ランドバスター
「お願い、二人を助けてください」
担いでいたケティと引きずってきたハルトの横に降ろす。
「なんて事、こりゃ最優先で回復しないと。ちょっと一人こっち手伝って」
回復ができる女性のオークが他のオークを呼んでケティとハルトの治療を始める。
他のオーク達の治療も行っていたみたいだが、時間が足りないみたいで完全に回復しきっている人は誰もいない。
多分最低限回復したら別の人を回復しているんだと思う。
「セラ、アタシを起こしてくれ」
呼ばれた方を向くと、ネグが横たわっていた。
「でも、まだ傷が治っていないんじゃ……」
「いいから起こせ」
ネグの勢いに負けて上体を起こしてあげると、戦っているヒロたちを見て「戻らないと」
「その体じゃ無理じゃ」
「ンな事言ってられないだろ」
ネグの火傷は殆ど治っているけど、回復をしているオークさんが言うには何本も骨が折れているらしい。
こんな状態で戦えるわけがない。
「ダメ!ヒロだったら絶対に戦わせない」
「お前にヒロの考えが分かるのかよ」
「それは……」
確かにわかるなんて言いきれないかもしれない。
ヒロは出会ってからずっと一緒にいてくれた。
分からないことを沢山教えてくれたし、髪だって毎日梳かしてくれた。
魔法を一緒に習いに行ったり、食べ物を一緒に売った。
髪の毛だって切ってもらったし、何よりハーフエルフの自分を受け入れてくれた。
ネグより自分の方がずっと一緒にいる時間が長い。
――でも。
二人が同じベットにいた映像が頭で再生される。
ネグの方がヒロの事を理解しているのかもしれない……。
――そう思うとなぜか胸が苦しくなった。
「いいからアタシをあそこに連れていけ」
ネグが私の腕を掴んで立ち上がろうとする。
ヒロならどうするだろう……。ヒロなら――。
「ヒロならこのまま戦わせない」
立ち上がろうとしたネグの肩を押して座らせる。
「ならどうするんだよ」
「きっとこうする」
ネグの肋骨あたりを軽く触る。
「痛っ……なにすんだよ」
「こうするの――修復」
修復は治癒力を高めて傷を回復させる魔法。
奇跡で回復するのとは違って対象者の体力が減ってしまうけれど、回復の手が足りない今はこれがきっと最善策だ。
「傷を治せるのか?」
「奇跡じゃないからネグさんの回復力次第です。あと、傷を治すのはあくまでネグさんの体なので凄く疲れますよ」
「戦えればそれでいい」ネグは少し笑い「ありがとな」と言った。
「ヒロだったらきっとこうするから」
「そうか――」
ネグはそれから何も言わずにグレーターデーモンと戦う二人を見ていた。
グレーターデーモンの攻撃は剣が届かない場所も纏った炎がまるで延長された剣のように攻撃してくる。
延長された部分は盾で受けることができないみたいで、オグは剣の部分を盾で受けて攻撃を防いでいる。
ヒロはスキをついてかかとばかり狙って攻撃しているけど、何か意味があるのだろうか。
「あそこで戦っているのはオグか?」
後ろから声がして振り向くとオークの族長が他のオークを連れて立っていた。
その手には何か大きなものを布で巻いて持っている。
「親父なんでここに?」
「ヒロさんに言われてこいつをもって来たんじゃ」
「そいつは?」
「それよりもじゃ、みな回復を手伝ってくれ」
族長がそう言うと、一緒についてきた4人の女性オークが倒れているオークたちの回復を始める。
「アタシの回復は?」
「お前はそこで見ておれ。わしが行く」
「親父はもう現役じゃないだろ」
「そんな事言っている場合ではないじゃろ」
族長がグレーターデーモンに向かって走っていく。
手に持った荷物を投げ捨てると「オグ、いったんわしに任せて荷物を取れ」と言って、拾った石をグレーターデーモンの顔に向かって投げつけた。
顔に石が直撃したグレーターデーモンは族長に向かって剣を振り上げる。
オグは後ろに下がって荷物の方に近づき、逆に族長は距離を詰める。
紙一重の所で剣をかわしグレーターデーモンの腕を掴むと族長は手前に腕を引いた。
するとグレーターデーモンはバランスを崩して倒れこむ。
しかし倒れたグレーターデーモンは剣を放し、両腕を広げると自信を中心に魔力による衝撃波を放つ。
族長はとっさに後ろに飛んで衝撃波を受け流し、ヒロの横に並ぶ。
「まさか族長が届けてくれるとは」
「たまには外に出ませんと鈍りますからの」
「頼りにしていますよ」
グレーターデーモンが起き上がり二人に向かって横なぎに剣を振るう。
勿論剣は届かないが、纏った炎が二人を襲う。
ヒロは「あぶねっ」と伏せてかわしたが、族長は「おぐうぇ」と上体をそらせてそれをかわした。
しかしそこで族長の動きが止まった。
ネグは「親父のやつやりやがった」と右手をおでこにあてる。
「え?何が起きたんですか?」
「ギックリ腰だ」
「ギックリ腰!?」
グレーターデーモンが族長に向かって剣を振り下ろそうとする。
それをオグが盾でタックルして阻止した。
その腕には3メートル以上はある巨大な円錐状の武器が握られていた。
「まずは族長から引き離せ!」
「わかった」
オグが盾を使ってグレーターデーモンを突き放し、ヒロは族長に肩を貸してある程度離れたところまで連れて行く。
「いいかオグ、俺の注文通りならその武器は柄が1.5メートル、円錐の部分が2メートルある。お前は突き攻撃なら当てられる。どうしても横なぎしたい場合は柄を脇に挟め」
「わかった」
オグが盾で攻撃を受けながら突き攻撃をする。
するとオグの攻撃は見事にグレーターデーモンの体にあたった。
それを気にグレーターデーモンの攻撃が激しくなる。
それでもオグは盾で攻撃を受け流し、合間合間に突き攻撃を放つ。
攻撃が当たらなかった時とは違って、突きが当たる分押しているようにも見える。
「あれがオグとはな――」
族長がヒロから任されたオークに肩を借りて連れてきてもらいネグの横に座る。
「親父あの武器は?」
「ヒロさんが村の職人に作らせたランスという武器じゃ。円錐状の金属部は火山竜から取れる鉱石を使っておる最高の品じゃ。名をランドバスターと名付けた」
「ランドバスターねぇ」
「しかし見て見ろ。皆、オグは盾しか使えぬものだと思っていたが、わしらがあいつに合う武器を知らんだけじゃった」
「爺さんがオークの族長になった時と同じだな。オークはこれ以上の暮らしは無いと思っていたけど、爺さんが来て暮らしがよくなった」
「異文化を知らぬのは己の限界を見誤るのかも知れんの」
オグに必死だったグレーターデーモンのスキをついてヒロがかかとを切りつける。
その直後のグレーターデーモンが攻撃しようとしたタイミングだった。
足を踏み外したようにグレーターデーモンがバランスを崩す。
そこをオグのランドバスターがグレーターデーモンの肩を突き転倒させる。
「盾で顔を潰せ!」
ヒロに言われてオグがグレーターデーモンの顔に盾を振り下ろすとグレーターデーモンの顔はぐちゃりと潰れた。
「オグの盾は多分セラより重いよ」とヒロが言っていた。
そんな重いものを勢いよく顔に叩き落とされた日にはひとたまりもない。
グレーターデーモンの体はビクンと動いたと思ったらその後動くことはなかった。
「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお」とオグが勝利の雄たけびを上げる。
ヒロはフラフラと座り込み、戦いの行く末を見ていたオーク達は歓声を上げた。




