田園を荒らすTHEリガニー
「ニャー美味しいニャー」
140センチ程の二足歩行する黒猫が、ハンバーガーをパクパク食べている。
その横ではベレー帽をかぶった茶髪の女の子。セラもハンバーガーをパクパク食べている。
ケットシーのケティがハンバーガーを条件に仲間になってくれるかもしれないと調理の為に見つけた空き地に移動してきたのだが、どうやら無駄にはならなさそうだ。
「お気に召したかな?」
「ニャーはとっても満足ニャ。約束ニャ。仲間になるニャー」
「やったー」セラがケティに抱き着いて、顔をすりすりする。
モフモフしてて気持ちよさそうだな。
「ちなみにニャー達はどのくらい強いのかニャ?」
「私たちまだ駆け出しで殆ど戦ったことがないの」
「ニャー…そうなのかニャ。それなら一度外に出てモンスターと戦ってみるニャ」
「回復できる人がいないけど大丈夫?」
「最悪ニャーが一人で戦うから大丈夫ニャ」
ケティは任せとけと言わんばかりの顔をしたが、ヒロはちょっと不安だった。
――――――
港町ジャポンの東側、街道から少し離れると一面の田園が広がっている。
そこにあるモンスターの駆除の為、3人はクエストを受けてやってきた。
「え?デカくね?」
「うん、大きい…」
二人の視線の先には全長1メートルほどの赤い甲殻系の生き物。
その両腕には大きなハサミ。
THEリガ二―と呼ばれるその生き物は簡単に言えば馬鹿でかいザリガニだ。
冒険者たちにリガ二―と呼ばれるそのモンスターは気付いた時には田んぼに生息し、畦を壊してしまうことから、頻繁に討伐クエストが組まれている。
リガ二ーから人を襲ってくることはないのだが、もし一度でも攻撃すると死ぬまで追いかけてくるらしい。
「じゃぁニャー達さっそく一匹倒してみるニャ」
「倒してみるニャって簡単に言うけどさ…」
一匹のリガ二ーが通路に出てくる。セラに目配せするとヒロはリガ二ーの後ろから襲い掛かる。
カッ
そんな音がしてヒロの小刀が弾かれる。
まぁそうだよね。甲殻類だしね。
リガ二ーがこちらを向く。
どこを見てるか分からない真っ黒な目と目があった気がした。
リガ二ーが両腕とハサミを広げる。
「ヤバい逃げよう」
ヒロは回れ右をして全力で走り出す。
カタカタカタカタと音を立てながら逃げるヒロをリガ二ーが追いかける。
こいつ思ったより足が速い。
「何これ怖い、まじ怖い。ケティ助けて」
「もうちょっと頑張るニャ」
逃げ回るヒロを見てケティは特に助ける気配がない。
あの猫マジかよ。あのハサミで挟まれたら死ぬだろ。こうなったら…。
「振動」
ヒロの右手の掌底の少し先の空間から空気の塊が飛んでいく。
それがリガ二ーの顔にあたるとリガ二ーの顔が激しく振動する。
説明しよう。振動は5カパーで買える魔法である。
放たれた空気の塊に触れたものは振動する。射程は50センチ程。
出が早いが、例えば人間にあたった場合、全身が振動するのではなく当たった部位が振動する。
鎧に当たれば鎧だけが振動する。
その使いどころのなさから習得する人は殆どいない。
ヒロはファイアボールなどの属性下級攻撃魔法を覚えようと思ったが、出会った当時のセラほど酷くはないものの、かなり練習をしなければ使い物になりそうになかった。
魔力自体は練習の成果もあって20を超えたが、魔力500のセラに比べたら一日に練習できる回数が少なすぎるのでマスターするのは何カ月も先になるだろう。
逆に属性の無い振動の様な呪文はセラよりも習得が早かった。
「よし、効いて…」
とっさにヒロはしゃがんだ。
頭の上でブンっという空を切る音がする。
「あ、あぶね」
リガ二―には全く効いていなかった。
カタカタカタカタという音と共にリガニーはヒロを追いかける。
「だあああああああああああぁぁぁぁぁ無理だああああああぁぁぁぁぁ」
「こっちに来て!私が何とかする!」
大分離れてしまったが、セラがこっちに誘導しろと杖を振って合図をしている。
通路を曲がる。
リガ二―も律義に田んぼを突っ切らず通路を直角に曲がる。
「セラ頼んだ!」
「――ライトニング!」
セラの杖先から稲妻が走り、ズドンという音と共にリガニーに直撃する。
リガ二―はビクンと一瞬痙攣し、動きが止まる。
「やったか?」
「うん、やったみた…い…?」
「――い…いや…」
カタカタカタカタという音を立ててリガニーが追いかけてくる。
「ザリガニって水タイプだから電気に弱いんじゃないのかぁぁぁぁぁ」
「そんなの初めて聞いたよぉ」
「仕方ニャいなぁ」リガニーに追いかけられる二人を見て爆笑していたケティが立ち上がる。
「ブレイブ、スピリットブースト、跳躍強化」
スキルを使うごとにケティの体が一瞬輝く。
「いくニャ」ケティが数十メートルの高さまで飛び上がりヒロたちを追いかけるリガニーの上に落ちてくる。
「ニャー!!!」
ケティのキック、というかほぼ落下キックを喰らいリガニーが砕け散る。
「マジかよ」
「だから言ったニャ。ニャーは強いって」
ケティは自慢げな顔をしながら左手で顔を擦る。
ヒロとセラは驚きすぎて動けなかった。




