虎の猫又
赤く燃え盛る炎を纏った二本の尻尾を持つ虎がオーガの村を襲い、次々とオーガ達がやられていく。
盾を持つこともなく、回復魔法も使うことが出来ないオーガ達はかわすことに専念はしているが、かすっただけで戦闘不能状態に追い込まれている。
今も虎の猫又の爪によって一人のオーガが片腕を失った。
かなり善戦しているのはほぼ鬼と同じ体格のミカゲくらいだろうか。
攻撃は当たらないが金棒を上手く防御は出来ているようだ。
そのミカゲの後ろにタップル、ペアーズ、ラクマ、メルカリが護られるような形で戦闘に参加している。
メルカリが大弓を持っており、ペアーズとラクマは槍を持っているので虎の猫又も攻めずらいのか他のオーガ達を優先して攻撃しているように見える。
「それじゃお願いします。本当に届くんですよね?」
「任せとけって」
リロイの盾を借りたヒロを赤鬼アンキが掴み大きく振りかぶる。
今ヒロ達がいる場所からミカゲがいるところまではかなり距離がある。
正直傾斜があるのでどのくらいか分からないが1000メートルはあるだろう。
普段なら跳躍強化でぴょんぴょんと移動するのだが、今のヒロには殆ど魔力は残っておらず使うことが出来ない。
そこでとんでもない力のある鬼のアンキに投げてもらうことにしたのだ。
セラ達は既に戦場に向けて走り出している。
正直ヒロも走ってもいいが、馬鹿でかい盾を持って1キロも走ったら戦闘どころではない。
「いくぞぉおおおおおおおお」
アンキが思いっきり振りかぶったと思った時にはヒロは空高く投げ飛ばされていた。
何処に飛んでいるか見たいが盾を構えているので前がよく見えない。
何とか覗き込みたいが、直撃時に備えてそんな危険なことはできない。
まるで隕石の様に飛んできたヒロが虎の猫又横っ腹に直撃する。
虎の猫又も不意の一撃で低いうなり声をあげた。
「いってぇ」とヒロも苦痛の声を上げる。
このまま横になって痛みが去るまで空でも眺めていたいがそうはいかない。
直ぐに立ち上がって盾を拾い上げようとするが、虎の猫又の方が立て直しが早くヒロに襲い掛かる。
だが、鋭い見爪が振り下ろされる前にケティが跳んできて空中で回し蹴りをお見舞いし虎の猫又を吹き飛ばした。
「まったく無理するニャ」
「いいから追撃」
「そんな上手くいかないニャ」
ケティの言う通り虎の猫又はうまく着地をして直ぐにこちらに飛びかかろうとしている。
猫は2階から飛び降りても上手く着地できるし、空中に投げられても上手く体勢をとるというが虎もどうやらネコ科だけあってバランスを崩すことは無さそうだ。
「ミカゲ俺の後ろへ!タイミングを合わせて攻撃を」
「え?」
「はやく!」
ヒロが言い終わるかどうかのタイミングで虎の猫又がヒロに飛びかかってくる。
上手く盾で受けたが気を抜いたらそのまま押しつぶされそうだ。
虎の猫又はそのまま盾にのしかかりヒロを押しつぶしに入る。
そこをケティが一撃を与えるがびくともしない。
先ほどはあいての攻撃の反動も利用した攻撃だったからか、それとも虎の猫又が何かしたのだろうか。
とにもかくにもこのままじゃまずい。
「えぇい!」
やっと近くまで来たミカゲが金棒を大振りしてそれが虎の猫又の顔に直撃する。
これは効いたようで「ぐぁおっ」と低い声を上げて虎の猫又が後ろに大きく飛びのく。
縦が急に軽くなり直ぐに体勢を立て直す。
ミカゲが来たせいか虎の猫又は距離を取ってこちらの様子を伺っている。
「教えて、オーガ達の攻撃は効いた?それともミカゲの攻撃だけ?」
「えぇと、私のだけかなぁ」
「無駄撃ちでいいから矢を当ててくれ!」
ミカゲの返事を聞いて大きな声で叫ぶと、後ろから矢が跳んできて虎の猫又に直撃する。
どうやらメルカリが大弓で攻撃してくれたようだ。
だが、矢はゴムにでも当たったかのように虎の猫又の纏う炎に弾かれた。
「ケティ意見頂戴」
「最初と二打目で感じが違ったニャ」
「ミカゲの攻撃がきいたのは?」
「威力が強すぎたからニャ」
「ミカゲ、本来ならあの一撃ってどのくらいの威力?」
「普通の虎なら爆発してたよぉ」
「爆発!?」
「だって今のは爆発だもん」
爆発ねぇ……。
爆発は本来対象に爆発を起こす魔法だ。
だが、ヒロの知る限りミカゲが言っている爆発は馬鹿力による金棒の一撃で対象を破裂させている感じだ。
ちゃんと話していないし突っ込んでいないが、この子はこんな時も魔法で通すつもりなのか。
とにもかくにも攻略法が見えたかもしれない。
「相手の攻撃のタイミングに合わせて攻撃を!ミカゲは俺のサポートを」
返事がないが、みんな理解してくれたようだ。
次に虎の猫又が攻撃行動に移った時にメルカリが矢を放った。
矢は直撃はしなかったものの右前足をかすり、炎に弾かれず傷を負わせた。
やはり虎の猫又は防御力を高める炎を纏っていて、攻撃のタイミングだけその効果が切れるようだ。
理屈は分からないが、答え合わせは倒してからでいい。
虎の猫又が雄たけびを上げる。
どうやらこちらが秘密に気付いた事を察したようだ。
「ちょっとまった。やばそうニャ」
そう言ってケティが急に近寄ってきて盾の後ろに隠れる。
「何やってるニャ。しっかり構えるニャ。そこのオーガも武器を置いて手伝うニャ」
「え?わたしもぉ?」
何が起こるか分からないが、戦闘経験は圧倒的にケティの方が豊富だ。
それかおなじ猫又なのでなにか察したのだろうか。
訊きたかったが、全身を包みこむ柔らかい感触でそれどころではなくなる。
ヒロを後ろから包み込むように後ろから覆いかぶさり盾を構えるのに手を貸したのだ。
鬼は筋肉ムキムキの体だと思ったが、ミカゲの手足は予想と反してとても柔らかい。
ほんのりといい匂いがして、なにより後頭部が綺麗に彼女の胸の谷間に納まってしまった。
あぁ、俺今なら死んでもいいのかな?
突然の女性の体の神秘に思考を奪われた時だ。
盾のシルエットがくっきりと目に焼き付くように閃光が起きる。
何が起きたと考える前に盾が強い力で押され、反射的にそれを押し返すために力を入れる。
熱い。
ミカゲの体温ではない。
彼女に包まれているが、まるで炎の中にいるような熱さ。
そうか、まさか‥‥。
気付いた時には盾を押す力が無くなっていた。
「や、ヤバかったニャ」
ケティがそう言って盾の外に出る。
それにあわせてミカゲも立ち上がり至福の時間が終わりを告げた。
だが今はそんな事を考えている場合ではない。
自分の下心を抑えつつ辺りを見渡す。
「これって……」
虎の猫又を中心に当たりの物が無くなっている。
刀猿と一緒にいた大猿が使ったものに似ている。
だが、今回はそれに加えて高温の炎で焼かれたような跡だ。
後ろを振り向くと、先ほどまで一緒に戦っていたはずのメルカリたちがかなり後ろまで吹き飛ばされており、遠目では誰が誰だかわからないほど全員が黒焦げで倒れていた。




