31.近代野球の対策
投手としてのマツケンは『途中まで同じ軌道を通ってから変化する、140キロから115キロまで球速差のある4球種を投げわける』という超難敵だ。
それに対して俺は『125〜130キロを詰まり気味にセンター返しにできるタイミングで待ち、全球種に対応』というプランで打席に入っていた。
もう少し簡単にいうと、「ストレートのタイミングで待ちながら変化球に対応する」のではなく「変化球のタイミングで待ちながらストレートに反応する」という方針にしているわけだ。
この時代の高校野球だと一般的ではないが、技術革新によって投手の投げられる球種が激増し変化球の割合が増えた2020年代プロ野球ではこの戦略で打席に立つ打者も増えている。
理由はシンプル。
ストレートのタイミングで待ち遅い変化球が来た場合ボールがヒッティングポイントに到達する前にバットを振り空振りしてしまうが、変化球のタイミングで待ち速いストレートに振り遅れた場合バットはまだ出されておらずボールにバットを当てることができるから。
勿論、言うは易し行うは難しなんだけどな。
素早く反応しないとストレートに手が出ず三振してしまうから、マツケンクラス相手にこれを実行するにはスイングスピードと反応速度を極限まで磨き上げておく必要がある。
だが、俺は小学生の頃より授業中に素早く眼球を動かして『スポーツ用の視力』を鍛え、クラス全員の動きを同時に認識して処理する事で『0.1秒以内に脳内で処理できる情報量を増やす』トレーニングをしてきた。スイングスピードに関しても中学生以降は毎月測定しつつそれを高めるような瞬発系トレーニングを行ってきた結果、現在のスイングスピードはプロの平均値145キロまでアップしている。
初球、様子見のストレートを見送る、ボール
2球目、カット系スライダーを見送る、ストライク
3球目、斜め系のスライダー、ボール
3球目、ストライクゾーンからボールゾーンに変化させて空振りを奪いにくる球を見逃せたことでワンストライクツーボールのやや打者有利のカウントとなった。セオリー通りなら次はストライクゾーンいっぱいを狙い、スリーボールになったら四球で塁を埋めることも視野に入れてくる場面、勝負所だ。
そうして投じられた4球目は、外角低めギリギリに落ちるVスライダーだった。その球を俺は、グリップをスイング開始ギリギリまで後方に残し最後は右手一本で拾うように捉える。
キィン、と金属音を残して打球はセンター前へ。
猛チャージをかけたセンターが必死にバックホームするが細川の走塁も上手くセーフになった。同点だ。
「ふう、上手くいってよかった……」
ベース上でホッと一息つく。
実は俺、ランナー無しでまわってきた前のニ打席は半分以上捨ててスライダー軌道のインプットに費やしていた。
まあ、そのせいで三振しそれでも打てるかギリギリの勝負だったんだけど……この打席に関しては俺の勝ちだ。
その後勢いにのる八幡は匠がヒット、ニックが四球で続き一死満塁となる。そこで竹中監督の出したサインはーー
初球スクイズ!
先に言っておくが、竹中監督は『捕手はウエストボールしてこない』という読みに勝ち、ランナーの俺もバッターも見破られないような完璧なモーションで作戦を遂行した。
思わず心の中で「やったか」ーーと思ったね。
だと言うのに、マツケンはバッターがバントの構えをした瞬間、咄嗟の指先操作でボールをワンバンドさせてきやがった!
本当にとんでもねぇ選手だな!
スクイズ失敗。
やはりというか、マツケン率いるLP学園相手に簡単にリードさせてはもらえないらしい……




