赤鬼と青鬼
「よく来たな。朝早くだから大変じゃろ」
「まずは茶でも飲むかい?」
と二人の大鬼が出迎えてくれた。
二人とも身長3メートルはあるだろうか。
バッキバキの筋肉になぜかお腹だけがポッコリでている。
先に話しかけてくれた鬼の肌は赤色で、黄色いドリルのような黄色い角が一本。
髪の毛は無いが、その分眉毛のボリュームがえげつないほどある。
その横でお茶を入れるために馬鹿でかい鉄瓶を持っている鬼肌の色は青色。
赤い鬼と同様の体つきで角は二本、若干天然パーマ気味の髪で眉毛は眉の尻が下がっていて優しそうに見える。
地味巨乳メガネセイレーンのレインの案内で鬼の村に着いた直後に出迎えてくれた二人の鬼はアッキとウンキという鬼で赤鬼青鬼の村をまとめている村長のような立ち位置の二人だ。
鬼は他にも種類がいるのだが、オーガという種族に名前を変えて隣の村に住んでいるらしい。
今回ヒロが呼ばれたのは鬼たちの米作りの規模を大きくするためのお手伝いの為だ。
鬼たちはサザラテラが出来たころにこのウンディーネの湖の東側に移動してきた。
それから湖の北東側を巨大な田園築き上げてきたのだが、どうやら人口の増加と共に範囲を広げたいようなのだ。
だが、ウンディーネたちから湖全域を囲むことを断られ、どうにか北東側の川の水だけで何とかしたいようだ。
しかし段差を利用した田んぼを作れる場所は殆ど開拓が終わり、あとは森を切り開いて平坦な土地に作っていくしかない。
そこでヒロなら何か知っているんじゃないかという話になった様だ。
「お茶は美味いか?」
「えぇ緑茶なんて久しぶりですし、体に染み渡ります」
「黄鬼んとこで作っとる茶葉じゃけ他の茶より上質やろ」
「毛茸が見えたので上質なお茶というのは気付いていました」
「そうじゃそうじゃよく知っとったの!」
ヒロを試していたのか、それとも純粋に他種族が緑茶を知っていて嬉しかったのか赤鬼にアッキが嬉しそうに胡坐をかいた自分の膝を叩く。
本人は喜んでいるのだろうが、膝を叩くとちょっとした衝撃波がここにいる仲間全員に来るので落ち着かない。
地味巨乳メガネセイレーンのレインに至っては、気が弱いからか正座しているせいかプルプルと体を震わせている。
「おめぇさん達無理に正座しなくてもいいんだで」
「良かった……」
水を汲んで戻って来た青鬼のウンキに言われてセラとレインが嬉しそうに足を崩す。
ちなみにドワーフのリロイは手足が短いので正座などできるわけでもなく、最初からテディベアのような座り方をしていた。
ヒロとアストリッドは比較的平気だったのだがお言葉に甘えて最後に足を崩す。
特にヒロも長時間の正座ができるというわけでもないが、体格の違う鬼と衝撃波の影響で足にまで気が回っていなかった。
人は暗算など考え事をしていると正座していても痺れないというので恐らくはこの影響だろう。
「それで、どうかのう?なにかいい方法はあるかの?陸稲はしたくないのでなぁ」
「ここよりずっと下流の村で揚水水車――えっと、水を組み上げるタイプの水車を使っている村がありませんでした?」
「おめぇさんなんでそれをしっとる」
ちょうど昨晩にケティの話に出てきたので口にしてみたが、どうやら地雷を踏んでしまったらしい。
ただでさえ赤かった赤鬼アンキの顔が怒りで赤くなったように見える。
その横の青鬼ウンキも眉を顰めてこちらを睨みつけている。
「あの村が無くなったのは30年も前じゃ。お前さんはまだ生まれるかどうかというころだろうに」
「そうじゃ、それにあの村にはもう誰も近寄れないはずじゃ」
片足を立てて二人の鬼が威圧してくる。
正直めちゃくちゃ怖い。
何か言いたいが圧が強すぎて言葉が出ない。
ただ、嫌な汗が額から流れるのを感じる。
「それはあの村に技術を渡したのはヒロの祖先だからニャ」
意外にもこの場を助けてくれたのはケティだった。
「祖先というのはどういう事じゃ?」
「記録によればあそこの村に住んでいた男が水車を弄って水を組み上げてたはずニャ。ヒロは元々その男が持ち出した技術があった隠れ里に住んでいたニャ」
「隠れ里じゃと?」
嘘のようなホントのような。
だが、隠れ里っていいのか?
逆に怪しまれないだろうか。
赤鬼アンキがどんどん前のめりになってケティに顔を近づけていく。
座ったままで離れているのに慎重さのせいか、それともこの圧迫感の成果顔が目の舞に来ているような錯覚に襲われる。
まさかこのままぶっ殺されないよな?
オグがいればなんとか……いや、ここは鬼の村で鬼はこの二人だけではない。
レインの運転する荷台からざっと村を見渡した時に畑仕事をしている鬼が何人か見えた。
この二人から逃げてもすぐに他の鬼に見つかってしまう。
そうだ、レインに仲裁してもらおう。
そっとレインの方に視線を向けるが気が弱いレインにはこの場の圧迫感はきつかったらしく、白目をむいて気絶している。
まじかよ、役に立たねぇ巨乳だな。
まさかタマリが来なかったのってこういう事に備えてだったのか?
だが、ヒロの心配は無駄だったようだ。
「なんだ、そうだったのか!てっきり物の怪の類かと思っちまった」
「すまんすまん。俺もちょっと思ってしまった」と急に二人は笑顔になって笑い始める。
「物の怪?」
「そうじゃ。あの村の周辺には物の怪が住んでおって今は黒鬼、黄鬼たちが誰も近付かないように見張っているんだ。」
「物の怪っていうのは具体的に言うと猫又とかですか?」
「よく知っておるの。だが、今一番警戒しておるのは鵺じゃ」
「鵺か……」
鵺は猿の顔、狸の胴体、虎の手足を持ち、尾は蛇の妖怪だ。
だが、最近の研究で鵺の正体はレッサーパンダだと証明されたはず。
鬼たちがレッサーパンダを怖がるのか?
いや、ここは異世界だから鵺が実在していてもおかしくないのか。
「鵺を知っているようじゃが、まさかそこへ行くなんて言わんよな」
青鬼ウンキが心配そうな顔で覗いてくるが、正直どうしようか悩んでいる。
というのも、無理に揚水水車を見に行く必要はないからだ。
ヒロとドワーフのリロイがいれば、既存の水車の仕組みを理解すれば問題なく作れるだろう。
もともと揚水水車が出来たのも中性より前の時代だろうし、そこに不安はない。
だが、例の村が封鎖されていたのであればケティの過去に繋がる何かがあるかもしれない。
さっきの赤鬼の話だとケティが猫又になったのは30年も前のことになる。
ウンディーネ達はつい最近の事のように話していたが、それだけ二人にはきつい出来事だったはずだ。
悩む。
鬼たちが倒せていないのだから鵺はきっと強いはずだ。
だが、猫又のケティがいれば逃げ出せはするかもしれない。
目的は鵺の討伐でも調査でもない。
出くわさない可能性だってある。
「とりあえず黒鬼たちと一度話をさせてもらえませんか?」




