22 砕け散る硝子
2回以降、試合は壮絶な殴り合いとなった。
お互い、毎回のように四死球やヒットでランナーを出す展開。当然ちらほら得点も入るが、相手のエースも俺も土俵際で踏ん張りなんとか大量失点だけは防いでいるような状況だ。
俺の場合、3回から早々にスライダーと対になる横変化球の『シンカー』を解禁し、6回からは『ツーシームジャイロ』という特殊変化球も混ぜてバッターの目先を変えていった。
ただ、やはり全体的にクオリティが足りず完璧に抑え込むまでには至らない。7回からはクイックモーションやオーバースローも時々混ぜて、なりふり構わず抑えていく。
ちなみにこの間、俺は1回相手の尻にぶつけている。
ごめん、マジごめん、わざとじゃないんだ。サイドスローは横に円運動する分、他の投げ方よりも横方向へのコントロールが乱れやすいんだ……向こうのエースは2回ぶつけてるから、お互い様と言うことで。
さて、そんな感じで荒れた試合も、いつの間にやら9回表。5ー5の同点。二死一、三塁という状況でバッター俺。おそらくここが、この戦いの桶狭間だ。こちらの持ち札はもう全て開示済みだし、試合の流れ的に八幡が勝つにはここで相手を叩くしかない。
決勝戦という事で、球場には全校生徒のみならず地域の皆様も大勢駆けつけてくれていた。創部以来、この先へ進んだことのない野球部長年の悲願、未踏の景色を見せてくれと言う地域ぐるみの大声援が聞こえる。普通なら大きな後押しになると同時に、期待に応えたいと言うプレッシャーも感じる場面だろう。
だが、俺は不思議とプレッシャーを感じることはなかった。
(まあ、十五年間これ以上ないくらい積み上げてきたしな。これだけやって負けたなら、そん時はしょうがねーわ。)
どこか他人事のように、そんな事を思った。
しかし、決してやる気を失っているわけでは無い。『吹っ切れてるけど落ち着いてる』って感じだな。この精神状態、スポーツガチ勢以外には少々説明が難しいが……ああ、『めちゃくちゃ勉強した後の入試や、死ぬほど準備したプレゼン前の心境』なんかは結構近いかもしれない。というわけで、あとは最後まで人事を尽くすだけだ。
さあ、打席に立つ前に状況を整理し最後の戦略を立てよう。
まず狙うべき球種はストレートだろう。相手からすると一塁ランナーが盗塁を仕掛けてくる可能性もあるし、俺は本日、変化球を一本長打にしている。そしてなにより相手の三年生投手は速球が持ち味、ここで変化球を打たれたら相当悔いが残るはずだ。なので、ストライクゾーンに投げてくる球種は直球の可能性が高い。
で、コースは打たれても長打になりにくいアウトローを狙って投げてくるはず。ただし、俺はツーストライクを取られるまでは、そこよりも甘く入った失投を狙うことにする。相手投手、狙い通りのコースに投げ込めたボールにはまだ力があるように見える一方で、球がばらつき始めておりコースを外れた球は球威も落ちているから。
「プレイ」
と言うわけで『ベルトラインより高めにくる、アウトコースから真ん中よりのストレート』を待つ。
「ストライーク!」
今のはアウトロー、球威があった。
「ボール」
やはり変化球は外してきた、バットを止めることに成功。
「ボール」
やや力んだか、ストレートが低めに外れた。
次だ。スリーボールになれば、多分歩かされる。チャンスが来るとしたら、ここ。
狙い球、こい……こい……こい......っっ!
きた──
ガラスの天井が砕けたような、甲高い音が聞こえた。
その後のことは、記憶が少し曖昧だ。
ただ、夢中でダイヤモンドを一周したことと、裏に猛攻を浴びつつ逃げ切ったことだけは覚えている。
一年目、夏の県予選。
8-7にて県立八幡高校、初優勝。




