認しておきたいかと思いまして」
母様の死を防ぎたい一心でいろんなことをやった一つが薬師学校の創立だ。実際に創立したのは父様だが、アイデアを出したのがヴィオラということで創立者の名前の中にヴィオラの名がある。
要は父が親バカでこんなすばらしいアイデアを出した娘を讃えたかったからなのだが。
薬師学校には研究部門があって、グラント領の魔物が多いことを利用して、他ではできない研究を行っている。
「納得はできないけど、まあ、いいわ。さ、荷造りしましょ」
「それがですね、お嬢様。グラント領への帰省は中止になりました」
「え? 楽しみにしてたのに。なぜ?」
お休みはグラント領でのんびり過ごすつもりだった。元ヒロインのアリアナの様子を見に行くついでにパン屋でおいしいパンを買いたいな。と、のんきに思っていた。
まさか、カレーラス楽士長が戻ってきたとかじゃないよね。ヴィオラは不安になった。
「旦那様、奥様、レイフ様は年越しをこのカレイドルで行うことになりました」
ヴィオラは飛び起きた。
「みんな、ここに来るの?」
「はい、マズルカ旅館に泊まられます。もちろん、ヴィオラ様もご一緒にということで、お部屋を予約してるそうです」
「嬉しい。みんなを案内したかったんだ」
イアンと行って、水晶玉を買った店はレイフが喜びそうだし、アンやケイトが教えてくれたアクセサリーの店は母様が喜びそうだ。父様はどこがいいだろう。
「でも、なぜ?」
「ジョセフィン様のおかげですね。立派な道ができて、ここまで来る時間が短くなったでしょう。固くならないうちにふわふわパンが運べると、行商人が売り出して人気になったんですよ。それでお嬢様のお見舞いで王太子様も高位貴族の方々も味をご存知だから、あっという間に流行になって。王様も気に入られたということで、褒美を取らせたいという話になったんです」
「ちょ、ちょっと、待って。展開が早すぎる!」
「まあ、グラント領の統治がすばらしいと認められたのですから、お喜びください」
「それは嬉しいけど」
「ちなみに」
ミヤがもったいぶって、言葉を切った。
「旦那様とお嬢様は国王陛下と謁見することになります」
「え? 子どもの私がなぜ?」
「今さら、子どもと言われましても。ふわふわパンもマヨネーズだけじゃありません。お嬢様がグラント領を変えたんですから。そして、もちろん、旦那さまはお嬢様のすごさを自慢しましたからね」
「父様……」
二日酔いではなく、頭が痛い。
「あ、それから、あのお嬢様が行ったパン屋さんがカレイドルに支店を出すそうですよ」
「私が行ったパン屋って」
「お嬢様と同じようなピンクの髪のお嫁さんがいる」
ちょっと、待って。アリアナの店ということでしょ。
「息子さんとお嫁さんが支店を切り盛りするそうです」
アリアナがこの都に来る。
ますます、ヴィオラは頭が痛くなった。
活動報告に音楽祭などでヴィオラが教えた曲リストを挙げました。よかったら、ご覧ください。




