散り散り
「っつ」
「しっ、静かにするニャ」
痛みで目が覚める。
どうやら気を失っていたようだ。
辺りは霧でよくわからないが、隠れるように段差に横にされているのでケティが運んでくれたのだろう。
「みんなは?」
「わからないニャ。多分だけど何人かは川に落ちて流されたと思うニャ」
「あのデカいサルは?猫又のお友達?」
「ニャーもあんなの見たことないニャ。そもそもニャーがいた時はこんなに霧が濃く発生することなんてほとんどなかったニャ」
「鵺……いや、何か魔力的な可能性はあるって事だよな」
「そういう事だと思うニャ。」
ケティが感覚を強化して辺りを索敵するが、どうやら仲間も敵も気配を感じることはできないようだ。
なんとなくの現在地は分かると言う事なので、川まで行けば川沿いに上流へ向かえば安全に変えれるはずだ。
だが、仲間達はどうだろうか。
オーガ達と一緒なら何とかなると思うが、一人になってしまったらどうしようもないだろう。
かと言って、この霧の中をやみくもに探す訳にもいかないし、大声を出す訳にもいかない。
「でも、俺とケティがセットで良かったな」
「ニャ、なんでニャ?」
「だって、一番移動力があるのは俺達だろ?ここにリロイとかいたら別だけど、二人ならみんなを広範囲で探せるし敵に見つかっても逃げるのは簡単だ」
「まぁ言われてみればそうかもしれニャいニャ」
いつもだったらケティの方がのんきなことを言うと思うが、どうやら今日はそんな余裕がないようだ。
それだけまずい状態と言う事か。
それとも何か気がかりがあるのだろうか。
「それでどうするニャ?」
「とりあえず一旦オーガの村か鬼の村に向かいたい。さっきの荷物が壊れるかもしれないからどこかに預けたいんだ」
「そういえばヒロの世界の物って言っていたけど、いったいなんだったニャ?」
「音を録音するものだよ」
「録音?」
「あぁそうか、録音って言葉が無いのか。例えばさ私の名前はケティって言ってみて」
「ニャーの名前はケティニャ」
「もし、今の言葉を言う前に録音ボタンっていうのを押しておくと押していた間の声を記録して、その後にアストリッドの音楽が流れる石みたいにその声を聴くことが出来るんだ」
「ニャ!?って事は」
「もしかしたらお前の御主人の声が聴けるかもしれないぞ」
実際は音楽が入っているかもしれないし再生することが出来ないかもしれないが、ケティの動向が明らかに開いたことが分かった。
なんだかんだ言って、ご主人の事が好きだったんだろう。
だからこそ今は再生する手段がないが、無地にどこかへ保管しておきたい。
とりあえずケティと話し合って、索敵を行いながら川沿いに進むことになった。
そういえば鬼の村からここまで船で直接来たのでオーガの村には立ち予定ない。
行き成り行って荷物を預けることが出来ると場所があるだろうか。
兎に角進むしかない。
「さっきのデカいサルだけど、仲間を食べたのはなんでだと思う?」
「多分、仲間を食べて魔力を補給したんだと思うニャ。」
「そんなことできるのか」
「普通はできないニャ。でも、食べると魔力を回復する蟲がいるって聞いた事があるから、あのサルたちもそういう特別な生き物かもしれないニャ。それか、あのサルが大猿によって作り出された魔力の塊だったりかなり自分に近い生き物なのかもしれないニャ」
「近いってのは子供って事とか?」
「子供を食べて魔力を上げるなんて話を聞いた事はニャいけど、双子なら片方が兄弟を食べて魔力を強化した話なら知っているニャ」
「双子ね。そうは見えなかったけど。あ、クローンって説はどうだ」
「クローンってなんニャ?」
「あ~、なんて言ったらいいんだろう。遺伝子情報が全く同じ別の個体なんだけど。あ、意図的に作り出した双子で弟を後から作るみたいな」
「そんな事ができるニャ?」
「俺のいた世界ではね。でも、スライムみたいに分裂したと可能性とかもあるんじゃないかな」
「ニャー、確かに魔力を生き物という形で体外に出して、予備の魔力として日々増やしているのかもしれニャいニャ」
そうか。
リロイが魔法石で冷房機を作った時に魔力を体外で補完する方法を考えたが、そういう方法もあるのか。
魔法石の場合、高価な大きいサイズを買わないと大した魔力は保存できない。
一様、こまごまとした魔法石にまとめて魔力を保管して別の魔法石に出力できる技術は出来たが、冷房機は鳥かごの殆どに魔法石を詰めたにもかかわらず最大200までしか貯めることが出来なかった。
もし、魔力自体を何らかの形で体外に具現化し足りない魔力を補えるようにすれば一日で使える魔力量が飛躍的に上がる。
やはり魔法は奥が深い。
この一件が片付いたら魔法都市に行くべきかもしれない。
魔法の基礎だけではなく、精霊の事も詳しく知ることが出来るだろう。
そうすればヒロがなかなか精霊の力を借りた魔法が使えないことも、アポロやアルテミスについても知ることが出来るかもしれない。
だったら鬼の一件の前に行くべきだったが、魔法都市の周辺は東側ほどとは言わないまでも少し強い。
オグが盾として機能しない間はどうせ行けなかっただろう。
背が低い木が多く一気に進むことが出来なかったが、小一時間ほど進むと林を抜けてやっと霧が晴れた場所に出た。
「オーガの村の場所は?」
「ちょっと待ってほしいニャ」
何かに気付いたようでケティがまた霧の中を見ている。
「どうした?」
「多分さっきの大猿ニャ。誰かと戦っているみたいニャ」
「距離は?」
「多分‥‥‥」
ケティの言葉の途中で林の気が一斉に揺れ、衝撃波が来る。
大した威力ではなく強めの風が来ただけだが、恐らくこれはさっきの大猿が放った衝撃波だ。
「戦っているとしたら仲間以外ありえない。助けに行こう。」
ケティが返事をする前に先に跳躍をする。
ケティもわかっているようで、何も言わずにすぐにヒロを抜き去った。
近付いてきたからか段々と何か音が聞こえてくる。
刀と刀がぶつかり合う音、サルの鳴き声。
ケティが木の陰に隠れるのに合わせてヒロも別の木の後ろへ隠れる。
目を凝らすと大猿と戦っているのはタップル、ペアーズ、ウィズ、リロイのようだ。
押されてはいるが、小さいサルはちょうどタップルが最後の一匹を叩き切った様だ。
だが、全員ボロボロでリロイが回復のチャンスをうかがっている。
ウィズに至っては武器を持たず片腕を庇っているのでかなり危ないのかもしれない。
大猿をタップルとペアーズが交互に相手をしてリロイに回復させる機会を作らせようとしているが、どうやら奴の武器のせいで上手くいっていないようだ。
最初に出会った時は持っていなかったはずだが、大猿は馬鹿でかい刀を右手に装備している。
盾を持っていない二人はまともに受けるわけにはいかないので上手くタゲを取り続けるのが難しい。
「ケティ、セラ達は」
「多分あの四人だけニャ」
「そうか、隙を見て加勢するぞ」
クロスボウを構えて目のあたりに魔力のレンズを作り出す。
ホークアイ――弓を使うための補助スキルだ。
狙いを定めるが、デカいわりに動きが早くなかなかうまくいかない。
集中力が切れたのか、タップルが振り回した大猿の左腕に直撃する。
そのまま吹き飛ばされると木に直撃し、木の幹は折れタップルはそこで動かなくなった。
「ふざけるな!」
自棄になったのかペアーズが魔力によって槍の形になった刀を投げつける。
槍は大猿の腹に突き刺さり、傷口から赤い血が流れる。
ペアーズが右腕で引き抜く仕草をすると槍は元の刀に戻りペアーズの元へと戻った。
「ぐぉぉおおお」と大猿が痛みなのか怒りなのか声を上げて刀を横振りする。
刀が手元に戻るタイミングだったのでペアーズは避けることが出来ず、刀でその攻撃を受けるとそのまま耐えられず吹き飛ばされた。
大猿が二人に止めを刺すべくゆっくりと近付く。
そのせいでヒロに背中を向ける形になってしまった。
正直、あの巨体なので心臓を貫くことはできないだろう。
なので目を狙っていたのだが、今の立ち位置では不可能だ。
このままヒロが出て行ったとしても大した戦力にはなれないだろう。
というよりも、10メートル級のモンスター相手にヒロとケティで立ち回れるわけがない。
だとしたら残る手は一つしかない。
「ケティ」
「わかっているニャ」
ケティが両手両足の腕輪を外す。
命を狙っていたオーガ達の前で猫又の姿に戻るのはいい気分ではないだろう。
むしろ助けた後に襲ってくるかもしれない。
それでも今はこれしか選択肢がないのだ。
ケティの体が煮えたぎるマグマの様にグツグツと溶けだす。
それを確認するとヒロは大猿の後頭部に矢を放ち、跳躍強化でリロイのすぐ横に飛び出た。
矢は綺麗に突き刺さったが致命傷に放っていないようで、大猿は頭をかくような仕草をすると矢を見つけて引き抜いた。
「リロイ、武器はいいからこれ持ってて。中身を絶対に壊さないように護るのとオーガの手当てを」




