ゴブリンキングとケットシー
「まずいことになった」
食事をしていた所にハリーがやってきた。
ジャポンに来て4日目。
3日後にはサザラテラに帰る予定なのだが、ハリーはその道中を護衛の為にカシミール商会が雇ったパーティのリーダーだ。
「どうしたんです?」
「ここに来る道中にゴブリンの巣の話は覚えているか」
「もちろん覚えてますけど」
「どうやらただのゴブリンの巣じゃなくて、ゴブリンキングが現れたみたいなんだ」
「ゴブリンキング…」
ゴブリン達にはリーダーがおり、そのリーダーを中心に巣を作る。
リーダーのゴブリンはほぼ表には出てこず繁殖行動に明け暮れているらしいのだが、そのゴブリンは群れの中で一番強い。
強いといっても所詮はゴブリンといった強さなのだが例外が存在する。
一般的なゴブリンは130センチほどの人間の子供サイズなのだが、ごくまれに180センチほどのゴブリンが生まれる。それがホブゴブリンだ。
ホブゴブリンはそのサイズからゴブリンの戦闘力とは比にならず、リーダーになることが多い。
しかし、さらに特殊なケースが存在する。
ホブゴブリンの子はホブゴブリンかゴブリンが生まれるのだが、中間サイズの160センチのゴブリンが生まれることがあるのだ。
そのゴブリンはホブゴブリンほどの力はないが、頭がよく他のゴブリン達を支配する。
軍を作り、ゴブリンシャーマンなどの特殊なゴブリンを生み出すことから『ゴブリンキング』と呼ばれているのだ。
「ゴブリンの繁殖スピードは凄まじく、一匹のメスが1週間に一匹の子を産む。メスのゴブリンはリーダーのゴブリンが囲ってしまうからメスがどんなにいたとしてもオスの繁殖力で上限が決まってくる。だが今回はそうじゃないらしい。」
「――絶倫ゴブリン…」
思わず言った言葉にハリーがちょっと笑う。
「そういうわけじゃなくて、どうやら成果を上げているゴブリンにメスをあてがっているらしい。そのせいでホブゴブリンだけじゃなく、ゴブリンシャーマン、ゴブリンアサシン、ゴブリンメイジなんかも大量に増えたらしい」
「討伐の予定は立っているんですか?」
「どうやら大規模な討伐作戦が出ているみたいで、俺たちはそれに参加しようと思ってる。報酬はなんと20ゴールドを参加した冒険者で山分けだ。」
20ゴールド。一般的なゴブリン討伐クエストの報酬が4~5シルバーのことを考えるとかなりの大金だ。
それを考えるとかなり危険なクエストになるのかもしれない。
「どちらにしろ、ゴブリンを潰さないとサザラテラには戻れなさそうだから俺たちはそっちに行くぜ」
ハリーが言うには一週間後、ジャポン側は先日泊まった集落に集まり、サザラテラ側からと同時に攻撃を仕掛けるらしい。
報酬が山分けとなるとほかのパーティの回復役が助けてくれることはないかもしれない。
回復役のいない現状では危険な話だ。
「それじゃ俺たちは明日出発するから、機会があったらまた会おうぜ」
一通りの話が終わるとハリーは出て行った。
「どうするの?」
まさか行くのかとセラがこちらを見つめてくるがそんなわけはない。
「とりあえず、ジャポンの冒険者ギルドに行ってみよう」
回復役だ。それがいないと始まらない。
――――――
この町にも冒険者ギルドが存在する。
建物に入るとやはりゴブリンキングの件で盛り上がっていた。
100人でゴブリンをぼこぼこにしても一人20シルバー。
通常の4~5倍の報酬が手に入る。
最悪後ろで見ているだけでもいいんじゃないかと甘い考えをしている者もいるみたいだ。
さて、回復役が欲しいと言っていたが、実はもう一つ目的がある。
仲間にしたい人、というか種族がいるのだ。
「それではこのパーティ募集の紙に記入するのニャ」
そう、パーティ募集の用紙を差し出してきた語尾がニャのこの人、いやこの猫。
ケットシーという種族で、身長は130~150センチほど。二足歩行で人間の言葉を話す。見た目が完全に猫。
人間とコンビを組んで飛竜やら何やらを一狩り行きそうなその見た目に一目で心を撃ち抜かれたのだ。
「ケットシー可愛いね」
セラも気になるみたい。
ケットシーは見た目は猫だが、中身も猫なのでこの港町に住み着いている。
大概は漁港で働いて、この受付の猫さんの様に人間のお店で働いている猫もいる様だ。
――パーティ募集を出してもらった後、銅貨を使ってセラと簡単な算数の勉強をする。
足し算、引き算は問題ないのだが、掛け算、割り算は苦戦している。というか、存在を知らなかったらしい。
「3x5はなんだ」
「えっと、3が五個あるから…」
銅貨3枚の組を五つ作る。
「――15!」
「正解。今度は銅貨無しで考えてみようか」
「ニャーがハンバーガーの人かニャ?」
勉強中の二人に一匹?一人のケットシーが話しかけてきた。
「募集を見たニャ!ニャーがハンバーガーの人かニャ?」
「そうだけど君は?」
「ニャーはケティっていうニャ。ニャーにお願いがあるニャ」
ケティと名乗ったそのケットシーは身長は140センチ、真っ黒な体毛に黄色い瞳をしていて服は体毛と同じ黒い服で、両手両足に宝石の付いた金色の腕輪をつけている。
ハンバーガーの人と訊かれたのは、パーティ募集の用紙に『サザラテラで有名なハンバーガーとホットドックを考えたパーティです』と記載したからだろう。
「ニャーの知り合いの冒険者が言っていたニャ。サザラテラにはハンバーガーっていう魚より美味しい食べ物があるって」
「いいけど、今は持ってないからなぁ」
「作ってほしいニャ」
「作ってあげて!」ケティのウルウルとした瞳でお願いされたせいか、セラも一緒にお願いしてくる。
「ニャーは冒険者としてはなかなか強いニャ!美味しかったら仲間になるニャ!」
猫ってハンバーガー食べていいんだっけかな。
そんなことを一瞬思ったが、願ってもいないチャンスだ。
ケティのクラスは分からないが、さっそく材料を買いに市場へ向かうことにした。




