53.5 桝山商業の十八番
かつて『夏の甲子園優勝』という素晴らしい実績を残しながら、ここ数年は県大会の優勝からも遠ざかっていた桝山商業。
打力の清美、投手力の古張と違い、スコアブックに示される特徴もここ数年はパッとしないものが多い。
八幡が台頭した今、『もはや県下三強の一角ではなく古豪という扱いでは?』という声も囁かれ始めたが、そういう時ほど結果を残すから、鹿渕という男は解任されることなく長年にわたり名門校の監督を務めている。
その例に漏れず先日、中岸ティモン率いる清美を撃破し八幡との決勝戦を明日に控えた現在、鹿渕は選手達を集めて最後のミーティングを行っていた。
「いいかお前ら、万全の八幡とがっぷり四つに組んで勝てる可能性のあるチームは、全国を見ても片手の指で数えられる位しかないんじゃ」
プロ注目選手のいるLP学園や熊大苫小牧の様にな、そして我々桝山商業も強豪には違いないが、現在プロで通用する様な選手はいないと鹿渕は続ける。
「じゃから明日の試合、八幡で『足手まとい』になる選手を作り上げ、そこを攻めることで流れもっていくぞい。それがウチの勝機、付け込む隙となる」
プロ野球には『逆シリーズ男』という言葉がある。
高い能力を持ちシーズン中は素晴らしい成績を残しながら、日本シリーズなど短期決戦の大舞台では一転して大不振に陥った選手を指す言葉だ。
主に、チームの主軸が期待に応えられず、敗戦の要因となってしまった場合の不名誉な称号。勝利に徹する鹿渕はそれを、八幡の選手の一人に強制的に授与しようとしていた。
「5番サードが今大会不振なのはもう全員頭に入っとるな?理由は伏せるが、そこには明確な理由があるのよ……」
長年の積み重ねにより、県内に限っていえばその辺の週刊誌など及ばぬ程に超高度な情報網を持つ桝山商業。
狡猾な老将は、八幡が巷で悪く言われていることも、その裏で一体何があったのかも、ひいてはニックの性格まで正確に把握しておりそれを元に作戦を立てていた。
繰り返しになるが、桝山商業はかつて『夏の甲子園優勝』という素晴らしい実績を残しながら、ここ数年は県大会の優勝からも遠ざかっていた
打力の清美、投手力の古張と違い、スコアブックに示される特徴もここ数年はパッとしないものが多い。
にも関わらず、桝山商業は今も毎回ベスト4以上の常連である。
そのストロングポイントはーー徹底的に相手の弱みをつく戦術面。
「と言うわけで、明日は攻撃も守備もひたすらコイツをターゲットにして攻める。勝負事に情けは無用ぞ、徹底的に潰せ」




