ウンディーネ
「ここは天国か!?」
ウンディーネの居る湖に到着し、ヒロがここ最近一番のテンションで声を上げた。
さっきまで登るのが辛くてぐったりしていたのにそんなにウンディーネが好きなんだろうか。
そういえばヒロがスライムの女の子がいかに好きか話していた時にウンディーネの話をしていたのも思い出す。
ヒロが言うにはウンディーネは人に恋をした水が命を持ったものなんだとか。
でも、恋人にけなされたり愛を失うと水に戻ってしまう。
もし恋人が浮気をすればその人を殺さなければいけない。
ヒロの世界には沢山のウンディーネの物語があるみたいで、聞いた話はどれもウンディーネは悲しい最期を迎えてしまう。
だからウンディーネは愛されたいけど怖くて恋ができない。
もし自分がウンディーネに会えたら幸せにしたいと言っていた。
そんなヒロがあのウンディーネに会ったらなんていうのかな。
そんな事を考えて湖を見渡すと幾人ものウンディーネがこちらを見ている。
全員薄い水色で、遠目で見ると全員透けていて違いが分からない。
私を助けてくれたウンディーネはどこだろう。
目を凝らして見渡すがなかなか見つからない。
「ねぇセラさん、ヒロさんたち行っちゃったよ」
「え?」
リロイが指で示した先を見るとアストリッドが空中でくるくると回ってヒロたちを見失わないように合図してくれている。
「ごめん、ついていこう」
とりあえずここにいても仕方ないのでヒロたちを追うことにした。
――――――
「本当に驚いた。お前の主人は噂以上だったな」
「ニャーもびっくりニャ。まさか一発で見つけるなんて」
ヒロたちを追いかけてみると、驚いたことにヒロ達は私を助けてくれたウンディーネを見つけて話しかけていた。
「あ、あの」
「お前も来たのか。あの時より強くはなったか?」
「え?あ、はい」
ウンディーネが私に近付いて頭をなでてくれる。
スリットの入った体のラインがしっかりとわかる細身のワンピースに大き目のベルト。
前髪は後ろで一緒に束ねている。
やっぱりあの時のウンディーネだ。
「な、なんで彼女の場所が分かったの?」
「それは私も驚いた」
ヒロに訊くとウンディーネも驚いたらしく、どうやら本当にヒロは一発であったこともないウンディーネを見つけたようだ。
「いや、なんでわかったかっていうとさ」
そう言ってヒロはウンディーネに近付いて右手を取り
「彼女が一番美人だからこの人だったらいいなって」と真顔で目を見ていった。
「ニャハハハハハ、それは面白すぎるニャ」
ケティが笑い転げ、それを見て「黙れ化け猫」とウンディーネがケティにムッとした顔をする。
もしかして知り合いなのかな?
「冗談はいいからなんでわかったの?」
「お前も冗談だと思うのか?」
ウンディーネからの思わぬ突っ込みに「え?」と変な声を出してしまった。
「美人だってのはセラから聞いていたので、今のは侮辱じゃないですよ」
そう言ってヒロが話始めた。
どうやらヒロは私が伝えた情報の中でも髪型が決め手で彼女を見つけたようだ。
ウンディーネの髪型はポンパドールという髪型で、ヒロが好きな髪型の一つらしい。
言われてみれば頭のてっぺんを少しふんわりさせていて、サイドは束ねず残している。
髪型の事はいつもヒロに任せて全然わからないけど、ヒロは女性のこういう些細なところに詳しい気がする。
もしかしたらエルフの里から出たことがなかった私が知らなすぎるだけかもしれないけど。
ヒロが好きならやってみたいけど、目が見えちゃうからやっぱり私にはできないのかな。
「それで、今日は何をしに来たんだ?」
ウンディーネが私の目線の高さまで腰を落とし、瞳を覗いてくる。
近くで見るとやっぱりきれいだ。
と、見とれている場合じゃない。
「あの、上位魔法の為に私と契約してほしいんです」
「あぁ、お前は私を一度召喚している。契約は成立だ」
「え?じゃぁ」
「もう上位魔法を使ってもいいぞ」
ウンディーネはそう言ってヒロの方を見ると「要件はそれだけかと続けた」
「え?これだけ?もう上位魔法つかえるの?」
「あぁ使えるぞ」
「そうなのセラ?使ってみて」
ヒロが無茶ぶりを言っているが、上位魔法は契約した後に魔術ギルドで上位魔法を学ばなければならない。
要は習得の前段階が完了しただけだ。
ヒロはその事を知らないのかな?
「なんだ契約だけで上位魔法を使えると思ったのか?」
「え?てっきり精霊から教えるのかと」
「フフフ、そんなわけないだろう。我々は術者に力を貸してやるだけだ」
「マジで!?そっか、俺は属性系の魔法が習得できないからちゃんと勉強して無くて」
その後、ヒロとウンディーネは楽しそうに話をしていた。
ヒロはウンディーネを仲間にしたかったみたいだけど、ウンディーネは湖から離れられないと断わられた。
どの位話しただろうか。
「それで今夜はどうするんだ?化け猫の巣なら残っているぞ」
「ニャー、それは言わないでほしいニャ」
気付けば辺りは暗くなっている。
そして、驚いたことにウンディーネとケティは知り合いだったらしく、ケティは昔この辺に住んでいたんだとか。
今日はそのケティが住んでいた洞窟で一晩過ごすことになった。
――――――
食事を終えて洞窟の外へ出て夜空を眺める。
空が近いせいか月が綺麗だ。
皆話をしているけど、ヒロとウンディーネは凄く仲良さそうだ。
それが何か引っかかる。
なんでだろう。
なぜか妖精の森の事を思いだす。
あの言葉の後、ハルトは何て言おうとしたんだろう。
いや、私も馬鹿じゃないからなんて言いたいかはわかってる。
私もきっとハルトと同じ気持ちだ。
だけどなんだろう。
うまく言葉に表せない。
「悩み事か?」
「え?」
いつからいたのだろうか。
横を見るとウンディーネがすでに座っていた。
「お前の主人と私が仲良くするのは面白くないか?」
「そんなことない」
「ならその顔はどうした?いい女が台無しだ」
下を向こうとしたがウンディーネは私の顎を掴んで無理やりあげさせる。
そのせいで彼女と目が合う。
月明りに照らされたウンディーネは女の私も見とれるほど綺麗だ。
「私はあなたみたいに美人じゃないし」
そう言って腕を振りほどくと
「お前は可愛いじゃないか」とウンディーネは笑ってみせた。
「お前に私の秘密を教えてやろう」
「秘密?」
「これを聞いてお前が今の状態を吹っ切れるなら一つ上位魔法を教えてやる。ただし、話を聞いてお前が私を嫌いになれば契約は破棄だ」
ウンディーネの瞳が真っすぐと私を見ている。
彼女は真剣だ。
シルフたちも彼女は特別なウンディーネと言っていた。
どうしよう。
でも、ヒロならどんなことでも受け入れると思う。
だから私もそうありたい。
「あなたの秘密を教えてください。」
そう告げるとウンディーネ嬉しそうに笑うと私に近付き耳元でこう言った。
「私は人間の男を愛した。そしてその男を殺したんだ」




