35.立ちはだかる巨人
七月。
甲子園組は無事に熱を取り戻し、控え組と新入生から有望な新戦力もでてきた八幡は以下のメンバーで夏の県予選に挑む事になった。
1.ファースト 細川流
2.セカンド 真田キャプテン
3.ピッチャー 湊鴎賀
4.キャッチャー 大樹匠
5.サード ニック
6.ショート 河野
7.センター 菊池
8.ライト 伊方先輩
9.レフト 大洲先輩
三年生三名、二年生四名、一年生二名という全学年の総力を結集したラインナップだ。特筆すべきは一年生でスタメン勝ち取った河野と菊池だな、アイツらホントに上手いわ。
短期間で高校野球に適応し、ハイレベルな三年生達を差し置きレギュラー奪取するとは……個人的にアッパレをあげたい。
またスタメン落ちしたメンバーも腐ってはいない。甲子園での返り咲きを狙いつつ、悔しさを押し殺し献身的なサポートに回ってくれている。
お陰でチームの雰囲気は最高潮。
加えて春の選抜優勝という実績が相手を緊張させ所謂『名前負け』状態にするのか、大きな苦戦をすることもなく準決勝まで駒をすすめることができた。
準決勝の相手は古治。
これは甲子園クラスの強敵だったが、エースは昨年苦戦した辻井より一枚劣っていた。それに対して序盤にウチの打線が爆発した結果、危なげなく快勝。
昨年格下のチャレンジャーだった俺たちが随分と強くなったもんだと感動をおぼえる。
そうして迎えた決勝戦。
八幡はプロ注目の長身右腕、中岸ティモンを擁する清美と激突した。ちなみに、昨年の秋季大会で負けた相手でもある。
まあ、あの時は俺が欠場してたからね!
今日は負けん!リベンジじゃい!
さて、そんな中岸ティモンは……というか清美というチームを一言で表すなら『ゴリゴリのパワー野球タイプ』である。
理不尽な上下関係や、故障と隣り合わせの猛練習や、それで不足する睡眠時間を授業中に補うなど、この時代の清美高校の育成方針には個人的にも倫理的にも賛同出来ない点が多い。
ただそれはそれとして清美の『レベルを上げて物理で殴る!』的な野球コンセプト自体は、実は結構好きだったりする。
清美の名物練習である『2キロの鉄パイプを一万回振る』とか『一日でトータル10トンの重量を上げるウエイトトレーニング』とかロマンの塊だしね。
そりゃあ、力も自信もつくだろう。正直、科学的な練習とは思えないがそれを頭ごなしに否定する気もない。
槍投げ競技のレジェンドには、理論と根性の両輪で人間の限界を超えた高強度トレーニングを実践して世界トップクラスの肉体を作り上げた人だっている。
ちなみにそのレジェンドは『100トン練習』なんてのをしていたらしい。バカじゃねーの(褒め言葉)。
そんな逸話を聞くとトップアスリートにとっての正解というのは、案外凡人の常識の外、いわゆる狂気の世界にあるのかもなと思う事もある。
まあ、俺は絶対にやらないが!
かのレジェンドも肩の靭帯を痛めそれが引退に繋がったと言うし、科学的な練習だけでも甲子園優勝できたしな。今から不要なリスクを負いたくはない。
目標は野球を極める事だ、努力は手段に過ぎない。
だから安全に目標に近づけるなら俺は迷わずそちらを選ぶよ。まあ、『100トン練習』に興味がないかといえば嘘になるけど……
まあ、それはそれとして今は目の前の試合に集中だ。
***
「ふう、強敵だったぜ」
清美はパワーヒッター揃いだったが、当たらなければどういうこともない。まあ、スイングスピードが速い分三振とるのも大変なんだけどね。
特に中岸ティモンは内角直球で完全に詰まらせたのにセンターオーバーのタイムリーツーベースを打たれた。その分お返しに、奴のボールをスタンドに叩き込んでやったけれども!
そんなこんなをしているうちにゲームセット。
結果は3ー1で八幡の勝ちだった。
清美は明らかに昨年よりも強くなっていたのにこの結果、いや俺たちってホント強くなったんだなぁ……
八幡高校、夏の甲子園出場決定。(二年連続二回目)




