表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その野球小僧、前世知識で鍛錬中につき  作者: いのりん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/69

29.ゆとり世代の美学

 春の選抜高校野球は五回勝てば優勝となる。


 一回戦を突破した俺たち八幡は2、3、4回戦も勝ち上がり決勝へと駒を進めた。


 いい選手が沢山いたが、それ以上に強く印象に残っているのは二回戦で当たった埼玉代表、島和学院のスタンド応援野球部員によるキレッキレのサンバダンス。

 それと四回戦で当たった関東第二高校ブラスバンドの演奏する『西部警察』だ。


 八幡は田舎の公立校という事で、判官贔屓もあるのか球場がこっちを応援してくれるムードになる事が多い。

 しかし、前述の二つは魔曲と同じく『甲子園の名物応援』というやつで、その時は球場の空気が一変していた。この辺は、テレビでは伝わりにくい現場特有の感覚かも知れない。


 接戦だった事もあり結構なプレッシャーだったが、要所で使ったフォークが効いて何とか勝ち残ることができホッとしている。


 ちなみに、3回戦は、匠にホームランが飛び出しニックも攻守に活躍した。さらにリリーフした細川も好投した結果8ー0で快勝。全員冬に立てた目標が達成できて喜ばしい限りだ。


 ただしニック、テメーは爆発しろ。


 とまあ、冗談はさておき迎えた決勝戦当日。高校球児にとって夢舞台なんだが、俺はそれとは別の事に感動していた。


「おお、みろよ匠!LP学園の松田健太郎だ」

「鴎賀って時々、妙にミーハーっすよね」


 バッカお前!マツケンだぞマツケン。あ、でもまだプロに入ってない高校二年生だしそういうリアクションでも無理ないか。


 松田健太郎、通称マツケン。


 彼は後にドラフトで『超豊作』と呼ばれたこの世代の中でも最強格の一人である。後にメジャーリーグでも活躍する超一流の投手であるだけでなく、高校時代はショートの守備やバッティングの評価も高かったスーパーオールラウンダーだ。


 実際、プロ入り後も投手ながら何本もホームランを打ちゴールデングラフ賞だって獲得している。あと、メジャーで代走に起用されたこともあったな。


 そんな彼は今、前傾し肩甲骨をグルグル動かすウォーミングアップルーティンを行っていた。そういえばこの体操、昔草野球で皆真似してたなぁ……


 それにしてもよく考えられた運動だ。2010年頃に仙腸関節の動きとも連動した発展系が開発されるから今マツケンがやってるのはプロトタイプなんだけど、それでも肩甲骨の可動域を広げて肩の怪我を予防するだけでなく、しなやかで自然な投球フォームと似た上半身の運動パターンでもありーー


 と、ガン見していたらマツケンがこちらに気づいた。にこっと笑って、やあって感じて片手をあげてくる。はわわ、頭がフットーしそうだよぉ……


「推しに認知された!嬉しい」

「どうでもいいけど、試合になったらキッチリ頼むっすよ。」


 うん、そうだな。気合いを入れておかねば。


 俺は前世で彼の書籍を読みファンになったのだが、それは人間的に素晴らしいだけでなく非常にクレバーかつ合理的な選手だったからだ。


『力を抜く事、サボることを恐れない』

『ゆとりは大切』


 という事を作中で名言していたマツケン。またLP学園時代、自分にとって重要な練習や試合にリソースを集中するため自分に合わない練習や理不尽な制度については要領よく回避していたらしい。そう言う旨を、多方面への配慮溢れる文章で表現していた。


 中学時代はボーイズリーグ日本一にも輝いており、心技体知に経験、その全てを兼ね備えたエリート中のエリートwith超名門校。

 勿論、応援団も超一流で、大人数がボードを掲げて作る人文字は全国的にも有名だ。


 そんな、個人としてもチームとしても間違いなく過去最大の強敵。一筋縄ではいかない相手である。


 と、気合が入ったところでアップが終わり試合開始。ウチは後攻で、オーダーは以下の通りだ。


 1.ファースト  細川流

 2.セカンド   真田キャプテン

 3.ピッチャー  湊鴎賀

 4.キャッチャー 大樹匠

 5.サード    ニック

 6.ライト    山口先輩

 7.センター   香川先輩

 8.レフト    徳島先輩

 9.ショート   島波先輩


「ストライク、バッターアウト!」


 絶対に先制点はやらんと初回からとばし表を三者三振に抑えて今度はこちらの攻撃。


 さて、ウチの一二番はどれくらい通用するのか。


「最後はボールが消えた……気をつけて。想定以上の凄まじいキレとコントロールだったよ」

「了解」


 細川はあっさり三振し、真田キャプテンは内野ゴロ。

 うーん……言っちゃ悪いが全然通用してないな!


 高い総合力をもつマツケン。中でも特筆すべき点は数種類あるキレの良いスライダーをほぼ全て、精密機械のようなコントロールでストライクギリギリに投げ込んでくることだ。

 見逃せばあっさり追い込まれ、打っても硬い守備陣に阻まれる。今の二人もそれにやられた。


 甲子園決勝だと言うのにマツケンに気負う様子は全くみられない。余裕しゃくしゃくというか延長戦まで視野にいれて力をセーブしているというか……一種の『遊び心』をもって投げている感じすらする。


 ならまあ……ここは俺がなんとかするしかないな!尊敬に値する彼だが今は対戦相手、憧れるのをやめましょう。


 ここらで、お遊びはいい加減にしろってとこを見せてやるぜ。





 三振した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
完全にファンになってますよ、オーガくん。いやしかし、ショートもできるとは、マツケン氏素晴らしい。 夏に続いて大阪勢が立ちはだかる! このモデル校の校歌、歌えます。一番だけですが覚えてしまった。それくら…
いや、打てんのかーい! 心身にゆとりを保ったパーフェクトラウンダーには奇策・搦め手も無駄だろうし、厳しそうだな。 ま、まあ、二鳥拳銃さんにはまだ投手的活躍が有るし、これからこれから…。ぶっ放せ弾丸ボー…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ