グレーターデーモン
デーモン達には階級がある。
レッサーデーモン、デーモン、グレーターデーモン、アークデーモン、デーモンロードと階級が上がっていく。
バフォメットの例で挙げると、デーモンがバフォメットでバフォメットが召喚するデーモンがレッサーデーモン。
さらにバフォメットの長がグレーターデーモンにあたる。
アークデーモンからは別のデーモン種が各デーモンをまとめ、デーモンロードまで行くと人間界で言う英雄の様な存在になるんだとか。
兎に角、目の前にいるのはバフォメット達の長であるグレーターデーモンなのだが、戦況はかなりまずい。
バフォメット達は全滅させたが、殆どのオークが戦闘不能状態に追い込まれ、今はネグとチカラパワー兄弟がグレーターデーモンと戦っている。
「みんな可能な限り戦闘不能の人を岩陰まで運んで回復を。オグは今のうちにグレーターデーモンの動きをしっかり見ておいて」
ヒロの合図で女性のオーク達が岩陰から走り、男のオーク達を担いで運び始める。
女性のオークはネグを除き全員で5人。
戦闘用の魔法を持たない彼女たちには回復に専念してもらい、ネグ達が戦闘不能になったらヒロたちが戦うしかない。
「いいかみんな。ネグ達がやられたら俺たちがあいつと戦うしかない。戦闘は事前に話した通り盾役のオグを中心に戦うぞ。」
「わかってるニャ」
「頑張るよ兄さん」
「――サポートは任せて」
各自返事をするがセラだけ黙っている。
「セラ、戻ったらちゃんと話そう。だけど今はみんなの命がかかってるから集中してほしい」
「わかってる」
「セラ、こっちを見て」
セラの前まで行きセラと同じ目線まで腰を落す。そして右手の中指と人差し指で自分の目を指す。
「集中するんだ」そう言って今度はセラの両目を指で指す。
セラは両手でギュッと杖を握りしめた。
ネグ達の方を見るとかなり押されている。かと言って戦闘に参加したいが、かえって邪魔になるだろう。
チカラが大斧、パワーが鉄槌で左右から攻撃を仕掛けるがグレーターデーモンは両腕の剣でそれを受け止める。
そこをネグが鋼鉄の棒で殴りかかるのだが、グレーターデーモンが上段の両腕を広げると3人とも吹き飛ばされた。
恐らく衝撃波だ。
だが、ヒロの知っているものとはかなり威力が違う。
グレーターデーモンを中心に発生した魔力の衝撃波は数十メートル離れているヒロたちの所まで届いた。
これを間近で受ければ屈強なオークであるチカラとパワーも簡単に吹き飛ばされる。
「ふざけた事しやがって」
「その腕へし折ってやる」
チカラとパワーが立ち上がった時にはグレーターデーモンの上段の両手の先に複数の炎の矢が複数現れる。
そして両腕を振るうと炎の矢が発射された。
「ふざけやがって!」
パワーが鉄槌で炎の矢を叩き落とすが、いくつかは捌き切れず左肩に突き刺さる。
チカラの方は大斧を盾にしたようだが両足に矢が突き刺さり、両ひざを地につけた。
ネグがグレーターデーモンに攻撃を仕掛けるが両腕の剣で攻撃を受け止められ、また上段の両手に炎の矢を生み出す。
剣での攻撃が始まるがネグは上手くそれを捌いても攻撃にうつれない。
グレーターデーモンも矢を放つタイミングを見計らっているのか、剣での攻撃に止めている。
お互いに攻め切れない状態が続いたが、その状態を崩したのはパワーだった。
パワーが振り下ろした鉄槌をグレーターデーモンが右腕の剣で受ける。
そのタイミングで左手の剣を捌いたネグがグレーターデーモンの顎に一撃をお見舞いした。
グレーターデーモンは大きく後ろに仰け反り、とっさに上段の両手の炎の矢を放つが当たらない。
そこをネグとパワーが追撃を仕掛けるが、またグレーターデーモンは上段の両腕を広げ衝撃波を発生させ二人を吹っ飛ばした。
立ち上がろうとするネグにグレーターデーモンが剣での攻撃を仕掛ける。
ネグは上手く転がり攻撃をかわすが、グレーターデーモンは上段の両手に炎の塊を生み出しネグに投げつけようとする。
炎に耐性があるのだろうか自分もろともネグを攻撃するつもりだ。
だが、飛んできた大斧がグレーターデーモンの右腕を切り落とした。
――チカラだ。
両足をやられて動けなかったが、チカラが大斧を投げた。
だが、左手から放たれた炎の塊は直撃しなかったものの、ネグを吹き飛ばす。
半身に大けがを負ったネグは蹲って動かなっていた。
グレーターデーモンは爆発の直後、見えない壁のようなものが発生し炎を防いだ様に見えた。
グレーターデーモンが残ったパワーの方を向き剣を構える。その時だ。
「――水の威圧」
圧縮された水がグレーターデーモンを攻撃するが見えない壁で威力が軽減される。
しかし、威力が下がっても軽く皮膚を裂き、腕に怪我を負わせた。
水が飛んできた方向にグレーターデーモンが向いた時には、オグが盾を使って思いっきりタックルをする。
「パワーさん、姉さんとチカラさんを担いでいったん離れて」
「お前に任せて逃げられるわけないだろ」
「逃げるんじゃない。助けるんだ!早く!」
「お、おま……わかったよ」
オグに圧倒されたのかパワーが武器を捨てネグとチカラを担いで離れていく。
「――影の拘束」
ハルトの魔法でグレーターデーモンの影が紐状になり足に絡みつく。
しかしブチブチと簡単に影の紐を切りグレーターデーモンはオグに攻撃を仕掛ける。
オグは盾を使って両腕の大剣での攻撃を捌いていく。
完全に盾で受けるのではなく、力を逃がす様に攻撃をいなすその動きは達人と言えるほど安定していて危なげがない。
しかしグレーターデーモンは残った上段の腕から魔法攻撃を仕掛けようとする。
剣での攻撃で盾はふさがっているのでこれは防ぎようがない。
だが、オグは一人で戦闘をしているわけではない。
ケティが「ニャッ」とグレーターデーモンの腕を蹴り、放とうとした炎の塊は明後日の方向へ飛んでいく。
続けてヒロが太ももを小刀で切りつけるが皮膚が固く、軽く切り傷をつけるだけだった。
「――ファイアボール」
セラの放った火球が飛んでいくが、また見えない壁で防がれ今度は完全に無効化された。
「セラ、ハルトは中級魔法を頼む。こいつに下級魔法は利かない」
「永久の波を眺めしもの 清らかなる心の源よ」
「汝、夜を照らすもの 清らかなる乙女の象徴よ」
セラとハルトが詠唱を始める。
グレーターデーモンはヒロとケティを攻撃したいようだが、その度にオグがシールドバッシュを仕掛けてそれを止める。
それが相当鬱陶しかったのかオグに攻撃を集中し始めた。
オグの盾の技量は本当にすごい。
極力武器での攻撃はせずに盾を使って敵を抑えるよう言ったのだが、剣での攻撃を仕掛けない限り安定力がある。
ケティが魔法の発動を止め続けている限りグレーターデーモンの攻撃は当たることはないだろう。
「――月夜の呪縛」
グレーターデーモンの周辺に魔法陣が複数現れ、そこから鎖が召喚されグレーターデーモンの手足を拘束する。
今回は引きちぎられることもなく、グレーターデーモンの動きを封じることができた。
「――水の威圧」
ハルトの魔法に続いてセラの魔法が発動する。
見えない壁で威力は下がるものの、ヒロの攻撃よりはしっかりと傷を与えた。
「今だオグ、ケティ!」
「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお」
オグが大剣を振るう。それがヒットした直後にケティの垂直落下キックが当たるようケティが空高く飛び上がる。
これが当たればグレーターデーモンでもひとたまりもないだろう。
しかし最悪の事態が起きた。
オグは盾の技術は素晴らしいが、剣の腕は最悪だ。
大剣はグレーターデーモンに当たらないどころか月夜の呪縛で召喚された鎖を叩き切ってしまい、グレーターデーモンの上段の腕が自由になる。
さらに最悪なのが、落下キックを仕掛けたケティを空いた腕で突き刺したのだ。
グレーターデーモンの上段の腕がケティのキックで引きちぎられる。
しかし猛禽類のような爪が付いた腕が突き刺さったケティはグレーターデーモンの腕をつかんだまま動かない。
「きぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
グレーターデーモンが叫ぶと両腕の大剣が炎を纏う。
そして右腕の鎖を引きちぎり、残りの鎖を叩き切った。
「ごめんなさい。僕……」
「いいからしっかりタゲを取れ!」
動揺したオグのスキをついてグレーターデーモンがハルトの方向に剣を振るう。
剣は届くはずがないのだが、纏った炎がその攻撃範囲を広げハルトに直撃した。
「ハルト!」
セラが声を上げる。
それもそうだ。直撃したハルトの服は灰になり、体は焼けただれるどころか溶けているように見える。
――まずい。
拘束と回復を絶たれた。
最大火力のケティも戦闘不能状態だ。
「セラ、二人を連れて離れろ!」
「でも……」
「でもじゃない。早くしないと二人が死ぬ」
セラが杖を捨て、ケティを担ぎハルトを引きずっていく。
それをグレーターデーモンが攻撃しようとするが、今度はオグがシールドバッシュでそれを止めた。
グレーターデーモンのターゲットがオグに移り、攻撃を始めるのだがオグに余裕がない。
自分のせいで危機的状況に陥った罪悪感もあるのだろうが、明らかにあの炎をまとった大剣が規格外なのだろう。
「いいかオグ、今戦えるのは攻撃が全くできないお前と火力になれない俺だけだ」
「ごめんなさい」
「謝りたいのは分かるが、今は集中しろ。勝って二人に謝れ」
グレーターデーモンの攻撃を捌き切れなくなってきたのかオグが無理に大剣を振るう。
しかしグレーターデーモンはその大剣を受けるのかと思いきや、叩き折ってしまった。




