休み
「一人で世界を救えると思うなよ」
教室に行こうと寮を出たところで、いきなり、ブランにそんなことを言われ、ヴィオラはドキリとした。
「何、それ? 世界を救うって」
ヒロインとして、世界を救うつもりでいるのがバレたのだろうか。
「深刻な顔して、やたら、みんなを鍛えたかと思ったら、今度は治癒魔法? 休みの日も出かけてばかりでのんびりする時なんて、ないじゃないか」
ブランは従魔でもあるので、主人の体調に敏感なのかなとヴィオラは思った。
「おかしいよね。こんなつもりじゃなかったんだけど」
もちろん、世界を救うつもりだが、ゆっくり進めるつもりだった。時間には余裕があると思ってたし、女神様は恋愛要素を入れる時間を用意していそうだし。
それなのに、なぜか、休みがない。
「ねえ、今日、学校、サボらない?」
ブランの言葉にヴィオラは慌てて、周りを見た。少なくとも、一番怖いミヤは近くにいない。
「そんな悪いこと、言っちゃダメ」
「でも、子供の頃、一緒に色々悪いことしたよね」
山をちょっと、削ったりしちゃったけど、授業をサボる方が悪いことのような気がする。
「今から、どこか削ってこようかな」
ブランも同じことを思い出しているらしい。
「もう、私の責任になるんだから、やめてよね」
睨みつけると、ブランはヴィオラの手が届かない高さまで浮かび上がった。
「じゃあ、止めてみな」
ブランが飛び出す。
ヴィオラは慌てて捕まえようと飛び上がった。
ブランは飛行速度を上げて、かわす。ヴィオラも速度を上げた。
「待ちなさい!」
急な方向転換や速度変更でなかなか捕まえることができない。
「体、鈍ったんじゃない」
ブランが煽ってくる。
「ほ、本気で行くから」
ヴィオラは真剣に追いかけた。
ブランに負けない速度を! 魔法をぶつけたら早いかもしれないけど、自分がそこらじゅうを削る犯人になってしまうから、速度特化にだけ使う。
何度か、ブランの体に手が触れた。そして。
「捕まえた!」
「ああ、俺はヴィオラから逃げられないよ」
捕まったのに何だか、ブランは嬉しそうだ。
ヴィオラはあたりを見回して、自分が学園を飛び出して、裏山に来ていることに気づいた。以前、使っていた場所だ。燃やしたりしてしまった場所なのにいつの間にか、色々な花が咲き乱れる場所になっている。
「そうか、焼畑農業ってあるもんね」
ヴィオラは納得した。
「きれいだろ」
「うん。もしかして、花を見せるためにわざとここで捕まったの?」
「い、いや、偶然だよ」
「素敵な偶然ね」
ヴィオラはブランを抱き止めたまま、花畑に腰を下ろした。
「うん、ブランの言う通り、サボっちゃおう」
「そうそう」
「その代わり、ミヤにバレたら、一緒に怒られてね」
「もちろん」
「久しぶりに一緒に遊んだら、楽しかったー」
「俺も。グラント領ではよく追いかけっこしたな」
「うん」
花畑のまわりの木は葉が赤く染まったものもある。
「もう、秋なんだね」
そう言うと、ヴィオラは伸びをした。
「何だか、眠くなってきた」
「寝たらいい。見張っておいてやるから」
「ありがとう」
しばらくすると、ヴィオラは寝息を立て始めた。
その顔をじっと眺めながら、ブランは集中した。前足のゴツゴツした爪が少しずつ、短く丸くなる。皮膚は滑らかに褐色の肌のようになっていく。その少し人に近づいた手でヴィオラを撫でようとして、ブランは手を止めた。
「まだだ。これじゃあ、まだ、駄目だ」
人に変化し切れないブランは元の姿に戻ると、ただ、ヴィオラを見守り続けた。




