19 準決勝での懸念
桝山商業を撃破して波に乗った俺達は死のブロックを見事勝ち上がった。田舎公立校の快進撃は地方紙にもとりあげられ、結構な注目が集まっている。
「とりあえず初回を無失点、お疲れ様っす」
「サンキュ、でも流石は古治だな。わかっちゃいたけど、全員スイングが鋭い」
そして現在、県大会準決勝の真っ最中。相手は県下三強の一角、古治高校だ。毎年強い古治、投手育成に定評があって特に今年は『しまなみの剛腕』の異名をもつ三年生左腕、辻井を擁している。
この辻井、確か将来プロ野球でかなりの好成績を残したはずだ。そんな全国レベルの好投手をどう攻略するかが、この試合のキーになるだろう。
「ストライク、バッターアウト」
と思っていたら、ウチの四番打者が三球三振に倒れた。速いな、たぶん140キロ以上出てる……
辻井のピッチングに沸く球場。新聞に取り上げられ注目されている俺たちと名門古治の準決勝とあってそれぞれの応援団の他、一般の観客も多い。
いま俺たちがいるのはプロ野球オールスターの舞台になったこともある、夏目漱石の小説主人公の名を冠したスタジアム。そんな素敵な場所で大観衆の下プレーできるのは、野球人としてとても幸せな経験だと思う。
ただ、そんな感情面とは別に、現在、俺には一つの懸念事項があった。大舞台の興奮によるものか、初回、マウンド上での心拍数がベスト値より10〜20程高いまま下がってくれなかったのである。
もちろん、その状態で投げる練習もしてきたのでコントロールが大きく乱れることもなく、アドレナリンの噴射により球威は少し増しているような感覚すらあった。ただ、連投に加えてこの興奮状態だと終盤どこかでガス欠になってしまわないか少々心配ではある。
「ストライク、バッターアウト!」
結局この回、ウチの打線は三者三振に切って取られた。マウンドに向かい脈をとると、やはり普段より若干早い。
「いや、でも条件は相手も同じはず……」
芽生えた不安を振り払うように口の中でも呟く。そう、辻井だって初回から140キロ越えを連発するのは流石にオーバーペース。きっとどこかでバテるし、勢いのあるウチの打線ならそこで得点してくれるだろう。つまり延長戦になる可能性は低い。
逆に俺は両投げだし、強力打線相手に消耗することを考えても9回まではパフォーマンスを維持できるはず……なら、先制点をとられて味方がプレッシャーを感じなくてすむように、こっちも序盤から飛ばそう。
「出し惜しみはなしだ、零封して九回で決着をつけてやるぜ!」
延長戦になった。
次回、4月29日に投稿予定です。




