ドワーフとオーガ
「いててて……」
かなり重いはずの大槌と盾を持っていたにもかかわらずかなりの距離を吹き飛ばされ転がったが、木に直撃して止まった様だ。
さっきの大猿はどこだろう。
かなりの段差、いや崖と言ってもいいだろうか。
元居た場所はかなり上の方にあり霧でよく見えない。
ドワーフ特有の真ん丸な体系もあって綺麗に転がってきたようだ。
他の仲間たちは……。
辺りを見渡すと、段差の上の方から誰か折りてくる。
紫色の動きやすそうな着物に黒い鎧。
腰に短刀を二本装備したその女性は小麦色の肌に頭には黒い角が二本生えている。
オーガのウィズだ。
「ドワーフ、他の仲間は?」
「僕の名前はリロイだよ。今は僕一人だけ見たい。呼んでみようか?」
「ちょ、バカ」
大きく息を吸い込みみんなを呼ぼうとするとウィズが口を塞いで邪魔してきた。
「アンタ馬鹿でしょ。今大声なんて出したら私たちが狙われるじゃない」
確かにそうだ。
「そうだね。ありがとう。君は命の恩人だ。」
「何言ってんの?ここから逃げ切れてから言ってくれない?」
「え、逃げるの?でも、みんなを置いていけないよ」
「こんな霧の中で合流できるわけないじゃない」
「でも、みんな心配しているかもしれないよ」
「こういう時は一旦村に戻るもんなの。そこで合流して戻ってきてないやつは合流組で探せばいいのよ」
「そっか君は頭がいいんだね」
「てか、あんたが‥‥いや、いいや」
よくわからないけどウィズはめんどくさそうに頭をかいて辺りを見渡す。
どうやら現在地を把握しようとしているみたいだけど、少しして遠くの方を注視した。
「聞こえた。刀がぶつかる音が聞こえる。タップルたちだ。」
そう言って急に歩き出す。
「ちょっと待ってよ。」
リロイは小走りで後を追いかけた。
しばらくすると声が聞こえてくる。
サルの声だけではない。
この声は誰かが戦っている。
先頭を歩いていたウィズが短刀を抜くと背中に六つの炎の塊が出現する。
そうか戦うのか。
急いで大槌グラントと盾も構える。
僕は盾役だ。
皆の前に出て敵を抑えないと。
前に出ようとするが、ウィズはリロイの追いつけない速さで突っ込んでいく。
こういう時に速く走れないドワーフの体はとても不便だ。
追いついたころには刀を持ったサルは粗方片付いていた。
だが、よく見ると先に戦っていたタップルとペアーズは怪我をしているで、血を流している。
「僕が前に出るから皆は下がって」
「そんな必要ないから」
リロイの申し出にウィズはそう答えると背中の炎を飛ばしサルを怯ませて切りつけていく。
残りの二人も下がる気はないみたいで血を流しているにもかかわらず怯まず戦っている。
ヒロ達との戦いとは全く違う。
ヒロは怪我をしないことが第一で盾と回復を重要視していた。
初めてパーティに加わって妖精の森に向かう時、盾役2、回復役2のパーティならまず攻略不可能なダンジョンはない。
もし4人パーティなら絶対にこの構成にすると言っていた。
だけど、ヒロとセラ、ケティはどちらもできないので盾役のできるリロイと回復のできるアストリッドが加わった時ヒロはとても喜んだ。
どんなに攻撃力があるプレイヤーが4人集まっても回復がいなければ必ずジリ貧になる。
だから回復と盾のどちらかが機能しなくなったら必ず撤退する。
初めて鉱山都市の租手へ出るリロイにとってはそれが世界の常識だと思っていた。
だが今目の前にいる3人はそんな事お構いなしに突っ込んで戦っている。
今ならヒロの言っていたことが分かる。
彼らはリロイがいなければこの後死んでしまう可能性が高い。
ペアーズが片腕に怪我をしているようで、動きが悪い。
さっきから距離を取って左腕を庇っているようだ。
「僕の後ろに下がって」
「必要ない」
ペアーズに近付くが断られていまう。
だが、傷が深かったのかリロイに気がとられたせいかペアーズが足を取られバランスを崩してしまう。
その隙を見逃さず刀を持ったサルが切りかかった。
「だから言ったのに!」
そう言ってサルにシールドバッシュをする。
オグのシールドバッシュをまじかで見て、やり方も教えてもらった。
実戦で試すのは初めてだが上手くいったようでサルはバランスを崩して後退する。
そこをすかさず大槌グラントを振り下ろしてサルの頭部を破壊した。
それを見てペアーズが驚いた顔をする。
自分よりサイズの小さいドワーフを侮っていたのだろうか。
「僕の後ろについて。僕が抑えた敵を横から槍で突き刺すんだ。」
「承知した。」
そこからリロイ達の攻撃が始まる。
どうやらウィズも怪我をしてしまったらしくウィズとタップルも一匹を相手にするのがやっとになって来た。
リロイはプロボーグが使えないので、一匹ずつ近寄っていってペアーズと倒す。
ウィズとタップルが危うくなると横から割って入りペアーズと倒す。
それを繰り返しているうちに残りの二人も理解したようで、リロイの盾を生かした戦いをし始めた。
「主よ、光と加護を我らに――回復」
戦闘が終わりオーガ達の回復を始める。
「あんた見かけより強いしなかなか上手い立ち回りをするのね」
「あれはヒロさんのパーティの戦い方だよ」
「今はあんたを褒めてるんだから素直に喜びなさいよ」
「え、そうだったの。ならありがとう。僕嬉しいよ。」
「何その子供みたいな喜び方。」
ウィズがクスクスと笑うとつられて二人も軽く笑った。
「しかし、あの大猿には参った。村長に何も言わずに出てきてしまったのはやはり失敗だったな」
「え?黙ってここに来たの?」
回復の間に話を聞くと、オーガ達はやはり水車村に行ってはいけないと言われていたみたいだ。
だが、腕に自信があったタップル達は鬼側からの申し出にこっそりと乗った。
なので最悪野宿になったとしても助けはこないようだ。
これから一度オーガの村に戻り仲間を集めてヒロたちを捜索するしかない。
「よし、これで大丈夫だよ。動かしてみて。」
リロイに言われてペアーズが肩を回して確認する。
どうやら問題なさそうだが、リロイに感謝の言葉を言うわけではなく武器を構えた。
「どうやらこちらを追って来たみたいだな。」
タップルが示した先を見ると大きな影が霧の中から近付いてくる。
10メートルはある。
間違いなくさっきの大猿だ。
だが、大猿の右手には先ほどまでなかったものが握られていた。
かなり大きな刀。
あんなものを持って林の中を移動してきたのだろうか。
絶対にどっかで引っ掛かりそうだ。
兎に角戦うならあの刀を自分が受けなければならない。
オグならどうやって戦うだろうか。
大猿に集中しているといつの間にか周りから「キー、キー」とサルの泣く声が聞こえる。
どうやらまた刀を持ったサルに囲まれたようだ。
大猿が刀を横に大振りしようとする。
一応盾を構えるが、刀と盾との間には何本も木があるので攻撃が届くことはないだろう。
ガンっと大きな音がして大きく後ろに吹き飛ばされる。
突然の事に驚いてそのまま背中を地につけ転んでしまった。
どうやら大猿は木を豆腐のように木を倒したようだ。
馬鹿力なのかあの刀の切れ味が凄いのかわからないがもし盾を構えていなければ危なかった。
リロイの盾は自分で作ったもので、合成金属でできている。
もし普通の金属であったならば盾ごと切り裂かれていたかもしれない。
立ち上がると大猿の相手をタップルがしている。
普通の刀で受けれるわけがないので、タップルはかなり押されていて冷や冷やするほどギリギリで攻撃をかわしている。
このままではまずい。
大猿だけでも自分が抑えないと。
「下がって!大猿は僕が抑えるからそのうちに小さいのを倒してほしいんだ。その後みんなでこいつを倒すか逃げ出そう。」
「承知した。」
タップルが上手いタイミングでリロイとスイッチすると周りのサルと戦闘を始める。
正直、エンシェントドラゴンの時と違ってオグがいるので自信が無いが今はやるしかない。
大猿が大きく構えて刀を振り下ろそうとする。
今度は間に木がないので全力で叩き切るつもりだ。
「主よ、光と加護を我らに――シールドオブエンパイア!」
リロイの盾を青白い光が包み込み盾に紋章のようなものが浮かび上がる。
シールドオブエンパイア――神の奇跡で神の帝国兵の力を盾に宿し飛躍的に防御力を上げるスキルだ。
効果時間は30秒で消費魔力がなかなか大きいので連発することが出来るわけではないが、今回は魔力の続く限り使い続けるしかない。
刀が盾と接触するがシールドオブエンパイアの効果で衝撃が和らぎリロイの筋力でも受け止めることが出来る程度の威力になる。
刀を左に流しグラントで攻撃を振るうと大猿の指に直撃し、大猿は刀を落とし後ろに大きく跳んだ。
「ぐぇっぇぇぇっぇえええええええええええええええええええええあああああああああああ」
大猿が雄たけびを上げて近くにいたサルを両手に掴むと食べ始めた。
口を動かすたびに血しぶきが飛びかなり怖い。
きっとさっきのが来る。
「みんな、さっきの大きい攻撃が来るよ」
咄嗟に叫ぶとタップル達が敵から離れリロイの後ろに回る。
「その盾なら受け止められるか?」
「盾は壊れないと思う」
「なら力を合わせるしかない。」
タップルが背中を合わせて踏ん張る。
ウィズとペアーズは盾の陰に入るように屈んでリロイの背中を支える準備をした。
大猿から衝撃波が放たれる。
辺りの木々が衝撃波でなぎ倒されて遠くへ吹っ飛んでいく。
シールドオブエンパイアの効果で衝撃は吸収されているはずだが、次第に圧迫感を感じ始めそれがどんどんと強くなっていく。
耐えられるだろうか。
視界に入っている木々がどんどん遠くへ吹っ飛んでいって、気付けばなにも無くなっていた。




