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その野球小僧、前世知識で鍛錬中につき  作者: いのりん


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67/69

42.君に輝く栄冠

 この回で終わらせるべく、ギアをマックスまであげた。140キロ中盤のストレートで押し込み、最後に同じ軌道からフォークボールを低めのボールゾーンに落とす。


 先頭打者が空振り三振。これでワンナウト。

 そして次の打者はーー


「きたな島津」


 この夏最強のスラッガーだ。


 俺の全力投球を必ず打ち砕くという顔をしていて、プレッシャーを感じた様子はない。一発が出たら同点という場面、勝負どころだ。


 チェンジアップ、ストライク

 ドロップ、ボール

 フォーク、ストライク

 フォーク、ボール


 二球目続けたフォークを島津が見逃し、カウント2ー2になったところで匠のサインは島津が得意な内角への直球だった。


 強気なリードに笑みが溢れる。

 これに応えなきゃ男が廃る!


「……なんてな」


 冷静になるべく一度プレートを外し、指差しに滑り止め(ロジン)をつけつつ投球イメージを固める。島津は勢いだけに任せて抑えられる相手じゃないからな。


 正直、この配球は消去法だろう。俺の球種は四種類。神子よりも二種類も少ないしここまで外ばかり攻めてきたから、どこかで内角と直球を混ぜる必要があるのだ。


 リードする匠の意図としては、『まだボールになってもいいから、とにかく厳しいコースに頼むっす』って感じだろう。


 分かってるよ、俺は大人だからな。

 島津に打たれてきた悔しさもあるし、ここで三振を取れたら最高だが今は何よりチームの勝利が一番だ。過日読んだ漫画に出てきた知的な魔人の様に、暴走しそうな闘争本能を理性の力で押さえ込む。


「Be Cool・・・Be Cool・・・」


 自分に言い聞かせながら投球モーションに入る

 ・・・ではGOOD LUCK!!


「うおおおー!!!」


 要はバチクソいいコースで三振取れば一番いいんだろ!ぶっ殺してやらあ!



 リリースの瞬間、鍛え上げてきた指先に力を集約し、最後の最後、爪の先でボールを切るように回転をかける。


 ビッ っと鋭い音がした。


 自分史上最高のストレートがインコースに向かっていく!コースは……入っている!

 内角が得意な島津はそれにフルスイングで対応。


 その結果ーー


「ストライク!バッターアウト!!」


 ボールの下を空振り、島津は三振した。


「……っしゃあぁぁあ!!」


 思わずガッツポーズ。


 さっきも言ったが、この配球は消去法でもあった。

 俺の球種は神子より二種類も少ないからな。


 だが、それで島津を抑えられないとも、自分が神子に劣っているとも言ってはいない!


 実は最後の球、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。でも俺はそこを狙って投げていたし、島津もこのボールは振るだろう思っていた。


 なぜなら球種が少ない分、俺は一球ずつのクオリティを神子よりも高めてきたからだ。

 神子の本質は変化球投手だが、俺の本質はパワーピッチャーだからな。故にストレートの球質には特に強いこだわりを持ち、ピカピカに磨いてきた。


 そして今回の配球は、4球連続で落ちるボールを見せた後、得意の内角へ逆に伸び上がる純正縦回転ストレート。しかも島津が得意な内角で高さ以外はストライクというボール。


 流石の島津も、思わずストライクと錯覚し振ってしまったと言う訳だ。


「痛っ」


 右手を見ると爪にヒビが入っていた。

 二つの意味で痛いが、この場面で島津を抑えた対価と思えばお釣りが来るくらいだ。それに俺にはまだ左手が残っている。


 悔しそうな顔でベンチに引き上げる島津。それと入れ替わるように、神子がバッターボックスへと入ってきた。二死走者なしだが、気迫は衰えはないようだ。むしろ一発で同点にしてやるという意気込みを感じる。



 上等だよ。


 グローブを左投げにスイッチ。

 全体力ここで使い切るつもりで抑えてやる。



 初球からフォークを使い、チェンジアップとドロップで追い込む。あと一球。



 アウトコースへ全力でストレートを投げ込むと、神子のバットは空を切った。



 マウンド上で腕を突き上げて叫ぶ、大声を出しているが何と言っているのか自分でもわからない。

 匠が、ニックが、細川が、河野が、真田先輩が駆け寄ってくる。いや、それだけじゃない。外野からは伊方先輩、大洲先輩、菊池が……ベンチからも全選手が駆け出しこちらに向かってきていた。アルプススタンドは湧いて、地鳴りのようになっている。


 喜びに沸きながら、ふとベンチの方を見た。

 ダリア先輩はそこでわんわん涙を流していた。


 ガチ号泣だ。


 顔をくしゃくしゃにしており、美人が台無し。

 でも、すごく綺麗だとも思った。





 その後、真紅の優勝旗が真田キャプテンに手渡され、ベンチ外メンバーも含めて野球部全員で写真をとった。


「じゃあ、皆で監督を胴上げするぞー!」


 スタンドを埋める応援団の前で竹中監督が宙を舞う。

 あとから冬雪部長も宙を舞うことになり悲鳴をあげていたが、皆楽しそうだった。


 ***


 湊鴎賀、二年目の夏

 引き分け再試合後、熊大苫小牧を1ー0にて撃破


 チーム最終成績 : 甲子園優勝

 大会個人成績 :防御率0.42 :打率.675 :本塁打3


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― 新着の感想 ―
野郎・オブ・クラッシャー!!(空耳) 敵も味方もお互いに、体力(セーブ力と回復力・管理能力)が化け物だなぁ…。 お疲れ、高校球児達。 (島津との戦いなどの白熱したシーンだから敢えて句点無しでもテ…
勝った、いや読んでいて今回は敗北を経験させるのかと思ってました。なんだかんだでチームの勝利。オーガ君がいなければ甲子園に来れたかも怪しかったけど、オーガ君だけでは優勝できなかった。
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