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その野球小僧、前世知識で鍛錬中につき  作者: いのりん


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間話 二年目冬のクラスマッチ

 県立八幡高校では、毎年12月に各クラスがチームとなって競い合う校内球技大会、通称「クラスマッチ」が開催される。


 なお、マンネリと特定の生徒ばかりが活躍する事態になるのを防ぐため種目は毎年変わっているそうだ。昨年はソフトボールで、今年度はサッカー。色んなスポーツを経験できて楽しい。


 とは言え、サッカーは身体的な接触を伴うコンタクトスポーツの一種、怪我だけはしない様に充分注意せねば。


 今、クラスでそのスタメンとポジションを決めるための話し合いが行われているんだけど、前世の経験上、ゴールに近づくフォワードやガチってる運動部員が集まるミッドフィルダーは削られやすい。


 だから俺としてはディフェンダーをやりたいところだ。それがダメならベンチスタートでも可。さて、どう切りだすか……


「湊くん……わりぃんだけどさ、センターバックやってくれないかな?」


 と思っていたら、体育委員としてこのクラスのキャプテンを勤める岩野くんが開口一番にそんな事を言ってきた。渡りに船!


「喜んで!」

「喜ぶの?!」


 え、なんで驚いてんの?


「あ。でも、皆出たいだろうし俺は別にベンチスタートでもいいよ」

「いやいや、やっぱりやる以上は勝ちたいしさ。湊くんには相手のエースを抑えて欲しいんだよね」

「ははは、責任重大だなぁ。頑張るけど、あんまり期待しないでよ」


 お互い熱くなって怪我とかごめんだからね。クリーンなプレーを心がけて抜かれたらその時は仕方ない。


 ただ、今世、八幡を選んだ理由の一つに『キチンとした学生生活を送りながらでも勝てると証明する』ってのがあるからな。


 当然、クラスマッチもエンジョイする。

 そして遊びは本気でやった方が面白いから、怪我のリスクが少ない範囲で真剣にプレーするつもりだ。



 *****



 クラスマッチ当日、キャプテンを勤める岩野は同じクラスの仲のいい男子生徒数名とこんな話をしていた。


「湊くん、すんなりディフェンダー引き受けてくれて良かったな」

「それな、しかもセンターバック」


 何回シュートを外しても一発ゴールを決めればヒーローになれるフォワードと逆に、ディフェンダーというのは何度献身的に守備をしてもたった一発ミスしてそこから決められたら戦犯になってしまう。


 中々割に合わないポジションであるが故に、基本的にやりたがる生徒は少なく、快く引き受けてくれた彼には感謝しかない。


 それと、もう一つクラスマッチでディフェンダーが不人気の理由は女子の目があるからだ。運動が得意な男子というのは、こういうチャンスに女子に良いところみせてモテたいのである。


「というわけで、ここにいる誰がヒーローになっても……」

「恨みっこなしってことで」

「オーケー、それでいこう」


 昨年のソフトボールでは湊鴎賀が大暴れし、一年生ながらクラスマッチで優勝。学校中の視線を掻っ攫っていた。


 故に、今年岩野はクラス内の運動が得意な男子と結託し、湊鴎賀を目立たないディフェンダーにしようと根回しを行なっていたのである。なおベンチスタートからの途中交代という案も一度出たが却下となった。それで負けたらクラスの女子から顰蹙を買いそうだしリードされた後半から出場して逆転ハットトリックとかを決められそうな予感もしたからだ。


 だから今回は湊をディフェンダーに回し、フォワードを務めるであろう他クラスのエースと湊鴎賀を潰しあわせて、その間に自分達の誰かがヒーローになっちゃおうぜというのが岩野達の作戦であった。


 なお、基本的にクラス内は仲良しで湊鴎賀が嫌われたりハブられたりしているわけではない事は補足しておこう。


 ただ、男には時に倫理観や友情よりも優先せねばならぬものがあるだけだ。今回のケースがそれに該当するのかはさておき。



 ****



 八幡高校の三年生、月向大次郎は中学時代サッカー部に所属していたストライカーである。田舎公立校である八幡にはサッカー部がないので仕方なくソフトテニス部に入ったが、昔とった杵柄で他の生徒よりは大分サッカーが上手い。


 当然、高校生活最後となる今年のクラスマッチは彼にとって大きな見せ場。開催の一月程前から入念な準備をおこなってきた。

 すなわち自分が大活躍して優勝し、女子達からキャーキャー言われるイメージトレーニングである。


(さあ、行くぜ!)


 笛の音と共にキックオフ。

 クラスマッチが始まった。


 味方とのワンツーで敵を一人かわし、フェイントで次の敵のバランスを崩しながら抜き去る月向、あとは眼前のセンターバック、湊鴎賀を抜けばゴール確実だ。


(真田くんは『湊はマジでバケモンだから正面からは当たらない方がいいと思う』とか言ってたけどサッカーは『小学生の時にスポ少でちょっとやってたレベル』らしいし……ここは勝負だな!)


 湊鴎賀のことはよく知っている。だって、自分も甲子園のスタンドで応援していたのだから。故に、その男を抜いてゴールを決めれば女子からキャーキャー言われるのは確定的!


「勝負だ!」


 宣言して、シザースーードリブルしつつボールをまたぐように見せかけて相手ディフェンダーを惑わすフェイント技術ーーを使い、ひと息で抜きにかかる。


 それは月向にとって会心の出来だった。

 少なくとも、湊がやっていた小学生レベルのサッカーでは中々見ることの出来ないであろうもの。


(よし!……ってあれ?)


 だと言うのに、月向の足元にボールはなかった。

 それは湊の足元にあった。



 あっさりカットされていたのである。


 湊鴎賀は日々、脳の処理能力を向上させ動体視力やボディバランスを磨いている。

 加えて言えば前世で勉強のため、無償でサッカーJ3チームにメディカルスタッフとして帯同し、その際プロの各種フェイントをディフェンダー目線で体験させて貰った経験まであった。

 

 そして今世の小学生サッカーで目立った成績を残している訳ではないが、それは同地区に強豪チームがあったからだ。

 そこには毎回負けていたが、毎回湊にはダブルチームがつくなど様々な対策をとられた末の接戦であった。

 


 そんな湊は前方に目をやり敵と味方の位置関係を把握すると……一気に左足を振りぬいた!


 ドゴン!と重い音が響く。


 サッカーボールは砲弾の様に飛んでいき……キーパーが『こっちが攻めてるし少しぐらい大丈夫だろ』と応援にきていた女子とのおしゃべりに興じ無人となっていた相手ゴールに着弾した。


 超ロングシュートによる先制点である。



 *****


 その後の試合でも、湊鴎賀の活躍は止まらなかった。


 尽く相手のエースを止めて、カウンターで高精度のロングフィードをぶっ放す。


 のみならず、ディフェンスラインを統率しカバーリンクに攻撃参加までこなす八面六臂ぶりを発揮。センターバックにもかかわらず、時々フォアリベロの様にもなっていた。


 二回戦、猛烈なオーバーラップからコーナーキックを獲得し、それをヘディングで押し込んだあたりで「これはアカン!湊くんに全部持っていかれるやつだ!」と思った岩野が少しでも活躍のチャンスを減らそうとスローイン係を命じたが、それでも止まらない。なぜならーー


「そぉい!」


 ハンドスプリングという宙返り動作を交えながら行う『超ロングスロー』を披露し始めたのである。その射程は……およそ50メートル!


 八幡高校のクラスマッチで使うサッカーグラウンドは、正規のものより大分狭い。これにより、湊鴎賀の投げるスローインはすべてがコーナーキックの様に最前線に供給される事になり、ゴールを量産した。


 なので、岩野達もバシバシ得点を決めて優勝したのだが……


「ねぇ、湊くん凄くなかった!?」

「スローイン、めっちゃ飛んでたよね!」


 女子達の注目は、湊鴎賀に集まる結果となっていた。優勝に喜びつつ、こんなはずではと内心肩を落とす岩野達。


(ら、来年こそはヒーローに!)


 それでもモテを諦めず、次のチャンスを掴みにいく彼らは立派なものだ。目的達成できるよう、頑張って欲しいものである。


 なお、三年目のクラスマッチはドッジボールとなり今年以上の湊鴎賀無双になるのだが、それを知るものは今この場にはいなかった。


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― 新着の感想 ―
愚かなるかな、モブサッカー少年…。 友人の忠告を無視し、天狗になって返り討ち。虚構のモテ期を想像するお前は、よく出来た道化だったぜ…。
大人難だから野球以外は手加減したらと思うけど、どんなスポーツもおもいっきり楽しんでしまうんだろうな。
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