39.連投可能なエースの事情①
「泣いても笑っても今日が最後だ」
真田キャプテンが円陣で檄をとばす。
「初回から全力でいこう!」
そうして始まった決勝戦、八幡と熊大苫小牧の試合は球史に残る名勝負となった。
先制したのは八幡。
四回裏、一死一塁から匠のタイムリースリーベースで俺が一気に生還してまず一点。
次のニックは振り遅れ&ドン詰まりのセカンドゴロだったんだけどそれが幸いした。竹中監督より、バットにボールが当たった瞬間打球を見ずにサードランナーがスタートを切る作戦指示、『ギャンブルスタート』がでており匠が生還。二点目を奪う。
次に点を取ったのは熊大。
七回表、これまた一死一塁でバッターは四番の島津。ストレートとフォークで追い込んで、ドロップで仕留めにかかったところを島津のバットが一閃。レフトスタンド上段に飛び込む特大ホームランで同点とされた。
島津には本日初見となるドロップを完璧な高さ、コース、キレで投げたのになぁ……アレを打たれたら打者を褒めるしかない。
その後、両軍ともにランナーを出すものの決め手を欠いた試合は延長戦に突入。
ああ、楽しいなあ、いつまでもこの時間が続くと良いなぁという最高の試合だったが、ゲームは延長十三回表に再び動く。
先頭打者をチェンジアップで引っ掛けさせサードゴロを打たせたらベースに当たりイレギュラー! ツーベースとなってしまう。バントで送られ一死三塁、そこから相手の主将にスクイズを決められ一点を失った。
3ー2の一点ビハインドで十三回裏、点を取らなきゃ負けと言う追い込まれた状況でこちらの攻撃は八番打者から。
敗北の2文字が脳裏にチラつき非常にプレッシャーのかかる場面だったが、先頭の伊方先輩は粘って四球を獲得。
ガッツポーズで一塁へ行った彼を、バントシフトを引かれた中で大洲先輩がきっちり送り二塁へ送る。
ヒットが期待される場面で細川はファーストゴロに倒れたが、その間にランナーは三塁へ。二死三塁でバッターは真田キャプテン。
八幡全員の期待と願いを背負って打席へ。
応援曲、『愛は勝つ』が球場に響く。
バットの芯で捉えた強いあたりが三遊間に転がる!
完璧レフト前と言う当たり……を、ショートの島津が横っ飛びで捕球!
……いや、打球が強くてグラブから溢れている!
だが一瞬で拾い直し一塁へ送球、肩も強い!
ヘッドスライディングする真田先輩
そしてーー
「泣いても笑っても今日が最後だ」
真田キャプテンが円陣で檄をとばす。
なんか既視感のある光景だ。
しかしこれ、別に夢オチやデスループではない。
「というか、今度こそ本当に最後にしようぜ!」
そう、真田キャプテンの結果はタイムリー内野安打で同点になり、そのまま3ー3で延長十五回が終了。規定で引き分け再試合となったのである。頼れる三年生達に窮地を救って貰ったわけだな。
「九回までに結着をつけて、湊にも楽させてやろう」
その上、今度はアタシの心配まで!?
やだ惚れちゃいそう……
とまあ、半分冗談はさておき決勝戦二日目が始まった。
相手の先発は神子、連戦となり先日200球以上投げた相手校エースだが前日よりも大きくパフォーマンスを落としている様には見えない。
プロ野球でも球数100球目安で中一週間とか登板間隔をあけるのにそんなこと可能なのかって?実際目の前にそんな奴がいるんだから可能なんだろう。
一応、可能な理由も説明がつくしな。
まず、身体の損傷を回復する治癒力のピークは10代後半から20代前半だと言われている。成長期であり代謝が活発に行われる分、新しい細胞への置き換わりがスムーズだからな。
加えていえば遺伝子研究の発展により、炎症反応に影響を与えるILー6遺伝子など回復能力にも個人差があることが証明されている。そして前世のプロ入り後キャリアを思い出すと神子は先天的に高い回復能力を持っている可能性が高い。
スパンや調整方法も違う。年間を通して130試合以上の試合と移動をくりかえすプロと、大会という短期間を戦う間だけピークを維持すれば良いアマでは違って当然だ。プロだって、メジャーのワールドシリーズでは先発投手が連投する事があるが、その時パフォーマンスは殆ど落ちていない。
そして何よりーー
「やっぱり、スコアリングポジションにランナーが進んだ途端にギアをあげてくるんだな」
「みたいですね」
100メートルを全力疾走するよりも1キロをジョギングするほうが身体の負担は少ない。それと同じで、10球の全力投球をするよりも6〜7割の力で100球投げる方が楽だったりする。
真田キャプテンが先程言った通り、神子は前の試合からランナーが二塁に進むまで決して全力投球をしてこない。手を抜いていると言うよりは、連投で優勝するため要所に向けて体力と集中力を温存している感じだ。
だが、これが実際にできる投手というのは稀である。
2つの出力を自在に使い分ける器用さと、闘争本能をコントロールする自制心、そして出力を抑えた状態でもバッターを抑えることができる圧倒的な実力が必要となるからな。
現在の神子は、190センチを超える恵まれた身体を存分に使う事でMAX148キロの直球を投げる事が出来る。
だから多少力を抜いて投げても140キロくらいは速度が出る訳だ。しかも、ゆとりがある分コントロールまでいいと言うおまけ付き。
そして、こちらがやっとの思いでチャンスを作った瞬間、ギアを一気にトップまで上げてくる。先日の試合、そんな本気モードの神子から出たヒットは隣の真田キャプテンが打った一本だけだ。
「真田くんは前の試合、どうやってヒットにしたん?コツとかあれば後輩達に教えてあげたら」
「いや、それが全然覚えてないんだ。気がついたら一塁にいた」
ダリアパイセンの言葉に苦笑する真田キャプテン。
きっとあの時真田キャプテンは、色んな要因が絡み合った結果所謂『ゾーンに入っていた』のだろう。再現性は薄く、初めからそれに頼るようでは勝ち目は薄い。
結局、先頭打者で出塁した匠は二塁に残塁したまま二回表の攻撃が終了した。




