22.5 S級特待生、中岸ティモンの攻防
私立清美高等学校の特待生にはランクがある。
入試のみが免除されるCランク、学費が半額となるBランク、学費全免除のAランク、そして寮生活や道具代など部活にかかるすべての費用まで学校側が全負担するSランクである。
AランクやSランクの特待生は学校側にとって学生やお客様ではなく、スポンサーと契約選手のセミプロ関係に近い。中でも支出が多いSランク選手には、在学中のみならず卒業後も広告塔となってくれるような金の卵だけが選ばれる。
そんな清美高等学校のSランク特待生に選ばれたのが中岸ティモンである。関西のシニアリーグで圧倒的な成績を残した彼は、将来プロ野球選手としての活躍が期待され野球留学してきた。
元力士の父親と多様なルーツをもつフィリピン出身の母親を持つ中岸は、生まれつき身体が大きかっただけでなく、筋肉のつきやすさに関与するテストステロン値、筋出力に影響する神経系の発火強度などにおいて日本人の平均を大きく上回る身体的才能の持ち主である。
さらに、猛練習をいとわぬ精神性と苦痛に強い耐性を持つ遺伝的特性まで兼ね備えており、まさに『金の卵』と呼ばれるにふさわしい選手あった。
が、この金の卵は孵化せずに終わることになる。
なぜか。
それは皮肉にも、彼が大変な努力家であり、身体が出せる出力が並外れていたからに他ならない。
むろん、中岸とて馬鹿ではない。入部して数ヶ月で足を疲労骨折した時には既に『このままでは不味いのではないか』と葛藤してはいた。
しかし、『できるまでやる』という校訓や、清美の勝利という結果によってブラック企業ばりの猛練習が肯定された結果、彼の身体は蝕まれることになる。
走るために生まれてきたサラブレットがレース中に故障するのは、多くの場合のその体重と速度が原因だ。中岸も同じで、周囲の選手より大きく重い身体を周囲の選手よりも速く強く動かすため、体には常に大きな反動がかかっていた。しかし、精神的限界が他の選手より高いため、日々、他の選手が疲労から無意識に手を抜くフェーズでも最高出力で練習し続けていた中岸。
当然その身体は負荷に堪え切れれず、高校3年間の間に3回も大きな故障を経験することになった。後にこれらの辛い経験を糧に芸能人として花開きはしたが、大学でも大きなケガをし、その後イップスを患ったことで彼のアスリートとしてのキャリアは終焉を迎える。
少なくとも、湊鴎賀の『人生一週目』においては。
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なんだこれは、一体どうなっている。
決勝戦の最中、中岸ティモンはずっと困惑していた。
8ー5で迎えた最終回、清美はエラーとヒットによって無死二、三塁の大チャンスを迎える。そこから、内野ゴロと外野フライの間に2点を返したが、状況は一点ビハインドの二死走者なしになった。
その後、再びランナーを出すも最後の打者が内野ファールフライでゲームセット。県内のみならず、全国から優秀な選手達が集まり『ブラック企業より過酷』といわれる地獄の三年間を耐えてきた最上級生の夏が終了する。
その光景を、中岸はスタンドから呆然と眺めた。
わからない。
なぜ負けたのかわからない。
今まで中岸は、練習した分だけ上手くなり結果がついてくるものだと信じて疑わなかった。しかし、それでは八幡の一年生バッテリーに練習量で勝っている先輩達が敗北した事に説明がつかない。
それに、今の自分は猛練習の結果疲労骨折し試合に出る事すら出来ずにいる。もし自分が万全のコンディションで試合に出ていれば、勝敗は逆だったかもしれないのにだ。
今まで信じていたことが『敗北という結果』によって否定され、戸惑う中岸ティモン。そんな彼はこの夏、怪我で練習をセーブしている期間にテレビや雑誌で湊鴎賀のインタビューをみて衝撃を受け、その後二つの価値観の間で葛藤することとなる。
湊鴎賀の『人生二週目』においてこの金の卵がどのような道を辿るのか……それはまだ、誰にもわからない。
次回、明日投稿予定です。




