16 キャプテンの重要な仕事
野球部のキャプテンと言うのはチームの顔として、試合前のメンバー表交換や先攻後攻を決めるじゃんけんなど色んな役を任される。その中で最も責任重大なのが、『トーナメントの抽選くじ引き』だ。
現在6月下旬。
そろそろ梅雨明けが近いが、本日は雨。
「みなさん、お二人が帰ってきました」
「キャプテンの表情は、遠くてわかりません」
窓から見張りを命じられていた細川とニックに、全員の注目が集まる。キャプテンと監督を除いた野球部員が集合した視聴覚室は、湿気まじりの重い空気を纏っていた。
それもそのはず、今日は夏の全国高校野球選手権地区予選の抽選日なのだ。もう結果は出ているはずだが、八幡の伝統として詳細は抽選会場から二人が帰って来てから口頭伝達の手はずとなっている。
先輩達は県下で『三強』と言われている清美、古治、桝山商業とは決勝まで当たらず、強豪同士で潰しあってくれたら最高だよなと口にしている。まあ、春の県大会二回戦で消えた俺たち八幡と違ってその3校はいずれも春大会で好成績を残してシード権を獲得しているためそうなる可能性は薄いんだが……祈るのはタダだしね。
負けたら終わりの一発勝負、きれいごとを抜きに本気で優勝を目指す場合、出来るだけ強敵とのマッチアップは避けたいのは自然な発想だし気持ちはわかる。今の俺は少々違う考えをもっているけれど……
「んっ、皆んな集合しているな」
竹中監督とキャプテンが入ってきた、大事なクジを引いてきたキャプテンの表情は……これはどう言う顔なんだろう、よくわかんない。
「先にいっとく…みんな……本当にすまん……」
ああ、ダメなやつだったか。
正直、クジなんて只の運だし多少悪い組み合わせでも人格者のキャプテンを責める奴なんてこのチームにはいないんだが……ちょっと責任感が強すぎて抱え込んじゃうところがあるんだよな、ウチのキャプテンは。
抽選に行く前から死にそうな顔をしておりオカルト趣味の匠に勧められるままラッキーアイテムで身を固めていたけど……将来いつか、悪い奴から怪しい壺とか買わされないかちょっと心配。
「じゃあ、発表するぞ。初戦の相手は…… 桝山商業だ。」
初戦から三強の一角との対戦だった。しかもその後張り出されたトーナメント表をみると、ウチがいる山は比較的強い学校が集まった所謂『死の組』というおまけ付き。
おまけに順当にいけば準決勝で古治、決勝で清美とそれぞれ当たり、三強全て撃破しないと甲子園に行けない非常にタフな組み合わせだ。
竹中監督が『まずは一つ勝つことに集中しよう』的な事を言ってハッパをかけるが、特に三年生の表情は暗く、気持ちが乗れていないのを感じる。この感じ、前世で覚えがあるな……所謂『名前負け』というやつだ。
強豪と当たった中堅校がよく陥いるやつで、気持ちの面で試合前から不利になるという大変宜しくない状況である。
「さて……選手から何か一言いいたい奴はいるか?」
ここでチームとしてメンタルを立て直すのは大切で、こういう場合いつもならキャプテンが前向きな事を言ってくれるんだがクジを引いた手前何も言えなくなっている。他の三年生も少々腰が引けているようだ。ウチの先輩達、皆穏やかでいい人なんだがその分ちょっと闘争心に乏しいところがある……ならしょうがない、俺がいこう。
「僕から一言よろしいでしょうか」
「お、湊か。いいぞ、何でも言ってみろ」
「では僭越ながら……まずキャプテン、とても良いクジを引いてきて下さりありがとうございます。僕は今回の組み合わせ、正直かなりウチに都合が良いと思います」
周りがギョッとしたのがわかる。いや、皮肉じゃないからね、少なくとも俺は本気でそう思っている。それを説明させて頂こう。
「まず、初戦で桝山商業と当たれたのは僕たちにとって結構なプラスだと思います。向こうは春の大会で勝ち上がった分豊富なデータが流出している一方で、こちらの正確なデータは少ないはず……つまり事前対策にかなりのアドバンテージがあります。」
「あー、確かにそうっすね。社会人野球経験者の竹中監督なら、相手に合わせたナイスな攻略法を考えてくれるはずっす」
お、合いの手サンキュー匠。やっぱりコイツは頼りになるなあ。女子マネージャー2人にチラリと視線を送り、話を続ける。
「古張、清美との対戦が遅いのもツイてます。この両校のエースは速球自慢で早い段階であたると攻略は難しい。でも、両校の監督は多少のリードがあってもエース一人に投げさせるタイプだから準決勝以降は球威が落ちるはずです」
「おー、いーいじゃんいーじゃん」
「そ、そうなんですね!」
素直で明るいダリア先輩と何かを察したらしい小梅ちゃんも合いの手。それに釣られてちょっと周りの顔も明るくなった。よしよし、じゃあ最後にもう一言だけ。
「勿論、竹中監督の言うとおり、今考えるべきはまず一回戦に勝つ事ですけどね。ちなみに、昔全国で優勝経験もある古豪の桝山商業を一回戦で撃破したらたぶん僕達、全国規模の新聞に載りますよ。それだけでも先輩達は一生自慢できると思います『俺たちの代は桝山を倒して全国紙に載ったんだぜ』みたいな感じで」
さっきまで暗かった先輩達の目の色が変わったのがわかった。目標設定って大事だからな、どうやら今ので『高すぎるハードル』が『ワクワクする挑戦』くらいまで下がったらしい。その後は、「よっしゃ、やったやろうぜ」とか「キャプテンいいクジ引いてくれたじゃん」とか前向きな意見がではじめ一安心。
後でキャプテンからお礼を言われたが、別に気にしなくていいのにと思う。
俺個人としては本心から言ったセリフだからな。練習試合でちょっとした仕込みもしているし、桝山商業に今の自分の力がどこまで通用するかも試してみたい。
俺が投げる場面をイメージしてみた……三年生の夏を背負うことに緊張はするだろうな、でも不安はない、むしろワクワクだ。
まあ、そのためには何とかレギュラーになる必要があるんだが竹中監督はどんなオーダーを組むんだろうか。
正直、練習試合や紅白戦の成績だけなら投手としてスタメンいけるとは思うが、三年生エースのプライドや積み重ねもあるだろうし……
まあ置かれた状況でベストを尽くすだけだな、うん。でも、せっかくだし出来たら先発したいものだ。




