33.完全燃焼後の白灰
甲子園からの帰郷後は少々慌しかった。
地元で優勝パレードをしたり県知事への報告会があったりと学校のみならず色んな所へ出向いたからな。
でも、皆喜んでくれていて頑張って良かったなと思う。まあ、努力の原動力は自分のできる限界まで野球を極めたいって個人的な欲望だったんだけど、自利利他ってヤツだね。
あと、『夏も頑張れ』と追加で寄付金を頂いたらしく練習道具を新しく買おうという話になったので俺の方からもいくつか欲しいものをリクエストさせてもらった。
少々高額な品もあったが、私立強豪のように数億円かけて室内練習場を拡張するとかに比べたら大分お手頃プライスだと思う。
さて本日はそれらが全て終わった春休みの最終日。軽い全体練習を行なっているんだけど、チーム全体にどうにも活気がない。特に甲子園を戦ったレギュラー陣はあまり声がでておらず、イージーミスも目立つ。比較的マシなのは匠だが、それでも普段よりはパフォーマンスが低い。
「どうした真田、お前らしくないぞ」
「すいません……」
「あー、やめやめ!今日の全体練習はここまでだ。注意散漫なまま続けてケガされても困るからな」
普段皆んなを引っ張るまとめ役である真田キャプテンまでこんな感じで、竹中監督もお手上げといった感じだった。
「この後は個人練習にする。が、活気が出ないものはこのまま帰ってかまわん。というか帰れ、監督命令だ。」
監督がそういうと、レギュラー陣を中心に部員の殆どが帰ってしまった。なので今日は一人でフィジカルトレーニングに励むことにしよう。
軍手をはめ立った所から身体を後ろに逸らしてブリッジ状態になり、そのまま前後にトコトコ歩いてから再び立位姿勢に戻る運動を繰り返す。
ふう、メニューを一つ消化。休息が終わったら、次はブリッジからの横ロールをして、その次は逆立ちでーー
「湊、ちょっと時間いいか」
なんて思っていたら、竹中監督に話しかけられた。
「はい、なんでしょうか」
「甲子園が終わってから皆、見事に腑抜けちまっているだろ?原因はなんだと思う」
「ええっと、所謂『燃え尽き症候群』かなと」
「うーん、やっぱりお前もそういう認識か」
燃え尽き症候群、別名バーンアウトシンドローム。
高い熱意を持って仕事や目標に取り組んでいた人が、突然無気力になってしまう状態のことだ。
疲労の蓄積によって陥る場合もあるが、基礎体力も回復力もある高校生なので肉体的な疲労は抜けているはず。なので今回は『甲子園優勝』という球児にとって最大の目標を達成した事が一番の原因だろう。完全燃焼で燃え尽きて真っ白な灰になっちまったわけだな。
「だが、お前は変わらず高いモチベーションを保てているようだな。自分では何故だと思う?」
「まあ、僕の場合は最終目標が『限界まで野球を極める事』なんで。甲子園優勝だってWBCやワールドシリーズ優勝までの通過点という認識ですしね」
「そ、そうか……」
しかし、プロを目指していない片田舎の高校生にとっては、もうゴールしたとも言える現状。また、数万人の観客に応援されるという特殊な状況下で全国の強豪と戦った事に比べたら学校で行われる練習を退屈に感じるのも無理はない。
あと、精神的に磨耗しているやつは多いのかもな。
オリンピック選手だって競技後には『先の事は未定、しばらくゆっくり休んでから考えたい』とかコメントするくらいだしね。
「しかし、他の奴らはどう調整したもんか。できればゆっくり休ませてやりたいところだが……」
「選抜出場校として4月下旬には春の四国大会出場が決まっていますもんねぇ」
さらに言えば、七月上旬には三年生にとって最後の夏がはじまる。
「なあ、あくまでも参考までにきくけど湊が俺の立場だったらこんな時どうする」
「僕が監督なら?そうですねぇーー」
質問されたので俺なりのチーム再生プランを伝えてみると、監督は「あー」って感じで天を仰いでいた。その後、ウデを組みうんうん唸ること数分。
「……でもまあ、本気で甲子園の春夏連覇を目指すならそれくらい腹をくくらんとダメかもな。よし、それでやってみよう!」
「マジですか?」
結構な劇薬よコレ?
発案者の俺が言うのもなんだけどさ。




