20 チームスポーツにおける道徳
「だらっしゃあぁぁ!!」
お互い無得点で迎えた延長12回の裏、ツーアウト満塁から外野に飛んだ球をセンターがキャッチしたのを見て叫ぶ。
あっぶねぇ、危うくサヨナラ負けするところだったぜ……
事前の予想に反して試合は延長戦にもつれ込んだ。相手のエース辻井の球威は一切衰えず、ウチの打線はここまで散発五安打と抑えこまれている。誰だよ、途中でガス欠になるとか言ってたやつ。
いや、確実に疲労は溜まっているはずなんだ。前世の医療知識を元に、イニング間のカフェイン&アミノ酸摂取やクーリングなど諸々の対策をしている俺ですらバテバテなんだから、生理学的にはそうじゃないとおかしい。
だからたぶん辻井は今、脳内麻薬がドバドバ出てて所謂『精神が肉体を凌駕した状態』になっているんだと思う。いや、辻井だけじゃないな。恐ろしいことに古治の三年生選手全員が、終盤に入ってパフォーマンスを上げてきた。
これが、多くの選手が親元を離れて三年生間野球づけの生活をおくる名門校の執念というやつか……存在意義を賭けた勝利への執着、気持ちの強さでは現在こちらが一歩リードされていると認めざるを得ない。
って、いかんいかん!今はまだ試合中、弱気になってる場合じゃない。しかし、正直言って次の回0点に抑える自信はないぞ……ってなわけで
「頼む匠ー!打ってくれー!」
今は仲間と運頼みだ。笑いたくば笑え。
祈りが通じたのか、カウントをとりに来た変化球を捉えてヒットを打つ匠。ありがとう、大好き!
続く真田先輩の送りバントは危うくダブルプレーになるところだったが、僅かにこちらのほうが早くフィルダースチョイスとなりノーアウト一、二塁となった。
千載一遇の大チャンス、続くバッターは俺だ。
ターニングポイントということで古治が守備タイムをとり、俺は竹中監督に呼ばれた。相手に背を向けた状態から小声で一死二、三塁の状況をつくるための送りバントを指示される。
「相手はおそらく、バント封じのセオリー通りくるはずだ。難しいと思うが、なんとか三塁線に転がしてくれ」
今大会、俺は投球に集中できるよう九番に配置されており本日はノーヒット。ランナーを進めて上位打線に賭ける選択は妥当なものだろう。しかしーー
「監督、ご相談があります。相手の守備陣形次第ではーー」
そう言って俺が話した内容に目を見開く竹中監督。まあ、そりゃそうだろうな。選手が監督の作戦に意見するなんて、この時代の高校野球の常識からは大分外れていることだし。
そういえばこんな状況、小学生の道徳の授業ででてきたことがあるわ。確かタイトルは『星野くんの二塁打』だったか?
あの話では『打てそうな気がするくらいのことで作戦を立てるわけにはいかない』と意見を却下されてしまった星野くん。しかし逆にいえば彼の作戦、キチンと論理的に理由を説明できていれば気持ちよく受け入れてもらえていたかもしれない。
俺が思うチームスポーツの道徳とは、上の言う事は絶対だと妄信し従うことではない。勝利という同じ目標へ向かって全員の持つ知恵と力を合わせ、共に進んでいくことだ。
そう信じて、今の自分の考えを竹中監督に伝える。
「というわけで、そちらの方が勝利の可能性が高くなると思いますので」
深く息を吐き出し瞠目する監督。さあ、どうなるか……
「よし、わかった。思いきりやってこい。責任は俺がとる!」
「はい!ありがとうございます!」
全く、ウチの監督は最高だぜ。
「でも責任をとる必要はないですよ。この作戦、必ず成功させるんで、勝利監督インタビューの準備をしといて下さい」




