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異世界転生して人外娘と恋がしたい!  作者: こま
第三章 囁く狼
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囁く狼

「ワーウルフには見えないんだけど」


アストリッドの魔法で姿を現した二足歩行する狼に声をかける。


狼は180センチほどの身長で、特に服などを着ているわけでもない。


「俺は人間だ!」


「人間に育てられた狼とか?」


「違う人間だったんだ!」


「人間だった?」


予想外の回答に少し戸惑ったが、どちらかというと狼の方が戸惑っているようだ。


というのも足が怯えているのかガクガク震えている。


それもあってヒロもあまり強敵という認識がなかった。


「それより何でお前は俺の言う事を聞かないんだ?」


「いやまだ何も言われていないし」


(俺を逃がせ)


「え?」


「ほら聞かないじゃないか」


一瞬耳元で囁かれた気がするが、狼は目の前にいる。


もしかして何かの魔法だろうか。


「囁かれた位じゃ言うこと聞かないだろ」


「見てろ」


(俺を逃がせ)


今度は自分に言われたわけではないが聞こえた気がした。


するとペアーズが刀を魔法で槍の形態に変えた状態でヒロと狼の間に割って入る。


そしてその槍をヒロに向けてきたのだ。


「それがお前の能力って事ね。でも、なんで俺にだけ聞かないんだ?」


「それは俺が聞いてるんだよ!」


狼が大きい声を上げるとペアーズがじりじりとヒロへ距離を縮めてくる。


「ちょっと待った。逃げる前になんでこんな事したか教えてくれないか?」


「ママがやってたことをやっているだけだ」


「ママ?」


「僕はここを旅館にするんだ」


「旅館にするって燃やしてるじゃねーか」


図星だったからか、まだ狼の後ろで盛大に炎が上がっているせいか狼は黙って下を向いてしまった。


こいつ能力が強い分、頭は弱いのだろうか。


とりあえずこいつが言う通りやつの魔法がヒロにだけ聞かないのであればヒロが戦うしかない。


クロスボウを構えて狼を狙う。


ペアーズが邪魔だが仲間たちが何とかしてくれるだろう。


「おい、ボウガンなんて卑怯だぞ!」


ペアーズが狼の盾になるべく両手を広げたがそれより気になることがある。


狼がクロスボウを見てボーガンと言ったのだ。


この世界にはクロスボウはまだ存在していなかった。


魔法があるので仕方はないと思うが、それでもクロスボウを見た人たちはヒロに珍しい武器と言っていた。


だが、やつはこれをボウガンと言ったのだ。


ヒロの記憶が正しければボウガンという名前は元居た世界でどこかの会社がつけた名前のはずだ。


「もしかして本当に人間だったのか?」


「人間だって」


「じゃぁどこの国出身なんだよ」


「それは神様が言っちゃいけないって」


神様が言っちゃいけない。


これは妖精の里にいた転生者のマサミチが言っていたオラクルというスキルで、神からの啓示の一つのはずだ。


「日本人?」


「なんでわかったんだ!?」


狼が驚いた顔をして答える。


そうか、ヒロにだけ狼の能力がきかなかったのは同じ転生者だからかもしれない。


だとしてもなぜ見た目が狼になったのだろうか。


「見た目が狼になったのって何か悪いものでも食べた?」


「わからない。気が付いたらこの姿になっていたんだ」


「この世界に来てからどのくらいで?」


「多分一ヶ月くらい」


「一ヶ月!?」


狼もヒロが転生者ということに気付いたようで、しっかりと話に答えてくれる。


彼の名前はキクオと言って、旅館の息子だったらしい。


いつも厳しい母親の言う事を聞いて自分の意志で何かを決めたことはなく、この世界に来たときは何をすればいいか分からなかった。


日々どうしたらいいか分からず一ヶ月が過ぎたある日、母の様に誰かに命令すればと冒険者の耳元で囁いてみるという事を聞いたというのだ。


だが、ジャポンに向かう途中にいう事を聞かなくなり、その時には見た目は狼になっていた。


冒険者たちにモンスターと間違われ逃げだしたキクオは偶然オーガの村を見つけ、その時に体を見えなくする能力も手に入れた。


そしてオーガの村で能力を試すうちにキクオにある気持ちが芽生える。


族長の娘ウィズに恋をしたのだ。


ヒロをオーガが襲ってきたのはどうやら婚約者候補を絞ろうとしたのが原因らしい。


そしてヒロを殺すことが出来なかったので村自体を潰すことにしたのだ。


「同じ転生者であってもこれはやりすぎだ。倒される覚悟はあるんだよな?」


「僕はやられない!」


狼のキクオが中庭に飛び降り、水車村のある方向へ走りだす。


「ちょ、みんな止めろ」


直ぐに追いかけようとするとキクオに囁かれたペアーズがヒロの前に立ちふさがる。


ヒロが動けないのを確認してリロイ達が狼を止めに入る。


(俺を逃がせ。お前は俺と一緒に来い)


キクオに囁かれ族長、リロイ、アストリッド、タップルが狼に背を向ける。


そしてウィズが走る狼の後についていく。


「レイン、もう一度歌ってくれ!」


(お前は黙っていろ)


いう前にやってくれると思ったがレインはおどおどしており、大声で頼んだ時にはレインはキクオに囁かれ声を出せなくなってしまった。


あっという間にキクオたちは林に入り見えなくなっていく。


「逃げられた……。どうする?とりあえず消火作業が先だよね?」


屋根から飛び降りてリロイたちの方へ歩いていくとリロイがグラントを持ち構える。


それにあわせてタップル、族長も刀をヒロに向けて構える。


「いや嘘だろ?」


そう言った瞬間、咄嗟に顔を避けると耳元をペアーズの槍がかすめる。


どうやらキクオの指示は「逃がせ」だったが、完全に逃げ切る為にヒロと戦うつもりのようだ。


ヒロの魔力はあと30程度。


今のジャンプで発動していた跳躍強化も切れた。


ここから1対5の状態を何とかしなければならない。

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