40. 連投可能なエースの事情②
前世の経験があるからわかるが、俺の身体的才能は平凡なものだ。身長は170センチ台で、先天的な回復力もおそらく人並み。少なくとも神子には大きく劣っている。
現在二回裏、ノーアウトランナーなし。
バッターは四番、島津隼人。
ここまで外、外、外と攻めて、カウントはツーストライクワンボール。そこから匠の出したサインは内角へのストレートだった。
スピードガンが表示する今日の俺の球速はここまで直球で大体137〜9キロくらい。身長170センチ台の投手としてはかなり早い部類で甲子園でも上位ランクのスピード。
なんだけど、神子のMAXが148キロときくと少々遅く感じるかもしれないな。そして実際、超高校級の島津を抑えるには少々心許ない数字でもある。
プロでも内角打ちの達人と言われた島津。長打になるリスクも高いから出来れば投げたくないが、外一辺倒の単調な配球で抑えられる相手でもない。『目を慣らさせないためには仕方ない』という苦肉の選択だ。
(という訳で、甘いコースは絶対NG。事前の打ち合わせ通り内角直球はボールで良いからとにかく厳しいところへ……)
そして狙い通り、球一つ分外れたボールゾーンへ。
「ってそれを打つんかい!」
普通、打ってもファールか詰まった内野ゴロが精々というボール。なのに島津は左脇を開けながら肘を抜き、軸足に体重を残したまま回転することでヒットゾーンへと打球を飛ばしてきた。
レフト前へのクリーンヒット。
ノーアウト、ランナー1塁。
次の神子大将はバントの構え。十中八九は送りバントだが、念の為盗塁やバスターエンドランも警戒しておく必要があるな……ということで、極端なシフトは引かずに牽制しつつ、高めストライクゾーンへと投げ込む。
狙い通り、ボールはフライになりやすいコースに行ったが神子はそれにきっちり対応してバント成功。一死二塁になった。
次打者は今大会四割越えの打率を誇る六番打者。
流石に島津よりは一枚落ちるものの、130キロ台のストレートで抑え込むのはちょっと大変そうな相手でもある。
純正縦回転ストレートは軌道が特殊な分、並の直球よりは打たれ辛いがそれでも目が慣れた二日目だからな。
そんな中、匠のサインは初球ストレート。
狙われてるかもしれないがそれは匠も承知の上だろう。組み立ての軸となるボールだから、これを簡単に打たれちゃうようだと試合にならない。という訳で……
「むん!」
気合いを入れて投げ込んだ直球を、直球に山を張っていたらしき六番打者がフルスイング。そして打球はーー
完全に振り遅れた一塁方向へのファールフライとなった。よしよし、これでツーアウトだ。
スタンドが騒つく。
電光掲示板を確認すると148キロが表示されていた。自身の最速記録を2キロ更新である。
先程も言ったが俺の身長は170センチ台。
そして先天的な回復力もおそらく人並みだ。
だが、俺には幼少期から個人データをとりつつ培ってきたリカバリー技術があるし、何より両投げだ。練習時間の大半はフィジカル強化にあててきたから、出せるパワーだって190センチ台の選手に負けてない。球種も特殊な直球を含め四種類あるから、力をセーブしたままである程度抑える事もできる。
加えていえば、要所のみギアを上げて三振を狙うのは中学時代からやってきた。ボールが軽い中学軟式の大会って一日二試合やってエースが合計14イニング投げる事も多いしな。
「つまり、条件は神子と五分!」
フォークで七番打者を三振に仕留める。
これでスリーアウト、チェンジだ。
先程の匠と同様に二塁に釘付けにされた島津が恨みがましそうな目を向けてくる。好投手との対戦ほど燃えるタイプみたいだし、自分に全力投球して来なかったのが不満なのだろう。
すまんね。
こっちはエースとして、まずチームを勝たさねばならんのだ。だからピンチ以外で島津にまわってきた時は力をセーブしつつ『最悪シングルヒットなら打たれてもOK』という配球をしている。
だが、それにフラストレーションが溜まっているのはこちらも同じだ。さっきみたいにヒットを打たれたらやっぱり悔しいし、昨日なんてホームランを打たれているからな。
先は長い。島津の前にランナーを溜める気はさらさらないが、それでもどこかで全力投球で対決する機会もあるはずだ。
リベンジの機会はその時に取っておくことにしよう。




