55.5 祝いの焼肉
「それでは、八幡高校の5期連続甲子園出場を祝って——乾杯!」
「「「「「かんぱーい!」」」」」
決勝戦の6時間後、俺たちはニックの親父さんが経営する焼肉屋で祝勝会を行っていた。
勿論嬉しいが、個人的には喜びよりも残念会にせずに済んでほっとしているところが大きい。
最後の夏だけ甲子園に出れず終了とか寂しすぎるからな。プレッシャーから解放されまず一息ってところだ。
そんなわけで、本日はお店を貸切り無礼講。
上級生も下級生も男も女も保護者も入り乱れて自由にワイワイと楽しくやっている。
あ、菊池と夏日があっちでピッチング談義しているな。
(いいなぁ、俺も混ざって......いやいや、菊池が後輩に教える経験も必要だしここは静観しよう)
そんなわけで取り箸とトングをしっかり分けてこんがり焼いたお肉に舌鼓をうっているとニックの親父さんから話しかけられた。
「鴎賀君、愚息が色々と迷惑をかけてすまない。そして、ありがとう。」
「なにをおっしゃいますか、今日も逆転スリーラン打ってくれましたし、こちらこそ感謝ですよ」
心からの言葉だ。ほんと、あの場面でよく打ったよなアイツ。
「いや、そっちも今まで不振でエラーしてたし......その......彼女がらみのことでもな」
「いえいえ、何も悪いことしていないわけですしね。むしろ、親父さんをはじめ二人の親の理解と協力のお陰だと思います」
「いやまあ、もう知ってると思うが俺も通った道なもんでね......」
そう言って、苦笑する親父さん。
ニックから聞いたのだが、親父さんはデキ婚らしい。
あと、真理愛さんのお宅はもう少し複雑で、父親がいないそうだ。
それで二人は、『本番は社会人になるまで我慢!』していたそうなんだが……人生って何があるか分からないものですよね。
「そうだ、遅ればせながらいつも格安で野球部にお肉を提供して下さりありがとうございます。お陰で勝つことができました」
ニックの親父さんは精肉店と焼肉屋をまとめて経営しており、その伝手で野球部は格安で肉を補食に組み込む子事が出来ている。プロテインだけでは補えない、脂動性脂肪、亜鉛、鉄まで補給できて、しかも美味しい。
お陰で現在の俺の身体スペックはここまで伸びた。
身長:178センチ
体重:74キロ
球速:152キロ
振速:150キロ
握力:80キロ
遠投:118メートル
走力:50mを5.7秒(手動計測)
あくまで数字上にはなるが、身長と体重以外は全記録がライバルとなる黄金世代達それぞれの得意種目に匹敵している。やったぜ!
「それくらいお安い御用さ、君は今後永年割引にするから、いつでも食べに来てくれ」
「わあ、ありがとうございます。じゃあ、今度は甲子園優勝と......ニックのプロ入り祝いで食べに来ないとですね」
「息子のプロ入りは鬼が笑うような話だが……まあ夢を見させてもらうよ」
いやいや、結構あり得る話だと思うんですよね、マジで。
でもまあ、この夏の予選では決勝以外不振だったしそういう感想にもなるのか?
甲子園では一つでも多く勝ってアピールチャンスを増やしてやんないとな。
また勝つべき理由が増えたな。望むところだけど。
というわけで、今日やるべきことは......
「湊君!」
「あ、会長さん。どーもです」
「この後、希望者だけ決起二次会なんだが来てくれるよね」
「お誘いありがとうございます。ただ、甲子園で優勝するため今日は帰って身体をケアします」
この後すぐ帰って、風呂入って、ストレッチとヨガして寝ることだな。うん。
いや、決起集会自体を否定する気は全く無いんだよ?勝負事で『最後は気持ちでした!』ってのはよく聞く言葉だしな。
でも、主戦投手のコンディションが悪いと大量リードを奪われてギリギリの終盤戦にならずに負けるし、勝負の日までに人事を尽くしてない奴が気持ちを語っても説得力が薄い。
そもそも負けたチームの方が気持ちが弱かったなんてこともないと、俺はそう思ってるんだよね。
ひねくれた回答でスンマソン。
まあ、優先順位の問題だと思って頂けたら。
そう言うと、OB会長さんはしょんぼりしつつも受け入れてくれた。まあ、基本的にめっちゃいい人だし大丈夫だろう。しっかり者のリーダーである細川や小梅ちゃんなんかは二次会まで参加するみたいだから、フォローも安心してお任せできるしな。
俺はその分コンディショニングに注力し、甲子園で最高の結果を出すことで喜んでもらうことにしよう。




