褒美
「おまえは上手く褒美を断ったんだな」
ハイラムの目は死んでいる。
「その代わり、王妃様のお茶会に参加することになりました」
ヴィオラの目も死んでいる。
「その代わり、母様も一緒ということにしてもらいました」
母様は喜ぶだろうか、嫌がるだろうか。
「ジョージ様のおかげです」
学園の外なので、敬称をつける。
王妃様がジョージと結婚なんて、とんでもない冗談を言い出すので、困っていたら、間に入ってくれた。
「ヴィオラ嬢は身分が上の男性を望んでいるわけではありません。私との結婚は褒美にはならないのです」
ジョージ王太子がそういうと、王妃は戸惑ったような表情をみせた。
「だから、褒美じゃなくて、お願いと言ったんだけど」
ジョージの顔が赤くなった。
「私をからかうのにヴィオラ嬢を使わないでください」
王妃はジョージに向かってニヤリと笑った。
「わかった。わかった」
こんな顔もする人だったんだとヴィオラは見惚れた。
「ヴィオラちゃん、私のお茶会に参加して」
「あの、私はまだ、子どもですので、そのようなところに参加するのは」
「ヴィオラちゃん、あなたの望みが何であっても、味方は増やした方がいいのよ」
何もかも見透かしたような言葉にヴィオラはドキリとする。
卒業したら、ヒロインとして浄化の旅に出る。それは覚悟しているが、その時、一人では無理なことも起きそうだ。やはり、仲間や支援は欲しい。
「あの、母と一緒でもよろしいでしょうか?」
デビュタント前でも、親と一緒なら、社交界に出ている令息、令嬢は多い。
「もちろん。その時は褒美としてドレスを贈るから着てきてね」
直接、着せ替え人形になることは免れたが、ドレス着用からは逃れられないらしい。
「私もジョージ様に救って欲しかった……」
ハイラムがこぼす。王様から下賜された立派な剣を捧げるように持ったままだ。
鞘には赤い炎のような柄が刻まれ、柄頭には赤い宝石がはまっている。
「陞爵や領地が増えるのは大変そうで、必死に断ったら何とかなったんだが、こんなすごいものをもらって、どうしたらいいんだ」
魔獣を斬り裂く伝説の剣らしい。グラント領は魔獣がよく出て大変なんだろうと王様が決めた褒美だ。
「普通の剣でも魔獣を斬ることぐらいできるのに」
ハイラムもヴィオラの父だけあって、力押しのタイプだ。
「でも、刃が見たいですね。切れ味も試したいし」
ヴィオラは目を輝かせた。正直言って、ヴィオラは王妃様とのお茶会より伝説の剣が気になる。
「そうだな。さすがに王宮で剣は抜けないから、早く帰ろう」
ハイラムも元気になった。
マズルカ旅館に戻ると、レイフがブランと飛び出してきた。レイフが無茶なことをしないようにブランに見張りを頼んでいたのだ。
「すごい。その剣、何? 古代文字が書いてある」
レイフに言われて、よく見ると、炎の柄の部分は文字になっている。
「変形して模様にしているから、元の文字がよくわからないなあ。写して調べなきゃ」
旅館の前で騒いでいると、他のお客様の迷惑なので、ハイラムとマドラの部屋に移動した。
「では」
ハイラムがゆっくりと剣を抜く。
美しい剣だ。
「儀礼用か」
ハイラムが少しがっかりした様子になった。
刃の中心を走るフラーという溝の部分に炎の模様が刻まれている。
「まあ、試してみて」
ヴィオラは火をつけていない暖炉から薪を一本取ると、ハイラムに向かって投げた。
「こら、いきなり投げるな」
そう言いながら、ハイラムが軽く剣を振ると、薪はすうっと、なめらかに二つに分かれた。
「すごい。断面がきれい」
どれだけ、切れ味がいいのだろう。
こういう時にステータスを見ることができたらいいのに。ラブポイントの表示なんかではなく。
ピロロン。
そんなことを考えていたせいか、ゲームっぽい音が聞こえたような気がした。
そういえば、自分のステータスも全然、確認していない。
「ステータスオープン」
ささやくとウインドウが現れた。
『アイテム表示機能が追加されました』って、そんな都合よく。
ああ、運命の女神の手にかかれば、何でもありですか。
『新しいアイテムが追加されました。勇者の剣:ヒロインに選ばれた勇者が使うと、魔法の炎を放ち、魔王を浄化することができる』
ヒロインが選ぶ。
あくまでこの世界は乙女ゲームらしい。
「でも、私が?」
父様を選ぼうかとヴィオラは思った。




