38. 決勝戦の前夜
「ーーと、言うわけで泣いても笑っても明日が最後だ。チーム一丸となって一生懸命悔いのないプレーをしよう、そして笑って終わろう!」
最後のチームミーティング。
真田キャプテンの激に全員が答える。
「「「「「「「「おう!!!」」」」」」」」
そうだった。真田キャプテンやダリア先輩と同じチームで野球するのって明日が最後なんだよな。
ちょっと、いやかなり寂しい気持ちになる……が、感傷に浸るのは後だ。今はただ、明日勝つことだけに集中しなくてはならない。
勝って三年生の花道を飾りたい気持ちは強いが、試合中の過剰な入れ込みは雑念になりかねない。そして決勝戦の相手である北海道代表、熊大苫小牧は生半可な気持ちで戦って勝てる相手じゃないからな。
というか、現在のベストパフォーマンスを出せても勝てるかわからない。それくらいマジでヤバい相手だ。
何せ熊大苫小牧には前世同様にあのマツケンと同格以上の投手である神子大将がいる……というだけでもヤバいのに、何の因果か同世代最強スラッガーの島津隼人まで在籍していた。
将来の日米通算200勝投手と2000本安打遊撃手のプラチナコンビだ。勿論、ほかレギュラー7名も相応に強くちょっとシャレにならない。
そう言えば、匠に言われて気づいたんだけど島津とは一度、中学時代に対戦していた……もしかして島津が熊大にいるのって俺のせい?
いやいやまさかな。前世ではシニア出身選手だった記憶があるし、多分その前からルート分岐してたんだろ。
っていうか全国大会で唯一切り札を使うまで追い込まれたあのエグいスイングしてた奴って島津だったのね。全然気づかなかった。
確実にその時よりバットコントロールもパワーも大幅にアップしているはずだし、試合映像を見る限り明日は抑えるのに苦労しそうだ。
「と、いうわけで睡眠導入ヨガしてさっさと寝よう」
人間の集中力は、過去や未来ではなく『今』にフォーカスした時が一番高まると言われている。『勝ちたい』、でも『負けたくない』でもなく、『目の前のタスクを完璧にこなす』のが結果を引き寄せる一番の近道だ。
そのために今は寝る!
真っ暗にした部屋でふとんに入り、リラクゼーション用の音楽をかけながら鼻呼吸と筋弛緩法で副交感神経を優位にさせると俺の意識は一瞬で深い闇の中へと落ちていく。
ーーよしよし訓練したとおzzz……
***
チームミーティングから一時間後、八幡のキャプテンである真田はバットをもってホテルの駐車場にいた。
彼は今、先程映像で見た神子大将のモーションに合わせ、湊鴎賀や春に戦った松田健太郎のボール軌道をイメージしてバットを振っているーーのだが、例え想像の中であっても中々ヒットは生まれてくれない。
「いや、アイツら化け物すぎ。イメトレですら碌に打てないんだけど……」
思わず苦笑が漏れる。
自分達も入部当初は八幡で近年稀にみる豊作の年と言われていたのに、最高学年となった今レギュラーで試合に出ているのは僅か三名だ。
『谷間の世代』
一部の人達から影でそう言われているのを真田は知っていた。「下の山が高すぎるだけなんだよ!」と言いたくなる日もあったが、根が真面目で他責思考とは縁遠いのが真田の長所であり弱点でもある。最近はそのプレッシャーで眠りが浅い日も出るくらいだ。
(いや、主将の俺が周りのレベルアップについていけてないのが一番の問題なんだよなぁ。)
それで今日もつい、そんな弱気なことを考えていると背後から声がした。
「ゆーくん、今日もがんばってるねぇ」
「ダリアちゃん……」
声の主は秋空ダリア。昔同じ私立幼稚園に通っていて、高校で再び同級生となり、一年生の時に告白したがフラれた相手だ。
二年生の春にダリアが野球部のマネージャーになった当初は驚いたし、「何でだよ、気まずいなぁ」なんて思っていた。
加えて言えば彼女が野球知識皆無なのも男子からモテるのも知っていたから、仕事に真面目に取り組めるかや、他の部員との色恋沙汰などで部内の空気を悪くしないか心配でもあった。
実は、前代キャプテンも当初同様の心配をしていたらしい。しかし彼女は、入部当初よりひたむきにマネージャー業務に取り組み、すぐ周囲からチームの一員として認められることになる。
そして今は野球部主将と最年長マネージャーとして互いを信頼しており、こういった時には幼稚園時代の愛称で互いを呼び合う、そんな間柄だ。
「お疲れ様……はおかしいか。まだ明日、大仕事が残ってるもんね」
「ははは。せめて足だけは引っ張らないようにしないとだからね……はぁ」
それでつい、後輩達の前では決して口にしないセリフを言ってしまった。
「なに言ってんの。ゆーくんはいつも頼れるキャプテンやってるじゃん」
「いや湊と匠は勿論、細川やニックにも実力は抜かれちまってるし、一年の河野や菊池にすら勝てるか怪しいよ。情け無いことにね」
今の発言が一番情け無いなぁ、と自分に苦笑する。
「んー、しんどい努力とか大嫌いなあたしからしたら野球部員は全員が立派で頼もしい男子に見えるんだけどね」
「俺からしたら、色んな仕事を笑顔で捌きつつ部員達のことをよく見てるダリアちゃんの方がずっと立派に見えるけどね」
「よせやい、本当の事を言われるとてれちゃうぜ……なんちゃって」
でも、せっかく褒めてもらった立派なマネージャーから見るとね、とダリアは続ける
「そんな凄い後輩達は、三年生の事をとても尊敬してるし頼りにしてるよ。ゆーくんを筆頭にね」
「へっ?」
「もしかして『俺はキャプテンとして頼りない』とか『アイツら強すぎて内心では俺なんて役立たずに思われてるかも』とか思ってる?」
「そ……」
否定出来なかった。図星だったからだ。
「後輩達が伸び伸び実力を伸ばして試合で活躍出来るのはさ、三年生が全員良い先輩してるからだよ。日々頑張る背中を見せたり、試合に出れなくても腐らずサポートを頑張ったりね」
「まあサポートメンバーは本当に立派だと思うけど、頑張る背中を見せるのは先輩として当然の責務というか……」
「うーん、当たり前を積み重ねられる人ってそんなに多くないと思うんだよね。特にゆーくんは甲子園に来てからも毎晩こうやって素振りしてるじゃん、私が勝利の女神なら明日はきっと贔屓しちゃうと思う」
でも、睡眠も大事だからあまり遅くならないようにね。
そう言ってダリアはその場に残る。どうやら練習を見ていくようだ。そこで、あともう少しだけ……とイメージを固め直しているとまた別の人の気配を感じた。
「キャプテン様はいつも素振りしてるな」
「最後だし、付き合うわ」
視線を向けるとレギュラーとして試合にでている伊方や大洲のみならず、三年生全員がバットをもってその場にきていた。
駐車場に無数の風切り音が響く。どれも、長年バットを振り続けた者だけが出せる鋭い音。誰もが無言だが、何よりも雄弁な応援だった。
明日、自分はこの世代の代表としてグラウンドに立つ。
(まあ、やるだけの事はやってきたか)
ならば後は、腹をくくってベストを尽くすだけだ。
不思議と、今日は熟睡できる確信があった。
おやすみなさい、良い夢を
主将✖️幼馴染マネ
真田キャプテン✖️ダリア
こちらのお話は、ダリアちゃん初登場時に高瀬あずみ先生から頂いた感想から膨みました。圧倒的感謝!
そしてお待たせしました。
この先、毎日投稿となります!




