43.副キャプテンの仕事
大阪から地元に帰ってくると、春以上のお祭り騒ぎで迎えられた。春も凄かったが、やっぱり夏の甲子園って特別なお祭り感があるんだな。
パレードやお世話になった方々への挨拶もあるしお盆期間中も戦っていたから、その分休まないとということでトータル五日間ほど練習がオフとなった。
ただし、真田先輩だけは別。何故なら夏の甲子園での活躍が評価されUー18日本代表に選ばれたから。すげぇ、侍ジャパンだ。
春の選抜後に行われる候補選手強化合宿には呼ばれてなかったので一種のサプライズ選出だな。九月上旬に国際試合が行われる関係上、すでに代表チームに合流し合宿中だ。慌ただしいと思うが、頑張って欲しい。
そして、夏休み最終日の少し前に新チームが始動……とはいえ、甲子園優勝チームとして『国体』への出場が決まったので三年生もそれまでは残って一緒に練習するんだけどね。
新キャプテンには一番打者兼リリーフエースの細川流が指名され、副キャプテンには俺と匠が就任した。
細川は「ぼ、僕!?」と驚いていたが適任だろう。面倒見がよくて穏やかで、投手と野手両方の気持ちがわかるオールラウンドな実力者だからな。あとキャプテンって試合前も忙しいから、俺と匠の負担分散という意味でもこの体制の方がありがたい。
「ーーと言うわけで、秋季大会開幕まであと一月もないから、皆また気を引き締めていくっすよ」
細川と匠が順番につつがない挨拶をして、最後に俺の番が回ってきた。えー、それでは僭越ながら。
「皆、俺たちは甲子園で優勝して今や地元じゃちょっとした有名人だ。街を歩けばキャーキャー言われ、女の子にもモテモテだ」
周囲に笑顔を向けながら言う。反応は様々だ。急にどうしたという顔をするものもいれば、つられて笑顔を浮かべるものもいる。ーー後者はちょっと危険だな。
「だからあえて言おう。お前ら、ここで調子にのるなよ。そして絶対にハメを外すな」
声を低くしマジ顔忠告すると、空気が死んだ。
でも、構わず続ける。
「注目を浴びるってことは嫉妬や厳しい視線も集めるってことだ。周囲に勧められてつい興味本位で吸ったタバコの一本、酒の一杯でチームが終わっちまう事だってある」
今までの練習態度を見る限り、コイツらにはそんな低レベルなこと言う必要はないと思わないでもない。しかし『ウチの子に限って……』が多発するのが教育現場と言うものだ。
あと、もうすぐ秋の祭りがあるんだけどこの時代の田舎のオッサンって高校生にも悪意なく酒を勧めてきたりするからな。『これは酒じゃない……スーパージュースだ』とか言って。
一度令和を経験した身からすると不適切にも程がある。
「いいか『壁に耳あり障子にメアリー』だ。密告者メアリーはどこにでもいると思え。酒やタバコや暴力、その他違法行為は全て厳禁だ。恋愛は好きにすればいいが、エッチなことをする時は必ず相手の同意をとれ。あと、その日までに性についてしっかり学んでおけ」
それに『この程度の事』を守れず出場停止を食らった名門校だって星の数ほどあるし、違法行為でそれまでの輝かしいキャリアを全て失ったプロ野球選手だっている。注意喚起しておいて損はないはずだ。
「と、まあ就任早々に堅っ苦しい、耳障りの悪いことをいっちまったけど、ふとした時に魔がささないよう心の片隅に置いといてくれ」
さっき笑ってた奴らを見ると、真剣な顔でうなずいていた。うん、これなら大丈夫そうだな。
あと、ニックもいつになく真剣な顔でうなずいていた。お前絶対後半部分に反応しただろ!リア充爆発しろ、真里愛さんとお幸せに!
「勿論副キャプテンとして、皆んなが上手くなるサポートはさせてもらうつもりだ。特に投手陣は行き詰まりや悩みがあればいつでも相談してくれ、一緒に解決策を考えよう。俺からは以上だ」
拍手してもらった。ありがとう。
さて、そうして始まった新チーム。
甲子園優勝による燃え尽き症候群が懸念されたが、状態は春と比べてそこまで悪くなかった。
無論、あれだけの激闘の後につき多少のモチベーション低下はあるが二、三年のレギュラー陣は春に『試合に出られないつまらなさ』を経験済みだし、河野と菊池の一年生コンビは守備では活躍したものの甲子園にいってからは各校エースにケチョンケチョンに抑えられて悔しがっていたからな。
そして何より、夏の控えメンバーが秋季大会と国体のレギュラー獲得に向けて張り切っている。トータルで見て、全体的にまずまずのモチベーションといったところだ。俺も秋大会に向けて、しっかりと調整していく予定。
特に打撃はしっかりレベルアップしておかねばと思う。春はマツケン、夏は神子と言った一線級投手にはバットの芯を外されまくったからな。
大事な場面で打ち損じて「やっちまったなぁ!」ってならないように、しっかりミート力アップにフォーカスした練習をしておこうと思う。
というわけで
「男は黙って」
「竹!」
「男は黙って」
「竹!」
現在はニックと竹バットでロングティーの練習中。竹バットは金属バットより芯が狭く、ミート力向上のいい練習になる。隣では匠と細川も同様の練習中。
「全然黙ってねーっす……」
「てゆーか、その鉢巻なんなの……」
騒がしいのは、タイミングをとりつつ重量挙げ選手がよく用いる『シャウト効果』でスイングスピードを上げるため、鉢巻は側頭部を締め付けて高い集中力を維持するためだ。クールだろ?
そしてレギュラーがほぼ確定しているこの四人はミート力強化のため、今後の紅白戦や練習試合では定期的に木製バットを使うことにした。
ちなみにこの後は投手としての調整に入るんだけど、夏の大会で蓄積したであろう関節のダメージを抜くため、全力投球は三週間ほどお休みにしている。
そんな状態で出来る投球の技術練習はというとーー
「湊、ちょっといいかな」
「はい、どうかなさいましたか?」
声をかけてきたのは、三年生で投手をしている伊予先輩だった。
「後輩にこんなことを頼んで申しわけないんだが……すまん!その練習が終わった後でいいから悩みを聞いてくれ、あと何かアドバイスしてほしい」
おお、行き詰まりや悩みがあれば相談してといったが上級生から相談される展開は予想外。もちろん、喜んで了承するが。
「もうすぐ国体だろ、それについてなんだがーー」




