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その野球小僧、前世知識で鍛錬中につき  作者: いのりん


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32.積み重ねた果ての一撃

 同点になった次の回、LP学園は猛攻を仕掛けて来たがバックと連携して何とか凌ぎきる。試合はその後、膠着状態へ。


 互いに無得点が続き、九回裏ツーアウトランナーなしで俺の四打席目が回ってきた。長打が欲しい場面で丁度『浜風』が吹いていている。よって、それを利用すべく今回はセオリーを無視して右打席に入った。


 するとマツケンは、ストレートをアウトコースに投げ込んできた。自分がやったように変化球を引っ張り風に乗せられる事を嫌ったのだろう。


(ーー読み通り!)


 周囲の環境や打者心理まできっちり把握し、その上で隙のない合理的な野球をしてくるLP学園。彼らのレベルになれば当然、現在浜風が吹いている事も先ほど打席で俺がスライダーのタイミングで待っていたのも折り込み済みだ。


 だからそこから逆算し右打席に立って罠を張った。球種とコースを限定させ、その一点に大ヤマをはって強振するって訳だ。


 踏み込み、センターオーバーを狙ってフルスイングする。


 だがーー


(くっ、速い!)


 敵もさるもので九回とは思えない快速球を投げ込んできた。後で確認すると、145キロも出ていてこの時の自己ベストを更新したらしい。僅かに振り遅れるが今更止まれないので全力でバットを振り切る。


 狙い通りのコースだった分、真芯で捉えた感触はあったが打球は狙いと違うライト線へ。そしてーー


 それがライトポールを直撃した。


 サヨナラホームランである。


「マジか……」


 思わず呟いてからマツケンの方を見ると、珍しくほうけた表情をした後ガッカリとうなだれていた。

 そりゃそうだろう、打った自分でも信じられない奇跡のようなホームランなのだから。


 ただ今回のホームラン、奇跡ではあるが全くの偶然ではない。策が上手くハマった他にもホームランになった理由はキチンとある。


 まず、マツケンの投げた球は速度もコースも申し分なかったがボールが高かった。常に長打を打たれ辛い低めにボールを集める制球力が彼の持ち味だが、連戦による疲労と八幡打線のプレッシャー、そしてアドレナリンの噴出により最後の最後でボールが高く浮いてしまったのだろう。


 そして、皮肉にも球速が速かったことが高い反発力を生み出し、また振り遅れにより最深部118メートルのセンターではなく95メートルしかない甲子園ライトポール側へボールを飛ばす事になった。


 浜風もこちらのプラスに働いた。風による左側への押し戻しが無ければギリギリでファールになっていたはずだ。


 そして仕上げは、手前味噌ながらピカピカに磨きあげてきた俺のスイングスピード。おおよそ120キロがホームランを打てる基準で、名門の打者が130キロ前後の中、俺はプロの平均値である145キロまで数字を伸ばしていた。


 何故そんな事が出来たかというと、回復の時間を十分に確保した上で最大速度・最高強度のスイング練習をLP学園の選手達よりも多く繰り返してきたからに他ならない。


 そう断言できる理由もある。LP学園の総練習量とリカバリーにかけられる時間で俺と同じ回数、最大速度・最高強度のスイング練習をした場合はまず間違いなく身体がぶっ壊れるのだ。


 成長期のアスリートが疲労を抜き身体を作るには8時間睡眠でも全然足りないが、マツケンの書籍によるとLP学園の一年生の頃は朝5時起床で朝練の準備に向かい、23時時に帰寮してから先輩のジャージを洗う生活をしているらしい。

 また学校生活でも先輩の前では常に気を張っておく必要があり、食事面ではお菓子禁止のみならず食堂で調味料を使う事すらNGだったという。


 自衛隊よりキツイじゃねーか!

 控えめにいって地獄だな。


 つまり、休養と睡眠と栄養が足りない状態で超長時間の練習を行っていたわけだ。気の遠くなるような反復練習により技術や効率的な動き方は身につくかもしれないが、そこに最大速度・最高強度の練習を繰り返す余力はない。というか、上手く手を抜かないと絶対に故障する。


 対する俺は毎日たっぷり睡眠をとり、補食や身体のケアを徹底的に行ってきた。その上で自分の体調を日々モニタリングし、疲労が蓄積せず故障しないギリギリのラインを見極めた上で最大量の高強度練習を日々積み重ねてきたのだ。


「凄いよ湊」

「ホント、大した後輩だわ」

「やったっすね」

「見せ場をとられちまったぜ」


 ホームに帰ると仲間達が出迎えてくれた。


 試合が終わった今だから言うが、実は俺もLPからスカウトがきていたんだ。でも行かなかったことに後悔はない。


 マツケンは書籍で地獄の日々を共に耐えたLP学園の仲間との絆や人間的な成長についても書いていたけど、公立校だって捨てたもんじゃないぞ。


 今回勝てたのは、自分の考えを素直に表現でき伸び伸びと野球に集中できるこのチームで、仲間と積み重ねた日々があったからだ。


 俺……八幡高校を選んで本当によかった。



 ********


 湊鴎賀、二年目の春

 LP学園を2ー1サヨナラ勝ちにて撃破


 チーム最終成績 : 甲子園優勝

 個人成績 :防御率0.45 :打率.640 :本塁打2

県立八幡高校 校歌 

作詞:いのりん 作曲:親愛なる貴方


波かきなして うわのうみ

三つの太陽 智仁勇

橘の風 薫りゆき 

親愛の花 育てゆく

八幡神と 栄えゆけ


※八幡神→はちまんしん、と読みます

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― 新着の感想 ―
>三つの太陽 智仁勇 いや校歌っぽいですね。試合後の観客席(応援席?)でOB達が近くの人と肩を組んで歌っている情景が目に浮かぶ。
劇的サヨナラホームラン!湊くん八幡高おめでとう!! 地元の盛り上がりがすご過ぎそう。 でも暑い夏はすぐそこ、次はどんなレジェンドが対戦相手として現れるのかも楽しみです。
運、訓練、知識。 環境、信念、絆。 3連バースト弾の二丁射撃(ダブルショット)で、終幕(サヨナラ)だ。 八百万(やおよろず)の神々もスタンディング・オベーションで拍手喝采。
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