15.アスリートのための午睡
八幡野球部史上初の女子マネージャーが入部してきた。先日昼に少し話した、秋空ダリア先輩だ。
野球はてんで素人らしいがやる気はあるようで、雑務を引き受けたり、スコアブックの付け方を練習したり、練習中の部員へ声援を送ったりしている。
おかげで部員達のやる気はウナギの滝登り。
実にありがたい。
男というのは単純なもので、自分の彼女じゃなくても女性からの視線や応援があるだけで普段以上に頑張れる生き物だからな。事実、俺も応援されるとめっちゃやる気がでるのを感じる。
観客がいるだけで選手のパフォーマンスはアップするという研究結果もあるし、女子マネ直々の応援となればさらに効果は覿面だろう。特に顔も性格も良くやる気もあって胸もデカいギャルなんて、育成ゲームのサポカに例えるならSURみたいなものだ。
そういえば前世の草野球で、普段あんまりやる気のないおっさん連中も誰かの彼女や奥さんが応援にきた時だけはハッスルプレーを連発していたな。張り切りすぎた結果、肉離れで病院搬送されていたのはご愛嬌。
ただ、女子一人というのは何かと大変そうだ。もう一人くらい真面目で働き者の女子マネージャーがいれば、ダリアパイセンの負担もかなり減るんだろうが……
「まあ、その辺は俺じゃどうにもなんないか。人の心配の前に、まず自分の事をしっかりしないとな。」
現在、自重筋トレのオフ日である月曜日の昼休み。他の平日よりも少し長く仮眠の時間が取れるため、この学校で一番良い仮眠場所はどこか色々探っている最中だ。
ビジネスの世界で『パワーウィップ』として注目されている昼寝だが、プロアスリートにも取り入れている者は多い。理由は勿論『出来る限りリフレッシュした状態で昼からの練習に取り組むため』である。
走るウマ耳娘やパワフルな二等身野球選手の育成ゲームをやった事はあるだろうか?大体ああ言う育成ゲームって、やる気と体力のゲージが高いほど練習効率がアップして怪我もしにくくなるんだけど、それは現実世界のアスリートにも当てはまる。
そして昼寝と言うのは短時間でも選手のやる気と体力ゲージを回復させる効果があるのだ。もう少し科学的に言うと、集中力と反応時間を向上させ運動時の主観的負担度を低下させるということが大規模研究により証明されている。
『疲れる前に休め』
これは近代アスリートの常識である。
と言うわけで俺は今、図書室に来ている。目的は勿論、本を読むため……ではなく静かな環境で昼寝をするためである。教室って騒がしいからな。
「さて、どの辺が一番……っと」
辺りを見回していると、女子生徒が目に入った。
おさげ髪で眼鏡をかけた、子リスっぽい子である。高いところにある本に手が届かず困っている様だ。情けは人のためならずと言うし、ちょっと助けてあげよう。
「取りたい本はこれ?」
「ほぇ……ひょわぁ!!」
「あ、驚かせちゃったか、ごめんね」
「いいいえ、こちらこそごめんなさいぃぃ」
スカーフの色を見ると一年生か。かっちりした着こなしの文学少女って感じだな。たぶんダリアパイセンとは色々と真逆のタイプ。
「いや、全然……ところでこれ、野球小説じゃん。いいよねこれ」
「え、知ってるんですかこの作品」
「ああ、俺も読んだことあるよ。面白いよね」
「ええ!?そうなんですか!?」
前世で完結まで読んだよ。田舎に引っ越してきた一流投手と地元出身の大型捕手のバッテリーのお話で、男同士の友情が熱い話だった記憶がある。彼女が取ろうとしていたのは三巻か、なら二巻までは読了済みだろう。
「二人の関係に燃えるよね」
「そうなんです、すっごく萌えます」
ん、なんかイントネーションが違う気がするけど……まあ気のせいか。
「スポーツものが好きなの?」
「はい。私は運動音痴で根暗だから自分にないものに憧れると言うか……あと濃密な人間ドラマも好きなんです。だから実は八幡の野球部も陰からこっそり見ていたりして......も、もちろん、そんな自分を変えたいと思ってはいるんですけど......ってすすすみません、急に自分語りとされても迷惑ですよね?」
「いや、全然。興味深いし、今のままでも十分素敵じゃんとは思うけど」
あと、なんか今いいこと思いついた気がする。
「すすす、素敵!?」
「あ、自己紹介遅くなったけど俺は湊鴎賀。同じ一年生だよ、よろしくね」
「こちらこそ申し遅れました。春山小梅と申します。」
「敬語とか使わなくていいよ、タメだし」
「は、はい......じゃなかった。うん、よろしくお......よろしく」
春山小梅さんか、素直で可愛い子だな。礼儀的には春山さんって呼ぶべきなんだろうし、実際そう呼ぶけど、心情的には小梅ちゃんの方がしっくりくる。
「春山さんは部活とか入ってるの」
「いえ、本当は文芸部とかあればよかったんですけど八幡にはなくて」
「もしよかったら、野球部のマネージャーとか興味ない」
「ぴゃい?!」
そんな驚くところかな?
「ほら、野球も好きみたいだし、マネージャーなら運動が苦手でも問題ないし。」
「そそそ、そんな恐れ多いです!私なんて陰からこっそり見守らせて頂けたらそれで充分幸せと言うか……」
「いやいや、きっと春山さんが来てくれたら皆嬉しいと思うよ。少なくも、俺は嬉しい。」
勿論、強制はしないけどね。勧誘はこれくらいにしておこう。
「まっ、もし良かったら、一度前向きに考えてみてよ。じゃーね」
てなわけで笑顔でお別れ、あとは小梅ちゃん次第だ。
無理に誘い続けるのも悪いし、何よりそろそろ昼寝しないとだからね、俺。




