弱者1vs5
「跳躍強化、オーラフィスト」
なけなしの魔力を使って発動する。
狼の能力でリロイ、アストリッド、族長、タップル、ペアーズがヒロを殺そうとしている。
さらにその魔法を解くことが出来るセイレーンのレインは狼によって声を奪われ無力化された。
跳躍強化で近くの屋根に跳ぶ。
さきほどペアーズがヒロを追って屋根の上に登って来たが、簡単に登れているわけではなかった。
槍を使って棒高跳びの要領で登っていたので槍を持っていない他のオーガは付いてこれないはずだ。
仮についてこれたとしてもリロイは間違いなく登ってこれない。
セラと合流したケティがカラスとミカゲを連れて帰ってくれば何とかなる。
ヒロはそれまで逃げ切ればいい。
変な恐怖はない。
逃げ切れる自信もあるし、今回は失うものもない。
案の定ペアーズがヒロを追って屋根の上に登ってくる。
下を見るとリロイ達は登る手段がないようでこちらを見ているだけだ。
ペアーズはヒロよりも強いだろうが、逃げるだけなら何とかなるだろう。
念のためリロイ達が村のオーガ達を攻撃しないように庭を中心に燃えていない屋敷の屋根を渡って逃げよう。
跳躍強化を使って大きく跳んでペアーズから距離を取る。
ペアーズがこちらを見上げながら走っているが、着地してから少しは余裕があるだろう。
しかし着地したときに予想外の事が起きた。
顔に何かが張り付いて視界を急に奪われたのだ。
慌ててそれを掴んで投げ捨てると妖精の状態のアストリッドだった。
アストリッドは攻撃面では脅威では無いが、こういう邪魔のされ方は非常に困る。
普段の戦闘では使えないがこちらが危害を加えられないの前提だったらかなり効果的だ。
気付けばペアーズがもうそこまで来ている。
もう一度跳躍を……。
しかし急に何かが飛んできて左肩に突き刺さる。
状況確認をする前に高く跳んで空中で左肩を確かめると短刀が突き刺さっていた。
投げたのは恐らく族長。
刺さったのは脇差か?
しかし肩に刺さっている短刀は刺さっている分を考えても15センチほどの長さだ。
着地と同時に短刀を抜き捨てる。
「修復」
右手で傷口を抑え応急処置の魔法を唱える。
跳躍強化に使った魔力は15。
オーラフィストは両手に3ずつ使っている。
つまり魔力は12残っているはずなのだが修復を使っている間だけどんどん魔力が減ってしまう。
ある程度止血が出来たタイミングで修復の魔法を止める。
感覚では9ほど残っているはずだ。
回復をしながらの跳躍は4回行ったので跳躍はあと8回。
ケティ達はまだだろうか。
とりあえずケティをセラの所へ行かせて良かった。
もしここにケティが敵としていたら間違いなくやられていただろう。
そういえばレインは何処だ?
ふと辺りを見渡すとレインの姿がない。
声を失っているので大声で呼んでも返事をすることはないだろう。
しかし近くにいるはずだ。
「レイン!いたら俺の上に来てくれ!」
そう言って跳躍強化でまた別の場所に移動しようとすると、流石にワンパターンでバレていたようでペアーズが空中のヒロに目掛けて槍を投げる。
その槍は見事にヒロの右太ももに命中し突き刺さった。
バランスを崩して落下するが、体が地面にぶつかるタイミングで片手を地面につけオーラフィストの効果で弾む。
その勢いでもう一度高く宙に跳び、体勢を立て直す。
槍の先端は貫通しており抜くのは難しそうだ。
無傷の左足で跳躍を試みるが大した距離を稼ぐことが出来ない。
空中でレインに掴んでもらって空に逃げようとしたが無理だったようだ。
しかも空を見上げてもレインはどこにも見当たらない。
ペアーズが脇差を抜いて近付いてくる。
焦ってもう一度跳躍するが痛みでバランスを崩し転倒し、そのまま屋根から落ちて地面に叩きつけられるように落ちてしまった。
右足を上に落ちたので傷口が開くことはなかったが、受け身を取れなかったことで上手く呼吸が出来ず体が動かない。
落ちてきたのを好機とリロイ達がヒロの方に向かって動き始める。
何とかオーラフィストでこの場を移動したいが呼吸をしようとするので限界だ。
しかも足に突き刺さった槍のせいで仰向けになることもできない。
まさか仲間に殺されることになるとは思わなかった。
リロイが大槌グラントを振り下ろそうとする。
ケティがこの場に間に合ったとして、今の状況を見てリロイをとっさに止めてくれるだろうか。
目を閉じず最後の瞬間まで見届けようと決意した時だ。
黒い何かが高速で突っ込んできてリロイをぶっ飛ばす。
ケティだ。
「ディバインアバター!」
ケティの全身が真っ白な光を帯びる。
そのまま族長に突進していき強力な一撃を叩き込んだ。
族長は反撃をしていたがディバインアバターの効果でケティは10秒間あらゆる物理攻撃と魔法攻撃を無効化することが出来る。
最後に残ったタップルがケティを無視してヒロを攻撃しようとする。
やはり狼の命令はヒロから逃げる。
つまり逃げるためにヒロを殺すのが最優先のようだ。
ケティは族長を攻撃しているタイミングでタップルまで手が回らない。
しかし、今度は紫の閃光が走りタップルを背にしヒロの前にカラスが現れた。
「遅くなりました」
カチンと音を立ててカラスが刀を鞘に納めるとタップルはその場に倒れた。
「ミカゲ様が参ります。私はペアーズ様の相手を」
そういうとカラスは屋根の上にジャンプして乗る。
カラスは他のオーガと違ってかなり大きく跳ぶことが出来るようだ。
お礼を言いたかったがまだ声を出せそうにない。
「お待たせぇ。あ、今槍を取っちゃうからねぇ」
少し遅れてミカゲがやってきてヒロの足の傷を見る。
頼むからいきなり引き抜かないでくれよ。
声がまだ出ないのでミカゲの馬鹿力でがさつにやられないか恐怖でしかない。
案の定ミカゲが槍の持ち手を掴んで引き抜こうとした時だ。
カラスがペアーズを気絶させたようで槍の先端の魔法が解除され、元の鞘に納まった刀の形に戻る。
そのおかげでヒロの足に突き刺さっていた部分は消えてなくなりミカゲに無理やり抜き去られることはなかった。
しかし今度は傷口に刺さっていた槍が無くなり一度に出血する。
それをミカゲが指で圧迫して血を止めてくれたのだが、力が強すぎて傷の痛みより痛い。
仰向けにしてもらいやっと呼吸がマシになり声が少し出せるようになる。
「セラ達はどうしたの?」
「あぁ、ラクマたちは村のオーガに任せてきたよぉ。セラちゃんはぁ」
そう言ってミカゲが空を指さす。
よく見るとセイレーンのレインが空を飛んでいる。
その足にはセラがさらわれた獲物の様にぶら下がっていた。




