16.5 エースの条件
八幡野球部の監督である竹中は、スポーツの本質はあくまでも楽しむことだと考えている。そして、遊びは真剣にやるからこそ面白い。
社会人野球まで経験した、いわゆる野球ガチ勢である竹中。その人生経験から、結果はともかく過程では『本気で勝利を目指して努力する』事でしか得られぬものがある事をよく理解していた。
なので、生徒が貴重な高校時代のうち多くの時間を割く野球部の監督を勤める以上、第一目標は常に勝利、そして優勝である。
二位じゃダメなんですかって?
ダメなのだ。
というか、最初から二位でもいいじゃん立派だよ、なんて考えているようだと、だいたい一回も勝てずに何も得ることなく終わる。二位というのは優勝を目指して死ぬ気で頑張った末、ギリギリ届かなかった者だけが得られる称号である。
もちろん、人間形成や精神修養、チームワークも大切だ。しかしそれはあくまで副次的なもので、もしそれらをメインにしたいならボランティアとか座禅とかボーイスカウト活動とかすればいいじゃないかというのが竹中の持論であった。
しかし、悲しいかな田舎の公立校。強豪校と対戦が決まったと伝えた今、所謂『名前負け』している選手が多く見られていた。このままで勝ちを目指して戦うことが難しく、そこには春の大会でメンタル面に脆さが露呈した三年生投手の姿もある。
もどかしい。元の実力はけっこうある選手なのだがこの様子だと桝山商業相手に高いパフォーマンスは期待出来まい。
こういう場面でメンタルを立て直せるかが分水嶺で、後にプロの世界に羽ばたいていったエース達はこんな場面にこそチームに勇気を与える存在だったのだが……
チームを鼓舞しつつ、誰か萎縮していない選手もいないか観察していくと……いた。
湊鴎賀だ。いや、湊だけではない。大樹匠とその他の一年生数名も『名前負け』する事なく闘志溢れた顔をしていた。
「さて……選手から何か一言いいたい奴はいるか?」
「僕から一言よろしいでしょうか」
話を振ってみると、やはり食いついてきた。
「まず、初戦で桝山商業と当たれたのは僕たちにとって結構なプラスだと思います。向こうは春の大会で勝ち上がった分豊富なデータがある一方、こちらの正確なデータは少ないはず……つまり事前対策にかなりのアドバンテージがあります。」
「あー、確かにそうっすね。社会人野球経験者での竹中監督なら、相手に合わせたナイスな攻略法を考えてくれるはずっす。」
調子の良い事を言う奴等だと苦笑が漏れるが、萎縮されるよりよっぽどいい。そして湊の言う通り、桝山商業がこちらの正確なデータを持っていないのは確かだ。ならば一回戦で当たったのは僥倖と考えても良いだろう。
キャプテンの大事な役割がトーナメントグジを引く事なら、監督の大事な役割は試合に出場するレギュラーとベンチ入りメンバーを決めることである。
この日竹中は、周囲を鼓舞する一年生をチームの中心に据えて夏を戦う覚悟を決めた。
次回、4月11日投稿予定です。




