49. 野球部員の女子
練習してたら強い視線を感じたので、その主であるショートカット美少女に話しかけてみる事にした。
「どうかした?夏日さん」
「ちょわ!?」
いや、そんな驚かんでも。
ちょわって……
「な、何故私の名前を!?」
「いや、一度自己紹介してもらってるし」
「もしかして、一年生全員を覚えていらっしゃるんスか!?」
尊敬の眼差しで見られるが、無言でスルー。
ごめん、実はまだ半分も顔と名前が一致してない。
なのに何故彼女、夏日朝顔さんは把握していたかと言うと、一年生で一番可愛らしい顔をしているから……という訳ではない。
いやまあそれもあるんだけど、一年生マネージャーの中で一番元気とやる気があって、いい意味で目立っていたからだ。
自主練習の時なんか、一年生や二年生に
『キャッチボールの相手はいかがっスか?』
『今からノック?よければ捕球役やるっス。なんなら自分が打つっス』
『バッピはいかがっスか。自分中学まで野球してたんで!』
みたいな感じで話かけているのをよく見た。あと匠が「語尾が同じっす、キャラ被りの危機っす」とか言ってたな。「いやいやお前は美少女じゃないし、語尾も緩い『〜っす』ときびきびした感じの『〜っス』で全然違うじゃん」、みたいな話をちょうど一昨日にしたところだ。
ただ、俺はこの子から話しかけられたことがない。怖い先輩とか思われてなかったらいいんだけど……
「もしかして、何か手伝う事がないか探してくれてた?最近よくこっち見てくれてたよね」
「ひぇ、邪魔にならない様にこっそり見てたつもりだったのにバレてたっス!?ごめんなさい、甲子園のヒーローがどんな練習してるのかつい気になって……」
「全然いいのに。良かったら一緒にやってみる?」
「いいんスか!?」
うお、目をキラキラさせて凄い食いつき!
と思ったらハッとした顔をして首を振った。
「いやいやいや、せっかくのご厚意っスけど、今の私はマネージャーなんスからそれに甘えてエース様の貴重な時間を奪う訳には……」
何やら葛藤している様子。
それを見てピンときた。
「もしかして夏日さん、本当は選手をやりたいのを我慢してたりする?」
「ちょわ!?先輩は読心術も使えるんスか!」
あー、やっぱりね。
「なら、とりま一回やってみてもいいんじゃない?公式戦には出れないけど、紅白戦や練習試合には出られるし。合わなけりゃそのとき辞めればいいし。」
「うー……すごく魅力的な申し出ッス。けど、自分のエゴで甲子園を目指してる皆に迷惑をかける様な事は……」
話を聞いてみると、夏日さんは元々野球をプレーするのが大好きで実際中学まではシニアリーグに所属し投手をしていたらしい。
ただ、八幡に女子野球部はなく、甲子園に出る様な強豪に女性部員が混じり邪魔になってもいけないからマネージャーとして頑張る事にしたそうだ。
「もちろん先輩の言う通りプレーヤーとしてやりたい気持ちはあるんスよ。でも、現状でも雑用にかこつけてキャッチボールやノックでボールには触れるんで。選手としては卒業後に草野球でもできればいいなって思ってるんスよね」
しっかり考えてるんだなぁ……
が、それはそれとして
「うるせぇ!一緒にやろう!」
海賊のように、ちょっぴり強引にどんっ!!
「ちょわ?!」
「だってキミ、野球大好きじゃん!足を引っ張るのが怖い?全然大丈夫だよ、俺を見てたのもスキルアップのヒントがないか探ってたんだろ」
「ええっと、概ねはそうッス。概ねは……」
「そういう選手は間違いなく伸びる!他の名門野球部にも女子部員はいるし、男子部員はむしろ発奮するってきくぜ」
そういうと、夏日さんは葛藤する様子をみせた。
ちょっと個人の事情に踏み込みすぎな気もするけど、若いんだからもっと野球への愛のままにわがままにやってもいいって、俺はそう思っちゃうんだよね。
「それに、シニアでピッチャーできてたなら大丈夫。きっと足を引っ張ることはないよ。ボールを操る能力さえあれば、女子のフィジカルでもある程度のレベルまでは抑えられるし、チームとしても投手は沢山いる方がいい」
「ほ、ホントっスか?ホントにお邪魔にならない?」
あと一押しだな。
「ああ、キミがいい投手になれる様、俺が責任持って指導するよ。と言うか、色々と教えさせてくれ!」
ほら、副キャプテンの就任挨拶で投手指導するって宣言してるしね。あと、人に教えるのってすごく勉強になるんだよ。
理論や自分の感覚を言語化する過程で己の理解も深まるし、理解が浅いところにも気づけるから。
そんな考えもあり捲し立てると、顔を赤くして頷いていた。へへへ、身体は素直じゃねぇか。
……なんてな、おそらく選手として野球ができることに興奮しているのだろう。
とまあ、そんな感じで夏日さんはマネージャーから部員へとクラスチェンジした。というわけで、これからは他の男子部員と同じく夏日と呼び捨てにさせて貰うことにする。
あとこの日以降、何故か俺は彼女からは『先輩』ではなく『師匠』と呼ばれる様になった。師匠って……まあ、別に悪い気はしないけどさ。




