オークとリザード
「ケティ助けてくれって!」
「まだダメニャー。ニャーにおんぶに抱っこじゃ、いつまでも成長しないニャ」
「だとしてもこれはヤバいって!!」
全力で走るヒロの後ろをかなり速いスピードで巨大なトカゲが追いかけてくる。
リザード――全長250センチほどのオオトカゲで、フレアリザードという火山に住むモンスターの下位種である。
その見た目はコモドオオトカゲに似ていて、鋭く分厚い爪は皮の鎧なんかじゃ防げるわけもなく、噛みつかれようものなら甲冑を着ていても関係なく捥がれる。
まだデカいザリガニのリガニーしか戦いなれていないヒロにとってはかなりの強敵だ。
「セラ頼んだ」
「――ライトニング!」
セラの杖先から稲妻がリザードへと落ちる。
死にはしなかったとしても、動きは一瞬止まる。
そこをスレッジハンマーで殴るというヒロとセラのリガニー必勝コンボだ。
ヒロがリザードの頭にスレッジハンマーを叩き落とす。
見事にヒットしたのだが、その感触は思っていたものとは全く別で、まるでタイヤを叩いたかのようなボヨンという感覚とともに弾かれた。
「え、マジかよ」
「焦らなくていいニャ。致命傷にならなくてもダメージは入ってるニャ」
ケティの言う通りリザードは一瞬、明後日の方向を見たような気がするが、しかしそんな事どうでもいいほど怖い。
「ハルト足止め!セラ最大魔力でフリーズミスト」
そう言ってヒロは走り出す。
距離を取りたいが、リザードは予想以上に足が速い。
見てから走っていてはすぐに追いつかれ足を食いちぎられるかもしれない。
「――影の拘束」
リザードの影が紐状になりリザードを拘束する。
「ナイスだぁぁぁぁぁぁぁ」
ハルトの魔法で動けなくなったリザードの頭にもう一度スレッジハンマーを叩きこむ。
弾みはするものの、さっきよりは効いている手ごたえがあった。
魔法が続く限り殴る。殴る。殴る。
魔法の効力が切れてきたのか、影で出来た紐をリザードが引きちぎり始める。
「今だセラ!」
「――氷の霧」
リザードを中心に氷の霧が発生する。夏場に向けて冷房向きだなとセラに覚えさせたのだが、魔力増し増しで発動すればかなり寒い。
リザードの動きが遅くなる。
これで決めるしかないとヒロはスレッジハンマーで殴る。
殴る。殴る。殴る。
ヒロの腕がパンパンに披露しきった時にはリザードは完全に動かなくなった。
「だぁ、もう無理……腕が上がらない」
「情けないニャぁ、まだ一匹目ニャ」
「これ弱点武器探さないと無理じゃないか」
「斧とかなら一撃で行けたと思うニャ」
「斧か……。結局持ち運び大変そうだなぁ…。」
ヒロはもともと小刀を使いたかったが、巨大ザリガニのリガニーとの戦闘以降、刃物が利かない相手ようにスレッジハンマーを持ち歩いていた。
どうしても大振りでスキが大きく、持ち運びが大変なので使いたくはないのだが、ケティが戦闘に参加してくれない間はヒロがメインの火力になるので、どうしても使うしかなかった。
「ねぇヒロ!なんでフリーズミストで動きが遅くなったの?」
「――俺も気になった…」
「ね!気になったよね!」
セラがハルトにニコッと笑う。――なんかムカつく。
ハルトの女性を巻き込む謎のイベントはセラには起きなかった。
初めはハルトも疑問に思ってヒロに確認してきたが、恐らくはハルトの女性を巻き込む能力は人間の女性にしか効かないのかもしれない。
ケティも全く無事なのがその証拠だろう。
だが、セラがハーフエルフだということは隠しているので、ハルトの疑問は濁すだけで終わった。
「リザードは変温動物だと思ったから、そこにかけたんだよ」
「変温動物?」
「変温動物ってのは温度によって体温が変わる生き物で、寒くなると体温が下がってゆっくりになるんだ」
「でも私たちは寒い時期でもゆっくりにならないよ」
「人間は変温動物じゃないよ。人間は体温を36度前後で維持しようとし続けるからね。リザードとかは寒くなると体温を下げて冬眠しちゃうんだよ」
「う~ん、よくわかんないや」
「大丈夫、俺も聞いた事があるだけでよくわかってないから」
「それにしてはなかなか博識ニャ」話を聞いてケティは感心したという顔をする。
「とりあえずちょっと休憩」
「急がないと日が暮れるまでに間に合わないニャ」
ヒロたちは今、ジャポンから馬車で西に3日ほどの場所から北の山脈を登っている。
途中まで件のゴブリンキングのクエストへ向かう馬車に乗せてもらい、そこからオークたちの村を目指している。
ここからはやっぱりやめて帰るといってもジャポンまで徒歩で帰らなければならないのでかなりきつい。
幸い、オークの村までは今日中に付きそうなのでそこで帰りは馬か何かを借りるか買えばいいだろう。
リザードが2体以上いるときはケティが一緒に戦ってくれるので、ヒロ達3人で一匹のリザードをみれている限り道中は比較的安全だった。
「ケティそろそろなんでオークの村に行くか教えてくれよ」
「――俺も知りたい…」
「仕方ないニャ」リザード必勝法が固まりつつあるころ、やっとケティが説明してくれた。
オーク――よくある漫画やゲームでは敵モンスターとして登場し、強敵だったり、女性を犯したりなど悪いイメージがあるがこの世界では人間と友好関係を気付いているらしい。
身長は230センチほどの巨体で、棍棒、鉄槌、大斧や大剣などを軽々と片手で振り回す筋肉を揃えている。
顔は豚の様な潰れた鼻に、歯の下段から上に向かって牙が生えていて、肌は緑だ。
そんな彼らの戦闘スタイルは殴る、潰す、ぶった切るといった脳筋スタイルで、防御や逃げるといった行動を恥だと思っている。
そんな彼らは一部スキルに関してはかなり進んでいて、恐らくユニークスキルも詳しいだろうという話だ。
ちなみにユニークスキルは通常のスキルとは別物で、人に教えてもらって手に入れるようなスキルではなく、その人特有のスキルを指す。
生まれ持っているものから、自身で作り上げていくもの、ある日開花するものとかなり種類があるそうだ。
「ニャー、もう7割って感じかニャ」
「まだ7割かよ……」
「ほらしっかり歩くニャ!日が暮れ始めてるニャ!」
山登りを始めてからどのくらいの時間がたっただろうか。リザードが現れたあたりから少しずつ植物が少なくなり、今いる場所は完全に岩肌がさらされていて、植物はほとんどない。
「――荷物持とうか?……」
「ううん、大丈夫だよ。ありがとう」
「――辛くなったら教えて……」
ハルトがセラに話しかけているのを見て、心配と苛立ちが襲ってくる。
あいつ女の子からのハプニングやイベントが無いなら無いで自分から行くのかよ。
これは目を光らせなければと思った時だ。
「きぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
謎の奇声が聞こえる。
「――まずいニャ…」
ケティが見ている方向を見ると身長2メートルほどの人型の生き物。
顔は山羊の様な顔をしていて、頭には大きなねじれた角。
腕は4本。マッチョなわけでもなく、かと言って脂肪がついているわけでもない、全身をしなやかな筋肉が覆っている。
やつが先にこちらに気付いて吠えたようだ。
4本の腕の先に紫色の魔法陣が現れ、さらに4体の山羊頭の生き物が現れる。
召喚された山羊頭の身長は160センチほどで腕は2本だ。
「ケティあれって…」
「まずいニャ…デーモンニャ。多分逃げられないニャ……」
4体の山羊頭がこちらに向かって走ってくる。
その後ろ、デーモンとケティに呼ばれたその生き物が巨大な炎の塊を投げてきた。
炎の塊はヒロたちの中心で爆発し、4人は別の方向に吹き飛ばされる。
――20メートルは離れているだろうか。
ケティとハルトは合流し、5匹を相手に戦闘を始めている。
俺も合流しないと。
ヒロが立ち上がった時だった。
「――助けて……」
振り向くとセラが横たわっている。
それを見て一瞬何が起きたか理解ができなかった。
彼女の腹部の服が、血を吸い赤く染まっている。
そしてそのシミの中心には尖った岩が突き刺さっていた。




