宴
「宴だぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああ」
「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
外からオーク達の声が聞こえる。
どうやら宴が始まったようだ。
グレーターデーモンが倒れた後、ネザーゲートは灰のようになり崩れて消えさった。
その足で回復したハルト、ケティ、ネグも一緒に山頂でジジの腕輪を回収し、無事にハルトのユニークスキル問題が解決。
オグは成人の儀式が終わっただけでなく、今回の戦いのせいもあり行きかうオーク全員に戦士として認められ称賛の声をかけられていた。
宴の主役はオグで間違いないだろう。
ケティ達も宴に参加しているのだが、ヒロはそうじゃなかった。
フライパンを置き、出来上がったものをパンにはさむ――ハンバーガーだ。
それを机に運ぶ――もちろん二人分。
椅子に着くと向かいの椅子に座るセラが嬉しそうに笑う。
今日は髪留めで前髪を止めて、右のエメラルドの様な瞳もこちらを見つめている。
そういえばケティが仲間になってからハーフエルフであることを隠すためにずっと右目は隠していた。
やっぱりこうやってみると綺麗な眼だな。
「今日はハンバーガーにしてみたよ。ハンバーガー娘さん」
「もうハンバーガー娘じゃないし」
「サザラテラに戻ったらまた言われるよ」
セラがハンバーガーを一口食べると目を輝かせて「オーロラソースだ」と喜びの声を上げる。
「セラはオーロラソースが好きだね」
「だって、ヒロが私みたいだって言ったから」
「言ったっけ?」
「言ったよ!」
言った覚えがなかったが、セラの話を聞いて思い出した。
――まだサザラテラにいる時だった。
セラがハーフエルフを受け入れる自分に疑問を持っているころ。
「今日も無事に全部売れたね」
「だってハンバーガーもホットドックも美味しいもん」
「なら、今日の夕飯はいいものを教えてあげようか。セラはハンバーガーとホットドックどっちが好き?」
「私はどっちも好きだよ」
「そうだよね。じゃぁこの二つにはどんな調味料が使われているっけ?」
「マヨネーズとケチャップでしょ」
「そうだね。この二つはそれぞれそのまま使っても美味しいけど二つを混ぜてごらん」
セラはさらにマヨネーズとケチャップを取り出して完全に混ぜ合わせる。
「薄いオレンジ色になったよ」
「じゃぁこれにジャガイモにつけて食べてごらん」
セラは千切りにして炒めたジャガイモにオーロラソースをつけて口に運ぶ。
「美味しい!」
「でしょ。一つ一つでも美味しいのに混ぜたらまた別の美味しいものになったね。じゃぁ今度はこれにつけて食べてごらん」
そう言って今度はマヨネーズとケチャップを完全に混ぜ合わせず、軽く混ぜた状態でジャガイモにつけセラに食べさせる。
「さっきより味がしっかりしてる」
「でしょ、完全に混ぜ合わせない方がそれぞれの味が際立って味が濃くなるんだ」
「こんな食べ方もあるんだね」
「これってさ、セラにも言えるんじゃないかな?」
「え?」
「人間とエルフっていう素敵なものがあって、それを混ぜたハーフエルフもきっと素敵なものなんじゃないかなって。セラのオッドアイはこの完全には混ぜ合わせないオーロラソースと同じで、よりセラらしさを引き立てているのかも」
「う~ん、そうかなぁ」
「しっくりこないよね。俺も思い付きで言っただけだから忘れて」
確かにセラがなんにでもオーロラソースをかけて食べるようになったのはこの頃からだ。
何気ない一言で人の考えに影響するもんなんだな。
――食事を終えて満足そうな顔でセラがこちらを眺めている。
「上機嫌だね」
「うん」
「そろそろみんなのところに行こうか」
「今日は髪やってくれる?」
「そう言えば何日かやってなかったね。今日はもうお風呂に入ったし、髪を梳かしてからいこうか」
「うん!」
――セラの髪の毛に櫛を通す。
鏡が無くて顔は見えないけれど、セラが笑顔なのが感覚でわかる。
「魔法の練習もそろそろ再開しなきゃ」
「今日はどの魔法にするの?」
「セラは水の威圧かな――俺は何にしよう」
「ヒロって四大属性の下級魔法下手糞だよね」
「セラだって最初は酷かっただろ」
「でも、今は中級魔法も使えるもん。そのおかげで昨日は助かったんだよ」
「確かにそうだよな。実際下級魔法はそんなに戦況を左右しないし、サザラテラに戻ったら中級魔法をお互いに覚えよっか」
「今度は風の魔法がいいなぁ」
「何で風の魔法?」
「だって風の精霊のシルフは小さくて可愛いって聞いたし」
「地の精霊のノームも小さくて可愛いって聞いたよ」
「ノームは小さいオッサンだっていうから嫌だな」
「おい、ノームが聞いたら泣いちゃうぞ」
「今はシルフがいいの!」
こうやって二人で過ごすのはいつぶりだろう?
仲間が増えた今ではこんな時間は意識して作らないと無理だろうな。
そう言えば、サザラテラに戻ったら部屋割りはどうしよう。
ケティは一階で、ハルトは家の外で野宿してもらおうか――。
――――――
「お、もう一人の主役がやっと来たぞ」
「お前ら場所を空けろ!」
宴に参加すると、チカラパワー兄弟がすぐによってきて宴の中心へと連れていかれた。
みんな大分出来上がっていて、あれだけ綺麗に和食を食べていた族長も素手で巨大な肉を掴み貪り食っている。
「あのオグを立派な戦士にしたのはお前だ!お前がいなきゃオグは一生盾の陰に隠れてたぜ!」
「そうだ!オグもお礼を言え!お礼を!」
パワーがオグの背中をバンバンと叩くと「う…おえっ…」とオグが吐きそうな声を出す。
大分飲まされたな。
ケティは右手に酒、左手に魚の串焼きをもって「ニャー」とか言いながら走り回っている。
ハルトはオグの隣で一人で飲んでいたみたいだが、たった今セラが隣に座った。なんかムカつく。
ネグは―――。
「思ったより大騒ぎしないんだな」
「別にしねぇよ」
「こういう時はお淑やかなんだ」
「うっせ」
予想と反して一人で飲んでいたネグの横に座ると酒の入った木のコップを渡してくれた。
「最初から気付いてたのかよ」
「何が?」
「オグの事だよ。アタシも含めてオグは盾だけの臆病者だと思ってた。なのに今じゃアタシたちが手も足も出なかったグレーターデーモンを倒した村一番の戦士だ」
「別に気付いてたわけじゃないよ」
「じゃぁなんでだよ」
「俺が話したゲームって覚えてる?」
「戦いの無かったお前の国の娯楽の戦いだろ」
「そうそれだよ。それで使ってた自分の分身にオグが近かっただけだよ」
「何だよそれ」
先日ネグに自分の世界のことを話したとき、別の世界や転生の話はせず異国から来たとだけ伝えた。
というのもネグのお爺さん、先輩転生者のサトルが異世界や転生の話をしていなかったからだ。
どんな理由があるかは知らないが、もしかしたら伏せておいた方がいいのかもしれない。
ちなみにサトルがなにか書物を残していることはなかった。
確かに今後くる転生者にとって先輩転生者の日記などは為になることが多いかもしれないが、いざ自分も書こうと思ったら全くやる気が起きない。
サトルが残していなくても当然といえば当然かもしれない。
「俺はさ、回避があまり得意じゃないから遠距離だったり大きい盾で身を守りながら、デカい武器で大ダメージ出すのが好きだったんだよ」
「それなら大剣や大槌とかでもいいだろ」
「勿論そうなんだけどさ、狭い通路だったり仲間に攻撃が当たっちゃう場合だとああいう大槍みたいなのが使いやすいんだよ。たまたまオグも突きは普通にできたみたいだし」
「結局アタシの知らない知識が必要だったんだ」
「それにも関係あるんだけどさ、今度は俺から話があるんだけど」
そこまで話すとネグは首を横に振って「断る」とだけ答えた。
「まだ何も言ってないんだけど」
「仲間になれっていうんだろ?確かにオグが一番強いと証明された今、次期族長はオグで私はヒロの仲間として村を出ても問題ないと思う」
「ならどうして」
「オークはもっと外の世界を知るべきだ。だからオグを連れてってくれ。族長は私が引き継ぐ」
――その後、外の世界を知りたいならネグも一緒に来るべきだと説得したが話は平行線だった。
族長も巻き込んで話をし、族長はまだまだ現役でいるからネグも付いて行けと言ってくれたが、ネグの意思は変わらなかった。
まぁどういう事かというと、フラれたのだ。




